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特集 新しいふれあい社会を考える
学校協力勝手連
「学校へ行こう!」学校開放と地域参加
(取材・文/川尻 富士枝)
 今年4月、いよいよ「総合的な学習の時間」が小中学校で一斉にスタートする。この時間の新設により、地域の教育力を学校に生かそうという動きが徐々に広まりつつある。地域の人材や環境を生かしてその学校の特色ある活動をすることが狙い。先行して実施している学校もあるが、地域の人材確保に一苦労しているところも多い。地域の人が学校に入るのを敬遠する教師もいる。学校を開くとは、地域が教育活動に参加するとは、どういうことか。さわやか福祉財団スタッフでもあるが、本業は小学校教諭という筆者の目から見た学校協力勝手運とは…。
問 学校開放は必要だと思いますか?
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「総合的な学習の時間」とは…
 これまでとかく画一的といわれる学校の授業を変えて、(1)地域や学校、子どもたちの実態に応じ、学校が創意工夫を生かして特色ある教育活動が行える時間、(2)国際理解、情報、環境、福祉・健康など従来の教科をまたがるような課題に関する学習を行える時間、として学習指導要領に新しく設けられたもの。各教科等の学習で得た個々の知識を結び付け、総合的に働かせることができるようにすること等を目指している。「総合的な学習の時間」の時間数・単位数は、小学校では3年生以上から週当たり3時間程度、中学校では週当たり2〜4時間程度、高等学校では卒業までに3〜6単位配当される。
 
 2001年8月に行われた第7回スクールボランティアサミットには、既報のとおり学校関係者が多く参加した。会場で9月号と同じ内容のアンケートを呼びかけたところ、68通が寄せられた。一方、「さぁ、言おう」一般読者からの投稿数は本稿執筆時点で43通といつもの半数弱。ということは、地域の学校への関心は今ひとつ!?
 我々のいう「学校協力勝手連」などいるのかと疑心暗鬼にもなりつつ、アンケート結果を出してみた。合わせて111通中、現役教師48通、一般(地域)63通。「賛成」98%という結果に気を取り直し、勝手連探しを試みたところ、「目からウロコ」の勇猛果敢な人たちが存在している。これはぜひ、読者の皆さんにご紹介しようと、まずは、大阪から。
「学校が嫌やゆうても押しかける」十三あたりわてらの集い
 大阪の十三といえば、知る人ぞ知る歓楽街。十数年前、十三中学校は大阪市内でも市立中学129校中一番荒れていたという。たまたま雑誌で十三の職人さんの特集記事を目にした小竹武さんは地元のお医者さん。先代から引き継ぎ十三中学校の学校医を50年以上務めている。この記事をきっかけに、小竹さんは、1990年12月、地元の職人さん30人ほどに声をかけて忘年会をした。その会の名前として付けたのが「十三あたりわてらの集い」だ。集まったメンバーは、宮大工や弓具・髪かつら等の製作、ブリキ職人などをはじめ皆一流の腕を持った人たち。「自分たちの地域にはこんなに立派な日本で1、2を争う技術を持った人たちがいることを伝えられたら、また違う価値観に触れる機会になる」と考え、お店の人たちにも声をかけて、十三中学校に押しかけ授業をやろうということになった。
 
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和菓子職人2代目も参加
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「帯はこうして結びます」
着付け教室の先生の指導を受けて
 学校には校長とPTA会長を通じて話を持ちかける。ならばフレッシュな1年生からやってみようと話がまとまり、6クラスを6名が講師として担当して、各1時間の授業を行った。1991年2月のことである。内容は各人が得意とする専門分野だ。日展で特選を取った話や歌舞伎役者らが使う髪かつら製作の話、もちろん小竹さんも「医者になるまでの苦労」を語る先生役となる。日頃の授業とは違う「生きた教材」に、ちょっと見た目はワルたちが階段や廊下に座り込み、「お前らのクラスはどんなことやったんや?」と話し合う姿があちこちで見られるようになったという。そして次年度は1・2年、その次は1・2・3年と徐々に広げていった。思いがけない効果は生徒間での情報交換が自然に行われるようになったこと。荒れていた校内は次第に落ち着いていった。
 こうして年に1度、「学校がいややゆうても押しかける」と言って始めた押しかけ授業は2001年度で12回目。1999年度朝日新聞の第1回のびのび教育賞も受賞した。受賞の対象はほとんど学校という中で市民が受賞するのは珍しいケースだ。
 「学校医として学校の職員でもあり、町の開業医でもあるため、みんなすっとついてきてくれた」と語る小竹さん。その広い人脈が成功の秘訣の一因だろう。
 地域がここまで積極的になれば学校も黙ってはいられない。「今年度は保護者にも授業を受け持ってもらい、参観も自由です。いずれは教師も自分の得意分野で参加したり、学年やクラスの枠を超えて生徒が授業を選んだりするようにしていきたい」と熱く語る十三中学校の福島信也教頭の言葉に学校側のやる気が伝わってくる。
 昨年喜寿を迎えた小竹さんの勝手連は、とどまるところを知らない。「校長名で商店街の若旦那に教育委員会の生活指導員の辞令を出すように働きかけましてね。実際に春休み、夏休みの生徒の非行防止に役立っているんですよ」。笑顔で語る瞳の奥には次なる仕掛けが見え隠れする。
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穏やかに語る小竹さん
教師が一般人に授業参加を求める声は意外に多い?
 ここでアンケート結果に戻ろう。
 世間一般には、多くの公立学校は閉鎖的で授業に地域の人をお願いするなどあまり考えられないという印象があるのではないか。しかし今回のアンケートでは教師側の参加期待意欲が非常に高かった。そうした意識の高い先生方が集まったシンポジウムでのアンケートというプラス要素はあっただろうが、別に尋ねた「学校のクラブ・部活動や授業等に参加した(してもらった)ことはありますか?」という質問でも、教師33名・一般30名が「ある」と回答、今後の参加意欲と合わせると7割から8割の人が地域参加に賛同している。
問 学校開放に期待するものは何ですか?
もっとも関心がある内容を1つお選びください。
(内が一般、外が教師の割合)
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 ただし、活動内容はまだまだ検討の余地がありそうだ。寄せてくれた活動内容を見ると、いずれも学校側からの働きかけによるものがほとんど。現状の活動が「同じような内容になりがち」なのもうなずける。教師も地域の柔軟な考えに耳を貸して学んでいく姿勢を持たなければいけないと改めて痛感した次第。
問 学校開放と地域参加で、特にどんな効果を期待しますか?(2つまで)(単位・人)
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問 学校と地域の連携には何が必要だと思いますか?(複数回答)(単位・人)
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