まず明確なテーマづくりを
堀田 でも、今はちょうど“端境期”ですから「知識科目をおろそかにしたら日本がダメになる」などの批判も多い。現場ですすめていかれる先生もこうした壁にぶつかると思うのですが、寺脇さんはこの学力低下論についてどうお考えですか?
寺脇 あれはまったく空疎な議論です。つまり単なる心配なんですね。今のお話のような古い価値観から抜け出せていない方たちがご心配になっている。学級崩壊もそうですがそういうことを言っているのはみな男性でして(笑)。昔栄耀栄華を極めた男たちにとって都合のいい社会が90年代に入ってどんどん崩壊して不安になってきたわけです。もちろん親御さんたちも「学力が低下する」といわれればそれは困る、と思うでしょう。でもそこはきちんと説明する。「お子さんに力をつけていきます。やり方に問題があるようなら言ってください」と。情報公開、説明責任の問題ですね。その時に「入試に必要な学力だけつけてくれ」なんていう親は3.8%しかいない世の中なんですから。
堀田 まったく同感です。
寺脇 実は先日ある高校のボランティア部の生徒と話していたら、「うちの部員は、部に入ったら必ず1回は泣くんです」というんですよ。
堀田 それは何でですか?
寺脇 ぼくも感動して泣くのかな、あるいはまだお役に立てないという悔し涙かなと思ったら「そうじゃない、偽善者という言葉に必ず一度は泣くんです」と。
堀田 それは悲しいですねえ。
寺脇 一部の先生の中にはまだ「ボランティアは偽善だ」などと思っている人がいて、だいたいそういう人は反権力を叫ぶんですが、彼らだって十分に権力者なんです。とにかくこれ以上心ない大人たちの言葉で子どもが傷つかないようにしなくちゃいけない。ただ今回の教育改革国民会議の議論を見ても、そろそろこの問題の決着はついてきたのかなと。「やること自体はいいことだ」と。
堀田 力
1934年京都府生まれ。
さわやか福祉財団理事長、弁護士
堀田 後はそのやり方をどうするか。強制的に嫌々やらされたら、それこそ楽しさもやさしさもわかりませんよ。だからどうきっかけづくりをしてあげられるかなんです。その点について尾木さんはいかがでしょうか? これまでのご経験やご研究の中から具体的なアドバイスなどをいただければ。
尾木 では手前味噌になりますが、私が教師時代にやったことでご紹介すれば、とにかくまずテーマを設定するんです。大事なのはアドバルーンを高く上げること。私は「人間」と「生きる」の2つをテーマにして、そこに4つの柱を立てました。ちょっとメモでご紹介しますと、1つめが「困難を乗り越えて」で、ハンディキャップを持ちながら生きている人々と接点を持って学ぼうというもの、2つめが「社会を支える人々」で、その道一筋に一生懸命働いている無名の方から社会や仕事やあるいは生きることについて学んでいくもの。3つめが「命の尊さと人間の発達」で、たとえば幼稚園なんかにボランティアに行ったりしながら人間の発達や命の大事さを学んでいこうというもの。そして4つめが「人間らしく生きる条件と環境」という環境問題です。
第7回スクールボランティアサミット「第1分科会」から
堀田 子どもたちにはどのように活動させたんですか?
尾木 教師間で激論になったんですが、私は強制はしませんでした。ただこの4つの柱だけで、さぁやろうと言っても無理ですから、10の領域というのを紹介したんです。細かくなりますけどいいんでしょうか?
堀田 どうぞどうぞ、お願いします。
尾木 では簡単に言いますと、「創作活動を通してかかわろう」「知識や技術なんかを生かしてみよう」「テレビや新聞を使いながらの調査研究」「人と人との出会いから」「施設を訪ねて」「手話や点字を覚えてみよう」「自然や環境を見直そう」「歴史を探ろう」「地域の課題を見つけてみましょう」「自分史や家族史をつくってみよう」。これで実際に特に夏休み中に集中的にすすめて、夏休み明けに「やった人報告してー」と確認したら何と300人中209人もやっていたので驚きました。
堀田 それはすばらしいですね。何が目的なのかというテーマを持つことはどんな分野でも大事。つまり明確な旗印ですね。それがあることでまずやる者の気持ちが一つになる。意見をまとめるときにも非常に役立つ。その旗印を目指して大きな力が集まってくる。その結果学校なら熱心な先生が変わられても、継続性の大きな保証手段にもなるでしょう。そうして道筋さえつくってあげれば子どもたちは自然と参加していくというまさに実証だと思います。