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特集 新しいふれあい社会を考える
NPOが社会を、地域を、人を変える!
あなたも始められるNPO活動
 
 NPOって何だろう? よく見聞きするけれど実際には誰か特別の人たちがやっているもの…、そんなふうに思っている人はいませんか? 特定非営利活動促進法(以下、NPO法)が施行されて約3年。NPO法人認証を受けた団体の数はすでに5000を超えた。NPOは今や日本社会の中でも急速に重要な役割を占めつつある。NPOの活動分野は福祉をはじめ、文化、教育、環境、まちづくりに至るまで実に幅広い。そこで今回は各地で溌剌と活動している皆さんを訪問し、立ち上げのいきさつや活動内容、今後の課題などについて思いの丈を語ってもらった。NPO活動のタネは至るところにある。皆さんも、自分の興昧や能力を生かして、さぁ、活動を始めてみませんか?
 
学生だってNPO
地域で子どもを育てる活動からまちおこしまでを手がける
NPO法人B−Net子どもセンター(千葉県)
まちづくりの楽しさを経験しキャンパスを飛び出す
 千葉県印旛郡酒々井町には、全国的にも珍しい学生が理事長を務めるNPO法人がある。順天堂大学の学生を中心に、子ども向けの情報誌発行を基本に、イベントの開催等まちづくり活動を行う「B−Net(ブロードネットワーク・「広域なつながり」の意)子どもセンター」(以下、B−Net)がそれだ。
 B−Netは99年春、順天堂大学スポーツ健康科学部の古川咲子さんら3人の女子学生で結成された。「酒々井町の商工会が主催するまちづくり関連のイベントを手伝ったとき、地域に出ると世代の違う人たちとのふれあいがあり、何て楽しい思いができるのかと、新鮮な感動を味わった。それでキャンパスから飛び出して、“子どもいきいき”“町民いきいき”“商店街いきいき”を理念に、地域の活性化を目指したボランティア活動を始めることにしたんです」と当時を振り返る古川さん。
 このB−Netの特徴は、その活動手法がいかにも若者らしいユニークな発想に基づいた点にある。
 たとえば、活動の拠点探しひとつをとっても、目をつけた空き家が役場の所有物で「民間には貸せない」と断られると、商工会会長のもとに自分たちの思いをつづった手紙を持参。「こんなに街のことを思ってくれる学生がいるとは…」と心を打たれた会長が役場に、役場が議会運営委員会にと働きかけ、商工会の分室という形で拠点確保に成功した。
 また活動を始めてすぐに、偶然にも子どもセンター事業(旧文部省が策定した「全国子どもプラン」の一環。99年度から3か年計画で市・郡単位に1か所、全国で1000か所の設置が目標とされたもの)の存在を知ると、企画書を作って教育委員会に逆提案。印旛郡で約4万部の季刊の小学生向け情報誌「アッタくん」を発行する事業の委嘱を受けた。さらにその運営協議会のメンバーは、インターネットなどを使って募集。地元のショップ経営者やミニコミ誌の編集長など、自ら手を挙げた人たちを仲間に引き入れたのである。
 そして2年にわたる活動で、今年の3月にはNPO法人格も取得した。「文部科学省からの委嘱金の交付は3年で切れてしまう。でもそれで活動も終わりでは悔しい。今後に形を残していくにはどうすればいいのかを話し合っているうちに、町の人も引っ張りこんで法人格を取り、社会的な信用を高めたい。そうすれば活動の幅も広がってイベントなどの収益も得やすくなるし、人がつながって活動を継続できるんじゃないか」と思ったのが取得理由だという。
 そこでまずはNPOの作り方について学び、さらに自分たちが講師となって、NPOに関心のある人たちを招いて公開講座を開催することに。ともに学び、意見を交換しながら同時進行で書類申請の準備を整え、理事を公募、認証へと至った。そして初代理事長には、これまでリーダー的存在だった古川さんが就任した。
 
 (下) 「酒々井自遊ハイパーマーケット」は、「心と心のお買物」がテーマのフリーマーケット
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 2代目理事長を務める高崎恵里子さん
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 元は駐在所の宿舎だった空き家を借り受けて拠点に。エアコンやパソコンなどの設備は、地域の人が無償で持って来てくれたという
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ふつうの学生生活では得られない多くの財産ができた
 だが結成メンバーの3人は法人化を見届けるようにして、この春卒業。活動は後輩へと引き継がれた。そして現在、2代目理事長を務めるのは、スポーツ健康科学部3年の高崎恵里子さん(21歳)だ。
 「部活も忙しかったし、最初はボランティアなんて冗談じゃないと思っていました。でも古川さんから誘われて、「アッタくん」を作る手伝いをしてみたら、これが面白くて。で、気がついたら部活そっちのけで、すっかりのめり込んでいたんです(笑)」
 高崎さんいわく、活動の楽しさは「企画を立てて、自分たちの考えを形にしていくこと」にあるという。
 たとえば「町中を美術館に」をコンセプトにした「酒々井自分流アート祭」では、企画の段階から町民との語し合いの場を設けて実現したもの。2年目の今年は、町からの補助金もついた。他にもメンバーそれぞれが得意分野を生かして、フリーマーケットの企画から運営まで携わったり、子ども向けのパソコン教室や1泊2日の寝袋学校などを実施したり、「アッタくん」後をにらみ酒々井町全戸に生活情報誌「B−Net」の配布も開始した。また来年4月には、ウオーキングイベント「印旛沼ツーデーマーチ」を開催する予定だが、これも印旛沼に隣接する6市町村の教育委員会の協カを得ての実施になるという。
 「目的に向かって行動しようとする際、声を掛けると、納豆が糸を引いてつながるように、人と人とがつながって活動できる。これを私たちは“ナット(納豆)ワーク”と呼んでるんですが、いろんな人や団体と協力し合うことで、学生だってここまでできるんだと実感しました。普通に大学に通っているだけでは、こんなに楽しい経験はできなかった。無償のボランティアだけど、気がついたらお金よりもずっと貴重な財産が得られたように思います」
 はずんだ笑顔でこう語る高崎さんは、卒論では「子どもの生きる力」をテーマにNPO活動のことを書く予定。「自分とともに成長してきたB−Net。できることなら、ここに就職したい」との希望も持つ。
 「今後は、たとえば地域の人たちが学校で竹トンボのつくり方を教えるといったように、“学社(学校と社会)融合”を図る仕掛けも考えたい。とにかく現状に満足せず、活動をさらに広めていくつもりです」
 学生だってここまで地域の核となることができる。若い力がこの地域をどんなふうに変えていくのか、これからの展開がますます楽しみだ。








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