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「商店会との協働」坂下町
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商店街昼市のオープニングを飾る小学生のロックソーラン
 町の高齢化が進み、空き店舗が増えた坂下町商店街。富山県高岡大仏のお膝元だが、早朝地元の農家の人たちが開く朝市が終わると人気のない通りになる。ここでの勝手連仕掛け人は鈴木賀津彦さんと谷内勝彦さんの二人。鈴木さんはこの通りに面して事務所を構える北陸中日新聞高岡支局長で、この寂れた状況を何とかしたいと商店会理事長(当時)の谷内勝彦さんに声をかけたのが、そもそもの始まりだ。
 一昨年の夏、ちょうど商店街の朝市20周年と国体の地元開催が重なり、記念行事を企画したときのこと。国体の開会式で予定されていた地元の小学生による獅子舞が雨で流れたが、ならばその発表をしてもらおうと谷内さんが学校に声をかけた。谷内さんは元PTA役員でもあり学校もすんなりOK。記念朝市のオープニングを飾った。
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ご苦労様でした。その日の売り上げを報告してあいさつをする高校生と谷内さん
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初の昼市が成功し、ほっと一息する仕掛け人の面々
 この時たまたま朝市に来ていた子どもたちが、「自分たちもやりたい」と担任の先生に申し出たことなどを受け、谷内さんは「今度は、子どもたちが参加しやすいように」昼市を企画。昨年9月、「やわやわ参道市」として地元を巻き込んだ一大イベントとして開催された。オープニングは近隣の小学校児童による「よさこいソーラン」。高岡商業高校生徒の1日体験店長も企画されるなど、学校と連携した取り組みが広がっていく。
 開催に当たっては、高岡工芸高校の生徒に店舗のダイレクトメールのデザインを依頼し、店主が20部ずつお得意さんに配り、当日来店をお願いするPRも行った。昼市当日は、あいさつの練習から値引き交渉、売り上げの報告まで“実地体験“を積んだ商業高校生たち。写真入りの名刺を会場であっという間に作って手渡してくれる。「ちょっと疲れたけど将来の役に立つから」とあちこちで笑顔が返ってきた。
 この取り組みには、地元のYMCAや地域通貨を始めているNPO関係者も参加し、行政も活動に賛同して受付窓口のような役割を果たしているという。また当日は「おもしろそうだから」と私的に見に来ていた佐藤孝志市長の姿もあった。
 学校も地域の一つ。若者から高齢者まで楽しくふれあうまちづくりを目指す活動に、学校協力勝手連とは学校の中の活動だけではない、そんな広がりを感じさせてくれた。
「土日楽校」で休日をサポート
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紙芝居中の安野さん。
このクイズがわかる人?
ハイ、ハイ、ぼくに当てて〜!
 
 次にご紹介するのは、とうとうそれまでの学校とのつながりをもとに、学校の外での受け皿「土日楽校」をつくろうと立ち上がった男性。その男性とは、大阪府豊能郡、四方を山に囲まれた能勢町で新聞販売業を営む安野侑志さん、58歳だ。その話しぶりから生粋の大阪人と思いきや東京生まれの東京育ち。昭和40年代に大阪市で紙芝居業の免許制度が始まり、本業のかたわら、街頭紙芝居を始めて以来、地域の子どもたちをずっと見続けてきた。
 「オッサン、おまけしてや」「このオッサン、おだてりゃおまけするんや」、安野さんの軽妙な語り口と大きな声に、子どもたちもいつの間にか乗せられていく。丁々発止のやりとりが子どもたちとの自然な心のキャッチボールになっている。そんな安野さんの周りにはいつも多くの人が集まる。街頭紙芝居には息子さんの友人や近所の若者がたくさん手伝っている。弟子入りまでしている高校生や主婦もいるという。また、地元の小学校へと紙芝居作りの指導にも行く。子どもだけでなく教師の研修会に講師として出向き、子どものひきつけ方を伝授する。
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お楽しみの 水あめ配りを手伝う若者達
 兵庫県川西市教育委員会では、こんな安野さんの紙芝居に注目し、地域の子どものコミュニケーションの場にと、98年4月から「スポンサー制街頭紙芝居」を事業としてスタートさせた。川西市内の公園や公民館で「オッサンの紙芝居」を見た子どもは、5000名に近い。
 そんな安野さんが、昨年の春にスタートさせたのが「土日楽校」だ。
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安野さんのあらすじに合わせる絵を担当する息子さん(右・27歳)。
建設省(当時)から環境問題の紙芝居も依頼された
 「83年の夏に、自分の子どもとその友達数人をつれて大阪府能勢町にある府立総合青少年野外活動センターにキャンプに出向いたことから始まりました」という活動は、友達を誘ったり新聞に紹介されたりで参加者が次第に増え、以来17年間「元気人間開発キャンプ」として、春休み・ゴールデンウイーク・夏休み・冬休みの期間中に年4回実施されてきた。卒業生の中には、現在町会議員として町づくりをしている人もいれば、「ポパイ」と呼ばれる指導者側になって活躍している人もいるという。
 このキャンプが「土日楽校」の基礎。2000年10月には運営の母体となるNPO法人少年会議所も立ち上げた。青年会議所があるなら、子どもが自分たちで考え行動する場があってもいいのでは、というのが名前の所以だ。「土日楽校」は月1回の開催から、最終的には毎週土日の開催が目標。
 「学校も4月から完全週休2日になりますが、親が土日に休める子ばかりじゃない。そういう子どもたちが心安らかにしていられる受け皿としての居場所が必要」と安野さんは語る。「塾、ボーイスカウト…、いろいろあるけれども、その一つに土日楽校があってもいいのでは」と語る安野さんの目はいつも地域の子どもたちに向けられている。
 
