喜・涙・笑 ふれあい 活動奮戦記
NPO法人 WAC清水さわやかサービス(静岡県)
介護保険でできることは限られている。だからこそ、生活の安心や心の充実をカバーする助け合い活動を広めていきたい
今年4月に出かけたお花見
「私事になりますが、3年ほど前、腰の手術で1か月近く入院しましてね。ところが、我が家はあいにくの男所帯。昼間はみな仕事がありますから、洗濯や食事などの身の回りの世話もそうそう頼めない。それで、これまでの活動で貯めた時間預託を使って、毎日2時間ほど病院までサービスに来てもらったんです。“困ったときはお互いさま”を掲げている当会ですが、このときほどそのありがたさが身にしみたことはなかったし、利用者の立場に立つことで得るものも多かった。そして何より、年を取ったときにもこんなふうに助け合って生きていきたいと改めて感じたことが、その後の活動の底力にもなったように思います。ふれあい社会を構築するという“志”を同じくする仲間がいる幸せは、何物にも代えがたい私の宝ですね」
テキパキとした口調でこんなエピソードを語るのは、結成7年目を迎えた「WAC清水さわやかサービス」の理事長を務める鈴木明与さん。
両親の介護に追われた経験から会の立ち上げを決意
鈴木さんは3人の子育てをしながら約20年間にわたって、両親の介護に携わってきた経験の持ち主。それが少子高齢化社会に目を向け、そして会を立ち上げるきっかけへとつながっていったという。
「1974年に父が脳梗塞で倒れて半身麻痺となり、さらにその父の介護をしていた母が入院。
一人っ子だった私と家族の生活は激変しましたが、当時はヘルパーさんの存在すら知らず、寝たきりにさせたくない一心でリハビリに散歩の介助にと、頑張って取り組みました。そんな中で93年、ようやく清水市にも介護者を支える「介護家族の会」ができましてね。ところが、その会員にさせていただいた直後の父の死。心にポッカリと穴が開き、なかなか立ち直れないとき、社協や介護家族の会の方々が声をかけてくださいまして。それで少しでもお役に立てるのならと、ボランティアとして活動を始めたんです」
ところがいざボランティアとして要介護者のいる家庭に出向くと、無償がゆえの問題点が見えてきた。どの家庭も必ずといっていいほど、お茶菓子やお土産を用意して待つなどの気兼ねや気遣いを見せる。これではせっかくの好意も生かしきれないし、介護家族も大変。そこで「もっといつでも気軽に利用できるようなシステムが必要と漠然と考えていたときに出会ったのが、堀田力理事長さんと長寿社会文化協会(通称WAC)の田中尚輝理事。一期一会といいますが、お二人の理念と生き方に感動し、羽が生えたように各地の研修会に参加。そして幸せに暮らせる社会を形成するためには市民レベルの活動が必要と、95年4月、仲間とともに会を設立したんです」
事務所移転を契機に、デイサロンを開設
そんな同会では「学びと実践」を目標に掲げ、介護研修会と在宅支援活動を繰り返し実践。カラオケ教室や料理教室なども開催して、会員の交流・親睦を図り、新入会員の入会促進も行った。また毎月、運営委員会とケース検討会を開いて会の方向性や位置づけなど在宅支援活動のきめ細かいフォローをしながら、助け合い活動の自信と信頼関係を築くように努めたともいう。その結果、地域民間で初めてのホームヘルパー養成研修の開講や地域かんぽ助成事業の介護研修会の開催など、徐々に地域の中での存在感を示すようになり、活動量・会員数ともに増加していった。
講師を招いての学びと実践
2級ヘルパー講座には初めて男性ヘルパー3名が受講
1995年4月 |
「WAC清水さわやかサービス」設立 |
5月 |
月1回の介護研修会を開始 |
1996年1月 |
ホームヘルパー養成研修(3級課程)開講 |
1997年3月 |
県共同募金会より送迎車を配分 |
8月 |
全労済よりパソコン一式助成 |
1999年1月 |
日本財団より福祉車両を配分 |
10月 |
ホームヘルパー養成研修(2級課程)開講 |
NPO法人申請 |
事務所移転 |
2000年2月 |
NPO法人格を取得 |
9月 |
「デイサロンさわやか」開設 |
2001年6月 |
介護保険による通所介護(デイサービス)開始 |
7月 |
介護保険による訪問介護(ホームヘルプサービス)開始 |
そして設立4年め、1つの転機が訪れた。NPO法人格は取得するが、会の設立趣旨はあくまでも助け合い。介護保険事業には参入をしないことを同会全体の方向性として決定したところ、事務所の貸主から「介護保険事業者にならないならば、年内に事務所を移転してほしい」と告げられたのである。
