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NPOの果たす役割とは
NPOという新たな拠点から共生循環型のまちづくりを模索
 さて、これまでに紹介してきたNPO活動に共通するのは、「よりよい暮らしやすい社会を目指す」という視点だろう。では、その先にあるものは何なのか。
 それは前出のCS神戸の活動の発展過程そのものに見られるように思える。再び中村さんに話を聞いた。
 「私たちの活動は当初、震災で家族をなくした、家をなくした、仕事をなくしたといったダメージが大きかった人たちを元気づけることから始まりました。彼らの生きがい、そして自立を支援するために、家の補修や運転など同じような技術を持つ人たちをグループ化し、地域に貢献するような“仕事”を生み出す仕組みづくりをしたんです。
 これが終息してくると、今度はグループ単位で相談に来る人たちが現れるようになった。NPO活動をしたいがお金がない、営業開拓先がない、場所がない、行政とのネットワークがないと。そこで活動として機能するよう、私たちが社会的な資源を見つけてきてそれぞれの足りない部分を結び付け、社会の中での位置づけをコーディネートしていったわけです。そしていよいよ、やりたいという人たちに一定の限界が見え始めたとき私たちがやったのは、独自に地域調査をして地域に必要なことや足りないものを基本にしたグループづくりをしようというものでした」
 そして生まれたのが、食、エネルギー、交通、福祉、防犯・防災、地域経済、伝統文化、自然生態という8つの要素を徒歩圏内の地域の中で担えるようにすれば、豊かに暮らせる条件づくりができるのではないかという確信だった。
 「これを実現させるために、これまでに立ち上げを支援したNPOや地縁系の団体をネットワークし、人の心や地域資源がくるくる引き継がれる共生循環型コミニュティをつくろうという「くるくるプロジェクト」事業への取り組みを開始しました。いわばこの事業は一つの総決算です」
 すでに、助け合いのシステムを地域に定着させるために地域通貨を流通させたり、福祉社会の実現のためにCS神戸が神戸市との委託契約の窓口となり、草の根NPO16団体が相互補完しながらネットワークとして事業運営をするミニデイサービスなどを手掛けてきた。そして現在は、化石燃料以外のエネルギーの方法を持っておく必要があると、市民による太陽光発電を中心とするシステムとハードづくりに取りかかつている真っ最中だ。
 「5キロワットほどの小さな発電所なんですが、そこに3メートル×5メートルぐらいの太陽パネルを設置し、ここでできた電気を電気自動車に充電をして、外出が困難な人の外出を助けていこうという構想を立てています」
 
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「くるくるプロジェクト」の一つである、太陽光発電のデモンストレーション
 
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理事長の中村順子さん
 
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CS神戸が着手する「くるくるプロジェクト」事業の研究会
 
一人一人の市民の力が新たな市民社会を創り出す
 中村さんは言う。
 「震災は、地域社会がどれほどかけがえのないものか、そしてその中で市民が自立し、助け合い、生きがいを持つことの大切さを教えてくれた」と。
 がれきのまちから6年余りで、よくぞここまで来たものだ。NPOの持つエネルギーに改めて目を見張るばかりか、そこには21世紀の新しい時代にふさわしい新たな市民社会の姿までもが見えてくる。
 そしてこの変革を支えているのは、言うまでもなく、行動を起こした一人ひとりの市民にある。中村さんは、「NPO団体は使命に基づき最低3人の仲間を募って事業計画を立てお金の使い方さえ明確にすれば、誰でも立ち上げられる」と激励する。不況のニッポンを政治家だけに任せておかず、NPOという場を利用して自分の技術や経験、個性、能力などを生かして自分がやりたいことを初めてみようではないか。日本中のあちことで多くの人がNPO活動に参加していけば、社会や地域も変わるし、人々の価値観も変わってくるはず。NPOの活動は今や日本でも欠くことのできない存在になってきた。皆さんも、さぁ、知恵の絞りどころ、身近なところから初めてみませんか?
 
 
NPO法人になるには
 NPO法人とは「特定非営利活動促進法」に基づく「特定非営利活動を行う法人」のこと。NPO活動は任意団体のままでももちろんできるが、法人格を持つことで団体名での契約や預金口座の取得等が可能となる。また、補助金や助成金の申講も法人格がないと断られることもあるので、活動の規模がある程度以上になれば取得を検討するところは多い。
 設立要件として次の12分野の活動が規定されている。
 [1]保健、医療または福祉の増進 [2]社会教育の推進 [3]まちづくりの推進 [4]文化、芸術またはスポーツの振興 [5]環境の保全 [6]災害救援 [7]地域安全 [8]人権の擁護または平和の推進 [9]国際協力 [10]男女共同参画社会の形成の促進 [11]子どもの健全育成 [12]前に掲げる活動を行う団体の運営または活動に関する連絡、助言または援助の活動。
 ただし、宗教や政治活動を中心にしたり、「特定の公職の候補者」あるいは「政党」を支持したり、反対することを目的にする団体は含まれない。
 申請には定款や事業計画などの必要書類を揃え、設立総会を開いて法人設立の意思を正式に確認することが必要だ。申請先は団体の事務所が1か所なら活動範囲がたとえ海外にまたがっていても事務所を置く都道府県へ。2県以上に事務所を置く場合は内閣府へ。
 申請書類が受理されると2か月間の公告期間を経てその後2か月以内の審査により、「認証」か否かが通知される。認証の手続きが終了した日から2週間以内に主たる事務所の所在地の法務局で法人設立の登記を行えば、晴れて「NPO法人」になれる。
(参考資料/田中尚輝著
「ボランティアの時代 NPOが社会を変える」)








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