 取材を通じて改めて学校が地域とつながることには、さまざまなプラス面があると感じた。何より子どもにとって多様な学びの場が提供される。教師にとっても幅広い価値観を享受することで指導の幅が広がる。また参加している地域の高齢者等の生きがいにもつながる。反面マイナス面も指摘される。大阪・池田小学校の事件以来、人の出入りに対して安全対策が強化された。しかしそんな時こそ民生・児童委員、PTAなどの出番である。
 学校の問題を地域の問題としてとらえ、自ら働きかける学校協力勝手連。地域には私たち教師には想像もつかない、魅力的な人材がたくさん。ぜひ積極的に働きかけていただきたいと切に願う。さぁ、皆さん「学校へ来てください!」
教育委員会の傘下にない私立学校では…
 「昔は地域とのかかわりは多くはありませんでしたが、今は生徒は遠くから通学してくるけれども私立の教師はほとんど転勤がないので、むしろ公立より地域との連携はとれているように思います。地域の伝統芸能を代々引き継いだり、ボランティア活動をしたりという交流も進んでいる。総合的な学習の時間に限らず、これからは私立も地域との連携をさらに進める傾向にあります」
(日本私学教育研究所長・堀一郎さん)
 
 教育界は大きく変革しようとしている。ここ20年間の学校を取り巻く変化の流れを簡単に表にしてみた。
 1984年 「画一的な教育から個性重視の教育へ」を掲げて「臨時教育審議会」発足
 1987年 「生涯学習」「変化への対応」等(臨教審答申)
 1989年 現行学習指導要領実施「生活科」新設される
 1996年 「ゆとり」「生きる力」「学校週5日制」など(中央教育審議会答申。教育課程審議会に諮問)学習指導要領全面改訂へ「家庭や地域社会における教育との連携」
 1998年 新学習指導要領告示(小・中学校)
→2002年度全面実施
 1999年 新学習指導要領告示(高校)
→2003年度全面実施
 
 学習指導要領とは、全国どこでも一定の教育水準が保たれるように学校がカリキュラムを編成する基準として定められているもの。およそ10年単位で改訂される。今回の改訂の目玉の一つとして、小学校3年生以上から高校3年生まで「総合的な学習の時間」が新設された。
寄せられたアンケートから
学校開放と地域参加について
こんな活動しています
 デイサービスセンターの介護福祉士です。施設見学に訪れた小学生からお年寄りと交流したいという要望が寄せられ、お年寄りと児童との話し合いの結果、藁ぞうりやお手玉、昔のおやつを一緒に作りたいという意見が出ました。また、デイサービスの運動会で児童がソーラン節を踊ってくれることになり、今からとっても楽しみです。
(京都府 49歳女)
 
 私どもの学区福祉委員会と井田小学校児童の連携で、2月に1人暮らし老人宅を訪問してお年寄りからも子どもからも好評だった。地元のマスコミ(岡崎ホームニュース)でも紹介された。
(愛知県 68歳男)
 
