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シリーズ・市民のための介護保険
お年寄りの居場所は若者が創る
奈良・万葉苑の実験を全国へ
草の根マドンナの後を継ぐヤングライオンたち
 
さぁ、言おう!
固定観念を廃し、若い世代の新しい感性も積極的に認めよう
 
 宅老所に代表される生活福祉は団塊世代のマドンナたちがつくり上げてきた。介護保険のスタートは彼女らの情熱と怨念に負うところが大きい。草の根のマドンナたちが切り開いてきた茨の道。その先を受け継いで安心して暮らせる居場所を見いだし、さらに発展させていこうとみずみずしい感性としたたかでさわやかなパワーを兼ね備えた20代、30代の若い世代が今活躍している。
その人らしい“居場所”が工夫されている万葉苑の居室の一つ
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野性的なルックスが若い女性の人気を集める…
 どんな世界でも、現場が活気づいていく過程にスターが現れる。福祉の世界では徒手空拳で宅老所や小規模多機能ホームを立ち上げてきた一匹オオカミの看護婦やヘルパーたちだった。その多くは団塊の世代を中心とするパワフルな女性たち。介護保険がスタートして約1年半。彼女等の後を継いだ若い異世代がしなやかな感性と発想で、福祉という旧い世界を内部から変えつつある。そんな青春群像を奈良で活躍する一人に焦点を当てて追ってみよう。
 グループホーム、宅老所などの高齢者福祉の成果を競い合う介護福祉業界の全国イベントで若い寮母さんたちの注目を浴びるスターが2人いる。一人は秋田県の鷹巣町福祉公社専務理事で「ケアタウンたかのす」施設長・飯田勤さん(37歳)。もう一人は奈良市の特別養護老人ホーム「万葉苑」で働く主任生活相談員の小寺一隆さん(33歳)だ。
 飯田さんは厚生省(当時)を辞めてデンマークに留学時に岩川徹鷹巣町長からスカウトされた。小寺さんは、福祉専門学校を卒業後、バーテン、モデル、肉体労働者など50以上の仕事を転々としたあげく、今の職場に落ち着いた。身長175センチの均整の取れたスタイル。特別養護老人ホーム(特養)の中でも茶髪にジーパンで動き回る。飯田さんは、どちらかといえば、中年女性ウケする甘いマスクの好青年だが、小寺さんはロック・バンドのリーダーといった野性的な風貌。ジーパン・Tシャツ姿がよく似合う既婚で2人の子持ちだが、万葉苑に訪れる若い女性見学者たちの熱い視線を集めている。
 
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普通に生きることのできる施設を目指して
 万葉苑を訪れる見学グループは年間100件にも及ぶが、そのお目当ては小寺さんのかっこ良さだけではない、彼が音頭を取ってやってのけた「介護保険に向けての新プラン(施設大改造計画)」の成果を確かめ、成功の秘密を張本人から直接聞くためである。8月下旬のある日、京都の老人ホームに勤める女性たちの見学グループと一緒に万葉苑を訪ねてみた。
 
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若い介護主任たちにとって小寺さんは頼りになる兄貴分だ(左上)
慣れた手つきでたこ焼きを作る小寺一隆さん(右上)
 このホームは奈良・東大寺の北側、奈良市を見下ろす小高い山の中腹にある。外観はありきたりな特養建築、一歩入ってもごく普通の特養の内部構造だが、何となく普通の特養と違う。よくいえば自由で、生活の匂いがしていて、職員は若くて明るい普通のヒト。逆の見方をすれば雑然としていて、各階の共有スペースの設えは不統一。居室はほとんど4人部屋だ。居室の形も飾り付けもテンデンバラバラ。共用スペースにはお年寄りが勝手気ままにたむろしている。
 誤解を承知で言えば、ここは、これまでの施設で「非常識」とされてきたことを自由にやってのけた。たとえば介護職員の執務室や休憩場所を取り払ってお年寄りの居場所を新たに増やした。職員の「活動」時間を増やし、夜勤手当の返上もした。たとえば施設内で開く居酒屋やビアガーデンの店員は職員の“ボランティア“だ。小寺さんを筆頭に職員も変わり種が目立つ。元ボクサーの職員もいる。
 「大改造計画」のテーマは「利用者が普通に生きることのできる施設を目指す!」。サブテーマは「ゆとりの時間を創る」「ボランティア(マンパワー)等の充実」それと「スタッフの資質向上」だ。最初にやったのは職員のユニホームの廃止。次にスタッフルームの壁と扉を撤去して空いたスペースにお年寄りがたむろする居場所をつくった。寮母室もつぶして入居者の居室に変えた。
 このようにお年寄りが自分の落ち着き場所となる居場所をつくったうえで定員87名の利用者を1グループ16名から31名の4グループに分け、それぞれ8〜9名のケアワーカーを配置した。利用者全員を職員全員でお世話する施設特有の大規模処遇のパターンを打ち壊し、少人数を少人数がお世話することによってケアの質を高める試み。いわゆるユニットケア(注[1])の実践である。
注[1]「ユニットケア」=ハコモノとしてはグループホームを複数合築した高齢者施設。小規模ケアの質の高さと大規模施設の経営効率の良さを兼ね備えた高齢者介護施設と考えられ老人ホーム経営者の注目を集めている。だがユニットケアの提唱者である武田和典特養・老健ユニットケア研究会代表によれば、その本質は、老人ホームをお年寄りがその人らしい生活ができる居場所に変え、地域と一体となったケアをするための手法(ソフト)と介護職員の意識改革を指す。
 
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お年寄りの前で日誌をつけたりするのも万葉苑ならでは
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万葉苑の午後のひととき。かき氷が今日のおやつ








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