変わる教師像 地域のコーディネーターに
堀田 ではここから会場からの質問にお答えいただこうと思いますが、まずは尾木さんに、「アメリカでは大学の受験条件の一つにボランティア○○時間以上などというのがあると聞きました。自分はボランティアのきっかけとしていいと思いますがどう思いますか?」という質問です。
尾木 きっかけづくりとしてはぼくもいいと思いますよ。ただ相対的な枠を設けてこれはいい、こちらは点数をあげない、などと分けるのは問題です。ボランティアで社会経験をきちっと積ませた大学生を求めるというのは大いに結構だろうと思います。
堀田 「社会貢献教育の評価をどのようにすればいいのか?」という質問です。評価をするに当たっての教師の心構え、難問ですが寺脇さんいかがでしょう?
寺脇 国会議論でもいろいろありました。ただまず学校がやるべき評価は本来、自分たちの教育がうまくいったかどうかです。尾木さんの例で300人のうち209人の子がやったというときでも、やった子は100点でやらなかった子は零点というのではない。まず何人やったかを調べること自体が評価だという見方もありますし、自分たちが行った教育にどれだけ価値があったのかを測るという評価もあります。子どもたち自身ももちろん評価は必要ですが、自分がどれだけ満足したか、自分はどれだけ頑張れたか、自己評価してもらうだけで十分だと思います。
第7回スクールボランティアサミットから
堀田 では次に、「教員としては学習の進め方、児童の学び方すべてを掌握したいという考えがやはり強い。地域の皆さんが学校に入ってきていただく流れができたとき、教員は向分の存在感に対する不安があって、その気持ちの持ち方、期待される教員像についてどうお考えになりますか?」という小学校の先生から。それと最後の一つは、「これから先生の役割は教えることから企画することへ変わる必要があると思うが、教師像が変わるという中で、教職員試験や教育実習などの制度も変わる可能性がありますか?」という、これは学生さんからですね。
尾木 先生の不安というのはすごくわかります。熱心な先生であればあるほどそうでしょう。でも今は昔と違ってインターネットにアクセスしながらどんどん情報をつかんだり、ひょっとしたらお母さんや子どもたちより教師のほうが遅れた存在になる危険があります。だから、教材研究も大事だけれど、むしろ先生方は皆特技があるんですからこれからはそれを地域に生かす。アフター5を確保してボランティアをしながら、市民的な感覚も身につけられるし「こんなにみんな奮闘してるんだ」「こういう不安があるんだ」とか保護者の理解も進めば、子どもの理解も側面から深まってきます。その意味で積極的に地域に出るような教師こそ実は望まれると思います。だいたい学校の先生は名刺を持っていないのが不思議なんですよ。つまりそれだけ外との交流がなかった。まさにこれからは企画力が問われていますから、アフター5を地域で根を張って生活していれば、人脈もできる。そうしたら「ああ次の総合的な学習の時間、あの人を呼んでこんな企画をやってもらって」とかコーディネーター的な視野も広がるはずです。
寺脇 教師は今まではとにかくワンマンスターでしたが、これからはコーディネーターともプロデューサーともいえる役割が併せて必要になるんです。両方で大変だなと思うかもしれないけど、両方やれるから楽しいんですよ。昔型の教員の典型として、よく「金八先生」って言われます。確かに昔の金八先生はワンマンショーをやっていたけれど、今の新シリーズをよく見てください。学校の中に高齢者は入ってきてケアホームはあるわ、地域住民の協議会はあるわ、子どもたちはいろんな体験活動をしているわで、もし金八先生が昔のままだったらもう自信喪失で呆然としているでしょう(笑)。でも、なかなかいい50歳のおやじとして生きているなということを見てもらうと、先生方も決して心配するんじゃなくて、いくつになっても変わって自分ももっと輝けるぞという思いを抱けるのではないでしょうか。制度については、これまでは教員は全員フルタイム終身雇用じゃないといけないという思い込みがありましたが、今年の4月から定数法が改正されて、これから学校の様子が変わります。若い先生たちがパートで入ったり、あるいは非常勤で入ったり。子どもとすばらしい活動をしている人が自然と正採用になっていくとか。新規採用が少なくて大変という状況はどんどん変わるでしょうから、若い人も教師の夢を捨てずに頑張ってほしいと思います。
堀田 本当にそうですね。今日はお二方から実に中身あるお話をお伺いすることができました。私どもでもしっかりこの道を頑張って皆ですすめていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。(会場拍手)