 数年前の事例ですが、学区の中学で数人の父親による自分の仕事(パイロット、銀行マン等)の授業時間がありました。私の体験として、小学校での環境教育取り組み・児童の研究発表過程の中で内容についてのアドバイザーとしてお手伝いをしました。学校・家庭・地域三位一体の取り組みが健全な子どもの育成につながると思いますし、現役でもなく孫もおりませんが、地域の一因としてお役に立てればと思っています。
(神奈川県 62歳女)
 
 私は2年前から地域の小学校に家庭科の時間のミシンの使い方や教材のアドバイスに、また総合学習で「すいとん」作り、戦争の話やその時代の遊びなどを教えたりしています。学級崩壊など問題のある学校も多い中で、今まで体験した学級の児童たちはとても素直で礼儀正しいという印象でした。私たちの地域の小学校は人材バンクを作り、地域の方々に多方面の参加を進めています。
(千葉県 61歳女)
 
 平日の昼は学校用、それ以外の日と時間は市民が自由に使えるという学校と市民センターが背中合わせの建物ができ、好評です。インターネット講習会も小学校でやっていていい傾向だと思う。校庭も教室も地域に開くのが一番。
(68歳男)
 
 私の住んでいる小学校では1年位前から2か月に1度ほどの割合で、図書室で地域の母親たちで作っている会が読み聞かせや劇などをやり好評です。特に顔見知りのお母さん劇は真剣に見てくれやりがいもありこちらも楽しいです。
(愛知県 52歳女)
 
 地元の中学校から先生や父母とふれあいを計画しているので協力がほしいという依頼を受け、婦人会や老人クラブや趣味を持ったボランティアの人たちで協力し学校行事の中で実施しています。
(愛知県 72歳女)
 
 2000年度よりふれあい学級という名目で町全体として4つの小学校へその地区地区で月2回70歳以上の老人が集まり、カリキュラムにより生徒と交わったりその他の勉強をするようになりました。足の不自由な方には町でバスを用意してくれている(実費負担)。運動会、敬老会もすべて小学校で子どもとの交流があり大変良いことだと喜んでいます。
(長野県 88歳女)
 
 小学校と公民館が隣同士なので、凧づくりや手作りはがきなど児童が公民館イベントと一緒になって遊んでいる。
(長野県 64歳女)
 
 兵庫県では「トライやるウイーク」で地域の人を講師に勧めている。以前から小学校の社会科などでリサイクル(環境学習)では、紙すきやおもちゃ作りをしています。私自身は「うらしま太郎」(高齢者疑似体験)のインストラクターとして小中高校へ出前授業もしています。
(兵庫県 57歳女)
こんな活動があればいい
 戦争の体験談やご老人の気持ちなど、ぼくたちには経験したことがない未知についての話で、授業に参加してほしい。
(東京都 14歳男)
 
 授業参観以外は直接参加できない状況。まずはクラブ活動への自由参加による子どもや地域の人々や教師とのコミュ=ケーションによる相互理解。次に不登校児童等へのアドバイスを共同して実施すれば効果が上がる。
(愛知県 59歳男)
 
 警察官として常日頃交通指導・取り締まりを実施していてもっとも痛感するのは自己中心的な運転。突き詰めれば人と人とのかかわり方、道徳の欠如に至ると思います。小学校から交通安全教育を「総合的な学習の時間」のカリキュラムに組み入れ、真に学校と地域が一体となったふれあい社会を実現したい。
(神奈川県 40歳男)
 
 空き教室等を利用し、高齢者も自由に出入りができたらいいなと思っています。特に休み時間等に児童生徒と交流し、お互いに年代の特質などを理解し合うなど実現したらいいなあと思います。
(新潟県 75歳女)
 
 学校に給食設備のあるところは食事の提供を含めて開放されるとよい。老人にとっても学校施設においても価値がある。
(東京都 77歳女)
 
 体育館・図書館などの施設を利用することで、学校と一般市民の間にコミュニケーションが取れるなど有意義だと思う。校庭に花を植えるお手伝い、PTAと一緒に学校の清掃を年に2回ぐらいボランティア活動として行えば学校の「面」が見えてくるようになると思う。
(岡山県 64歳女)
 
 学校の空き教室で学童保育をして、地域のボランティアで運営交流はできないかしらと思う。
(鹿児島県 50歳女)
こんな現状、これが課題
 退職してからわかること、見えたことがいくつかあります。特に夏・冬などの休みのあり方などについて。また授業に遅れがちな児童、または障害を持っている児童への援助などにも参加したい希望がありますが現在は受け入れてもらえません。
(静岡県 73歳女)
 
