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エッセイ まちのお医者さん最前線 7
川崎幸クリニック院長 杉山 孝博
すぎやま たかひろ
1947年愛知県生まれ、東京大学医学部卒業。川崎幸病院副院長を経て現職に。在宅の高齢者宅等を自転車で往診する銀輪先生として、また「ぼけの専門家」として地域医療に情熱を傾ける。
痴呆性高齢者と権利擁護
 痴呆など知的障害を持っている高齢者の権利擁護の問題が注目されている。
 「私の母は昔から買い物が好きで、痴呆になってからも、昔のようにデパートに電話で注文するのですが一か月数十万円もの買い物をして大変な思いをしました。他人にはしっかりした対応をするのでボケていると言ってもわかってもらえません」
 かつて私が相談を受けたケースである。
 このほか、悪質な訪問販売の被害に遭ったり、契約したことを忘れて家族に伝えないため、解約時期を逃してしまって苦労した経験を持つ介護者も少なくない。
 このような場合、泣き寝入りするか、そのお年寄りを禁治産、準禁治産にして経済的な行為ができないようにすることしか解決法がなかった。禁治産、準禁治産の手続きは非常に手間がかかり、しかも経済的な行為だけでなく参政権など全ての権利を奪ってしまう事になり、戸籍に記載されることもあって日常的な解決法とはいえなかった。それに代わって、自己決定の尊重、本人の残存能力の活用、ノーマライゼーションなどの新しい理念に基づき、各人の多様な判断能力や保護の必要度に応じて弾力的に措置のできる成年後見制度が昨年4月にスタートした。
 新しい成年後見制度では、障害の程度に応じて保護の内容(代理権または同意権・取消権)や対象範囲の選択ができるようになり、特に、軽度の精神上の障害を対象とする「補助類型」については参政権などの法令上資格制限を行わずに、鑑定書ではなく診断書でよくなった。私が訪問診療している患者に関して診断書の作成を依頼された最近の経験から考えても、この制度が徐々に定着しているように感じる。
 介護保険は自らの判断と責任でサービスを選択し利用することが建前になっているので、訪問看護、訪問介護、デイサービス、入浴サービス、ショートステイ、福祉機器の貸し出し、施設入所などすべてのサービスは利用者とサービス提供業者との間の契約によって開始されることになった。痴呆の一人暮らしの人でも契約という形式を取らざるを得なくなった。誰かが援助しなければサービスの利用もできない状況になったといえよう。預金の引き出し、買い物など日常生活の様々な場面で援助が必要になるケースが少なくない。これを援助するのが1999年からスタートした地域福祉権利擁護事業である。社会福祉協議会などに依頼すると生活支援員が派遣されて援助が受けられる仕組みである。
 高齢社会は、元気で意欲的な高齢者が増えている社会であるが、一方では病気や障害のため援助の必要な状態に誰でもなる可能性の社会である。安心して生活できるための権利擁護の仕組みが必要不可欠である。








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