「すぐに新たな事務所探しに取りかかりましたが、これを機会に事務所内にデイサロンを開設しようという新たな目標を定めましてね。というのも、以前から在宅介護活動を通して、“娘のところに引っ越してきたはいいが友達がいなくて寂しい”“病気で杖歩行となったこの身では出かけられる場所もない”といった声を聞いていたため、気軽に出かけて、1日を楽しく過ごせるような場も必要だと感じていたからです。ところがどこの支援もない市民互助団体ゆえ、お金はない。安価で貨してくれるようなところもなかなか見つからない。
マンパワーは担えても、箱物の確保は厳しいとつくづく感じました」
サッカーさわやか広場(2000年10月)
福祉のまつりで高齢者疑似体験コーナーを受け持つ
それでも夢と希望を捨てずにアンテナを張り、探し続けたところ、タクシー事業協同組合から事務所提供の申し出を得ることができた。そして事務所移転に伴い、2000年9月には主に介護保険の要介護認定外の高齢者や障害者を対象とした「デイサロンさわやか」を開設。
「サロンにはお年寄りはもちろんのこと、赤ちゃんを連れた若いおかあさんが来たりと、それはにぎやかな毎日。家庭菜園で作った野菜の差し入れをキッチンボランティアが調理してくれ、参加したメンバーみんなで楽しくおしゃべりをしながらいただいたり、ゲームやカラオケを楽しんだり…。こうしていろいろな世代の人と交流を持つことが生きがいになり、健康維持となり、寝たきりの防止にもつながるように思いました」
デイサロンの中でのゲームのひとコマ
福祉車両「夢ふれあい号」の助成を受けて
NPOだからこそできる活動にこだわりたい
そして、この事務所移転に伴うデイサロンの開設に続くもう一つの大きな転機は今年6月。これまでの助け合い活動だけでなく、通所介護そしてそれに続く訪問介護と、2つの介護保険事業への参入に踏み切ったことである。制度が浸透するにつれ、利用者から「WAC清水でも介護保険を使えるようにしてほしい」とのニーズが高まるなど、社会の変化を肌で感じたことがその理由だという。実際、介護保険デイサービスでは、助け合いで来ていた人の半分程が介護保険に切り替わり、保険が使えないならと一度はデイサロンを離れていった人もまた戻ってきた。だがこの参入によって、会は運営面での基盤を築けたものの、鈴木さんの心中には複雑な思いがある。
「介護保険はもともと在宅介護を支えるために生まれた制度のはずなのに、ふたを開けてみれば施設介護を望む人のほうが多く、どこの施設も空き待ち状態。それは介護保険の枠内ではできることが限られているので、とても在宅を支えられないという証拠でしょう。しかも施設に入ることはあくまでも介護側の都合であって、お年寄り自身が望んでいるわけではない。そのギャップを埋めて、住み慣れた地域で誰もが安心して暮らせるようにするには、やはり枠外の活動をもっと活発化させることが必要だし、その役割を担うことこそが、私たちのようなNPO団体の使命ではないかと思うんです」
それゆえ今後は、清水市内にまだ3団体しかない助け合いの組織を増やすための支援に力を入れるとともに、介護保険デイサービスとは別に自立・要支援のお年寄りのための助け合いのデイサロンも開設したいとのこと。
「そのデイサロンはたとえば駅前商店街のような人の集まるところにつくり、地域の人や子ども、買い物客などが気軽に立ち寄ったり、交流できるようにするなど、地域の活性化も視野に入れた活動ができればと思っています」
人にやさしいまちづくりが地域社会に広がれば、お年寄りは元気で生きがいを得られ、子どもたちは人を思いやり、人との交流により広い視野に立って考えられる人に成長でき、温かなふれあい社会も実現されることだろう。NPOとしての奮戦を続ける同会のさらなる発展を期待したい。
デイサービスでの昼食風景
静岡県清水市に本拠地を置く「WAC清水さわやかサービス」は、日常生活の中で一人ではできない小さな手助けがほしい、地域の中で安心して心豊かに自立して暮らしていける社会、人と人の心がふれあって温かな思いやりのある社会、「ふれあい社会」を目指して「困ったときはお互いさま」をモットーに活動をしているNPO法人。主な事業内容は [1] 介護・介助、家事援助等の在宅支援、 [2] 通院や外出時の送迎・介助等の移送サービス、 [3] デイサ□ンさわやかの運営、 [4] 訪問介護員(ホームヘルパー)養成研修の開催、 [5] 研修会、講習会の開催など。会員になるには入会金2000円と年会費3000円が必要。サービスの利用料は1時間700円(チケット制)。サービスを提供した会員は、謝礼金として1時間600円を現金で受け取るか時間預託をするかの選択ができる。公的介護保険での対応も可能。 (
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