 地域に開かれてるとはいえ、まだまだ学校は閉鎖的で校内の様子を見ると教育指導に教師の生徒に対する威圧的態度が気になる。親も子もそれが過ぎていると気づいているものの進学を控え、内申書に影響するのではないかと考え言わないで(言えないで)いる。一般の人が学校にかかわることで、教師も自身の言動について意識し、より良い関係をつくれるようになり、親も本音を伝えやすいような雰囲気づくりができればもっと良くなっていくと思う。
(岐阜県 40歳女)
 
 大阪八尾在住の折には小中高校等へ社会福祉協議会の方と福祉体験講座に年3回ほど参加した。思いやりと奉仕精神だけを教える先生もいて、もちろんそれも大切だが「してあげる」というのではなくもっと自分のこととしてとらえてほしいと思った。山口へ引っ越して一度小学校に参加させてもらったが、尊い精神と美しい心で…、と言われたときちょっと戸惑いました。
(山口県 63歳女)
 
 施設の開放には管理責任が常に問題になる。学校開放で先生方の負担が増大するであろうし、利用者側のモラルと提供する側とのバランスが上手くいかないとダメですね。そのための機関として地域のNPOが担うのか関係者の思いきった意識改革がなければと思う。
(神奈川県 73歳男)
 
 学校施設を開放すべきだとは誰でも思う。ただし夜間の場合は警備保障会社と提携しているのが多い現在、借り主責任者に一任できない場合がある。使用場所がその保障範囲から独立していることが必要。
(無記名)
 
 大阪の中学から依頼を受けて2回ばかり、仕事の話(海外駐在)をした。間に入って世話をしていただいた先生には事前から様々な準備を重ね、授業後も生徒一人ひとりの感想文集を作成して届けてくれ、大変なこ苦労だったと思う。こんなに準備と事後の整理など本来の仕事以外にも雑用をやるとなると他の先生方は尻込みすることになるのでしょう。
(兵庫県 61歳男)
 
 地域の教育研修集会など一般参加できるものには時間と体力がある時は参加するようにしている。そこで感じることは教師の多忙さ、そしてそれによる余裕のなさである。学校5日制への移行で授業時間が減り、総合的な学習の時間の実施、教師の高齢化などどれ一つとっても負担が増え、時間的精神的余裕のなさが増すように思える。子どもたちの健全な発達を後押しするためにも、教師児童生徒とも孤立させない方法を考える時期に来ていると思う。教育委員等の公選制も大事だと思う。
(埼玉県 59歳女)
 
 学校は立ち入りがたい存在という気持ちがある。たとえば市の広報などに空き教室情報や活動情報、アイデア募集を載せるなどして近寄りやすい雰囲気をつくる工夫が必要。
(神奈川県 77歳男)
学校開放に思うこと
 池田小の事件はショックでした。地域ぐるみで地域の子どもを守るといっても、実際は他人の子どもは何をしていようが知らんぷり。その親にも子どもにも注意するのを避けている大人の多いことに憤慨している。だからといってこのままには絶対しておけない。
(大阪府 67歳女)
 
 子どもの在学中はPTA役員やいろいろな役を逃れることに懸命だったのに、子どもが学校から無関係になると自らの遊び場所として学校の場を安く手にいれようとするのは身勝手。学校開放とはあくまで教師の自立が確保され、その教師が必要とする人材のみに許されるものであると私は思う。自らの研鑽を目指してのものであろう。
(福岡県 65歳男)
 
 私は学校こそ地域社会の核になるところだと思う。住民が簡単にいけるところであるからです。これからは古い体質の教育界に地域からの新しいパワーを注入してもらいたい。
(新潟県 76歳男)
 
 池田小学校事件後、ますます学校の閉鎖性が高まる方向にあるのは逆行かと憂える者。子どもたちは地域皆の子どもと受け止め、幼老の交流を盛んにするチャンスをとらえて、行政のカリキュラム改定を進めてほしい。学校開放が凶悪事件防止になる。
(福岡県 62歳女)
 
 池田小の事故があっても地域住民との接触を大切にすることを第一に開放のための努力をすべき。警戒も度を過ぎるとかえって子どもや親・地域のための今までの努力は倍旧に悪化沈滞する。
(神奈川県 78歳男)
 
 私にとっては未体験の分野だが、学校教育及びそれを取り巻く環境整備の重要なことは理解できるので、可能な限りボランティアとして力を尽くし、役に立ちたいと考える。同じ考えの人々が老若男女問わず多数いることを信じて疑わない。
(東京都 67歳男)








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