ありがとうを循環する地域通貨 7
EGG(エッグ)
「エッグ」は静岡県清水市で今年2月に産声をあげたばかりの新しい地域通貨です。JR清水駅に隣接する駅前銀座商店街(103組合員・120店舗)の組合員同士の取り組みとして20名でスタートしました(現在21名が参加)。
「エッグ」(EGG)という名前は、「駅前銀座元気」の頭文字から命名したもの。清水市は人口24万人の中堅都市ながら、今や全国資本の郊外大型店の進出により、地域で一番の商店街であった清水駅前銀座も昨年10月の調査では通行量が往時の4分の1となり、空き店舗も増えてきました。
そんな中で、1997年に愛媛県関前村の「だんだん」の取り組みを知りました。相互扶助のツールとして高齢化と過疎が進む離島で使われているこの地域通貨が、衰退しつつある商店街にとっても有効ではないかと思われました。また、商店街での配達サービスが各地で話題となっていましたが、我々も専門業者を使わずに地域通貨を活用して同様のサービスが行えないだろうか、互いに自分の車とガソリンと労力を提供して配達するなど商店街の問題をお金を使わずに解決できないだろうかと、地域通貨の導入を考えました。
最初は地域通貨を実践している方を招いての講演会や説明会から行いました。そして「自分はこんなことが得意です。遠慮なく言ってきてね」というように、気楽に申し出てもらったことを一覧表にし、金色のメタルチップを30枚ずつ配布。チップが不足したら追加でもらえますが、年度が変わると再び30枚からスタートします。
活動の対象は商いに関するものでは両替・包装・のし紙などの筆書きやパソコンによるダイレクトメール作りなど、家事に関しては料理や裁縫、趣味の分野では手芸やスポーツの指導などなど。さらにユニークなところでは「一緒にお酒を飲んであげる」などまさに多彩なメニューが出てきます。何十年という顔見知りでもそれまで知らなかった意外な人となりが見えてきておもしろいものです。
金色のかわいらしいメタルチップが街を循環
商店街という狭い地域の中なので、当事者同士が直接やりとりをし、運用もいい(好い)加減です。厳密な管理や公平さを求めると運営に手間がかかり、かえって仲間意識をつくる妨げになるからです。「してあげたらしてもらいたい」「認められたい」というのは人間の性ですが、そのやっかいなところをチップ数枚で軽々と乗り越えてしまうところが地域通貨のすごいところです。
商店街を動かすには何らかのメリットが必要で、いわば実利的な動機から始まったものの、始めてみると「…してくれる?エッグで!」「いいよ」と、とにかく仲良くなり、街に笑いと会話が増えました。地域通貨はとかく、相互扶助という側面か注目され、「便利だ」とか「助かる」などといわれますが、それはきっかけに過ぎなくて、本来の意義は楽しいし面白い、知り合いも増えて仲良くなることにあります。ご近所と仲が良いことは人生が豊かだということでもあり、またそうしたつながりがあれば、子育て、介護、その他の問題も大部分は解決できます。
今、「エッグ」は地域力をつくり出す有効な道具となってきています。
(清水駅前銀座商店街振興組合 専務理事 野口直秀)