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まちのお医者さん最前線 9
 川崎幸クリニック院長 杉山 孝博
すぎやま たかひろ
1947年愛知県生まれ、東京大学医学部卒業。川崎幸病院副院長を経て現職に。在宅の高齢者宅等を自転車で往診する銀輪先生として、また「ぼけの専門家」として地域医療に情熱を傾ける。
 
快適に過ごせる部屋の環境づくり
 高齢者介護の三原則として、「継続性の尊重」「残存能力、潜在能力の尊重」「自己決定の尊重」を挙げることができる。生活をなるべく変えないですむようサポートする、過剰なお世話を避け、補助具や住環境を整えることによって、残された能力をできるだけ引き出す、自分の人生の在り方は高齢者自身が決め、まわりはそれを尊重することがその内容である。
 どんなに優しく世話してもらっても、自分でできればそちらのほうがよいに決まっている。毎回食事をベッドに持ってきてもらうより、手すりや車イスなどの利用で食堂まで行って家族一緒に食べるほうを望むだろう。病気や障害によって能力が限定されても、機能の低下や社会生活の障害を乗り越えることは可能である。自立のための環境整備という視点が重要となるのである。
 転倒や閉じこもりが寝たきりや痴呆などの誘因として挙げられるが、その予防のためにも環境整備は重要な課題である。
 環境整備の第一歩は、段差をなくす、手すりをつける、足元に物を置かないなど、安全性の確保と移動しやすさへの配慮である。
 柱に手すりを2〜3本付けただけでそれにつかまって立ち上がりトイレに行けるようになった患者さんをたくさん知っている。玄関や風呂場、部屋の入り口に手すりをつけることで次の動作がスムーズに行えるものである。私の知り合いに介護用品ショップを経営している人がいるが、彼曰く、「人生の節目毎に(不惑、還暦など)手すりを1本ずつつけるべきだ」。至言だと思う。
 日本の住宅では手すりをつけたくてもつけられない場合があるが、家具などを配置してつかまるようにしてもよい。
 次は、福祉機器を上手に使うことである。運動麻痺などがあると床から立ち上がることはかなり難しいが、ひざを曲げると足が床につく高さのベッドから立ち上がることはそれほど難しいことではない。移動バーのような補助具をベッドに取り付けると立ち上がりはさらに楽になる。車イスやポータブル便器などに移動することも可能になる。電動リフトを使えば寝たきり状態の人でも車イス、ポータブル便器や長イスなどに容易に移動させられる。最近はいろいろな福祉機器が開発され使用されるようになった。展示場や介護用品ショップ、パンフレットなどでどのような機器があるかを見ておくようにしたいものである。
 部屋の配置としては日当たり、静寂などいろいろ挙げられているが、大切な点は、食事・排泄・入浴など日常生活ができるだけ便利であること、家族や知人などと交流しやすい場所であること(居間の隣や、場所が狭ければ居間にベッドを置くなど)、寝たきりになると臭気がこもりやすくなるので通気がよいことなどであろう。








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