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特集 新しいふれあい社会を考える
縛らない介護は可能ですか?
〜身体拘束についてのトークアンケート
 7月号で募集した身体拘束についてのトークアンケートには投稿者からささまざまな思いが寄せられた。
 この特集では前半でアンケートの結果を紹介し、後半では身体拘束ゼロを目指して実際に取り組みをすすめている2つの施設の事例をリポートする。
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今春、厚生労働省が出した「身体拘束ゼロへの手引き」
身体拘束を見たとがある 61.6%
トークアンケートから
 身体拘束(抑制という言い方もある)と聞いて思い浮かぶ場面はどのようなものだろうか。徘徊しないようにヒモでイスやベッドに縛り付けられている、あるいはおむつを外さないように「つなぎ服」を着せられている…。トークアンケートには、自身の体験に基づいた貴重な意見が、北海道から沖縄県在住の人まで9月14日時点で計78名の方から届いた。年代別では60代が半数以上。次いで50代、70代と続き、80代の方からの投稿もある。最年少は27歳の福祉専門学校生だった。男女比は女性が56%、男性が44%で、介護経験を持つ60代の主婦からの投稿が目立った。
 まずは、アンケートの項目に沿って、結果をご紹介しよう。
 
問1 「身体拘束」という言葉(意味)を知っていますか?
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問2 実際に、身体拘束が行われていることを知っていますか?
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問3 お年寄りが身体拘束をされているのを 見たことがありますか? あるいはそうした経験がありますか?
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●「母が痴呆がひどくなって老人病院へ入院。徘徊を防ぐのにベッドにくくりつけられていた」
(兵庫県 68歳男)
●「点滴や経管栄養の管を取ってしまうからと、重りの付いたベルトを手首足首にされていた」
(愛知県 50歳女)
●「母が占滴の時に手や足を拘束された。液が洩れてグローブみたいな手になっても気づいてもらえなかった」
(栃木県 54歳女)
●「義母が入院先の病院で自分の排泄物をいじるので両手を縛られていた。そのため錯乱して死亡」
(東京都 65歳女)
●「知人が両手と胴体をベッドに固定されていた。一度、夜中にベッドから出て、廊下まで這っていったことがあったためと施設側は説明」
(新潟県 75歳女)
 
問4 徘徊や自傷行為あるいは転落や転倒がある場合、身体 拘束することについてどう考えますか?
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 理念的には良くないと恐らく大多数の人が思っているであろうことから、設問には「徘徊や…」と例を挙げてみたのだが、それでも「ある程度やむを得ない」という答えが6割に達したことは少々予想外だった。しかしコメントを読むと確かにその複雑な胸の内が読み取れる。ほとんどの人が本来は行うべきではないと考えるものの、痴呆など介護の大変さを知っているがゆえに「やむを得ない」と受け止めているようだ。
 
●「原則的に行うべきではないが、危険が予測される者について、自傷行為の防止、他人への迷惑防止上、ある程度やむを得ないと思われる」
(東京都 71歳男)
●「拘束を容認するものでは決してありません。そのような非人道的なことはあってはならないことですし、自分の身内の者がそのような処置をされたら到底耐えられないでしょう。しかし、現実的には人手不足やそれに起因する安全性確保の面からそうせざるを得ないケースもあるかと思います」
(千葉県 62歳男)
●「介護福祉士を目指すため福祉の専門学校に在学中。施設実習で特養に行ったときに利用者が拘束されているのを見た。本人が鼻腔食のチューブを抜いてしまうためと施設の人から聞いた。事故を未然に防ぐためにはやむを得ないのかなとも思うが、考えてみればチューブが外れたらアラームが鳴り知らせるなど拘束しなくても対処できることはあると思う」
(京都府 27歳男)
●「本当に苦しむ課題。理想論としては人間性を無視している行為ではあるが、絶対禁止は大変、相対禁止でないと。しかし、そこが問題で、便法的に身体拘束をして手抜きの看護をし、金儲けの老人病院などやられたらたまったものではない」
(埼玉県 66歳男)
 
 一方、「絶対してはいけない」と答えた人は、かつて家族が身体拘束された辛い実体験や、自分は拘束されたくないという強い意思を寄せている。
 
●「父親の入院時、見舞いで帰省のたびに非常に心が痛んだ。その当時は安全確保のためにはやむを得ないと感じたことがあったが、今は恥ずかしいと思うとともに残念なことをしたと反省している」
(大阪府 54歳男)
●「父が、入院した途端に痴呆状態になり、夜間ベッドに縛られていたらしく、大きなアザができていた。元気な私たちでさえ拘束されたらどんなに辛いかは想像しただけでもわかります」
(大分県 50歳女)
●「かつての義母の経験からも当人の苦痛がどれほどであったかを想像することができる。「身体拘束」はたとえ痴呆の症状が見られたにせよ「精神拘束」を同時に行っていることに等しいと思う」
(北海道 66歳女)
●「もし病気になって拘束されるようなことになったら、どうしよう…死にたくなります」
(東京都 77歳女)
●「人間として生まれてきた以上、最後まで人間らしく終わりたい。罪人は拘束されます。しかし病人は罪人ではありません。望んで病んだわけではありません。自分は拘束されながら生きていたくない」
(茨城県 63歳女)
 
問5 (身体拘束が)「ある程度やむを得ない」と答えた方にお聞きします。その理由は何ですか?
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 「安全を確保するため」という回答の中でも、「本来ならば施設の改修や寮母等の充足が望ましい」(大分県 59歳男)、「そういうことをしなくて済むような方法が外国にはあるのではないか」(神余川県 75歳男)など、他の方法を模索する回答も少なくなかった。
 
問6 介護保険では、身体拘束は原則禁止されているのを知っていますか?
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 介護保険法では、特別養護老人ホームや老人保健施設など介護施設での身体拘束を、緊急やむを得ない場合を除いて原則禁止した。
 「緊急やむを得ない場合」とは、「ケアの工夫だけでは十分に対処できないような“一時的に発生する突発事態“のみに限定される」というのが厚生労働省の見解だ。具体的には、
 
[1]利用者本人または他の利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと。
[2]身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと。
[3]身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること。
 
 以上3つを「すべて」満たすものであり、その場合も身体拘束に関する記録が義務づけられている。
 しかし、現実には多くの施設で日常的に身体拘束が行われており、アンケートにはこんな疑問も投げかけられた。
 
●「禁止されているにもかかわらず介護支援専門員のテスト、問題集にはやむを得ない場合は行うとして回答は○。こんなところにも介護保険本来の自立支援とは全く違った考えが見えるようで憤りを感じている」 
(福岡県 54歳女)
●「介護保険制度になっても、今まで日常的に行われた行為は急には止められないでしょう。現場で働く人々の意識を変えるねばり強い努力が必要です」 
(大分県 59歳男)








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