日本財団 図書館


コスト・人材…、課題を一歩一歩解決するシステムづくりを
z0010_01.jpg
高齢者ケア付き住宅「田園生活館」(千葉県勝浦市)
 以前児童福祉施設で施設長を務めていた秋山さんが、高齢になってもふれあいのある温かい暮らしをと決心して夫婦で設立。職場の保養所として利用していた勝浦が気に入りこの地を選んだとか。
 共用部分は25畳の居間をはじめ、食堂、台所、温泉の湧く風呂など。居室はすべて個室で8室、約15畳。外泊も部屋に家族や友達を呼ぶことも自由(ゲストルームも有り)。入居金はそれぞれの状況で数段階の金額設定があり、月額利用料は15万円(3食の食費と家賃、共益費等を含む)。敷地面積1250m2、延べ床面積498m2の2階建て。開設は1996年3月。
z0010_02.jpg
堀田  運営について少しおうかがいしますが、これまでやられてきた中での問題点や今後の課題などいかがでしょうか?
 
西條  まずはやはり費用面ですね。うちは月額13万6000円でやっていますが、それを年金の中から賄うのはなかなか大変です。昔は男女の給料差がとても大きかったですから、案外独身でずっと働いてきた女性のほうが苦しい。行政からの家賃補助など何らかの支援があればいいんですが。
 
秋山  医療や介護などの体制づくりには当然コストが掛かるわけですが、でも入居料をそれに合わせてしまうと年金暮らしの方にはとても払えない。普通はスタッフを抱える余裕などもなくて、うちも何とか工夫してやりくりしている状態です。
 
堀田  スタッフは、今、何人いらっしゃるんですか?
 
秋山  介護福祉士を目指している学生さんと我々夫婦が住み込みで3人、他に通いで調理をやってくださる看護婦さんと、お掃除をやってくださる元フランス料理店のオーナーの方、車の運転などもやってくださいますが、計5人で月60万円ほどを分けている状況なんです。
 
堀田  やはり行政から何らかの補助が必要だと?
 
秋山  そうですね。人件費でいえば、社会保険の事業主負担分ですとか、あるいは固定資産税とか事業税的なものの軽減、免税措置ですね。
z0011_01.jpg
西條  うちは13万6000円の中に昼夜の食事の配膳代として2万円が含まれていますが、あとの雑用などは皆で分担しています。年々年を取ってきますし、いつかはハウスキーパーも必要になるでしょう。行政が独自に特別養護老人ホームなどを建てるよりずっと節減になるわけですから、こうした形態の住まいへの支援策も行政にはしっかりと考えてもらいたいですし、今行政に提案する文章も考えてるんですよ(笑)。
 
堀田  その意味で今年の5月に「共生型すまい全国ネット」が立ち上がりましたが、そうしたネットワークの場での意見交換も大事ですね。
 
西條  ノウハウを整理して積み重ねれば地方には力がありますよ。私ももう73歳ですからいつまでエネルギーが燃え続けるかわかりませんが、せっかくの芽は何とか支えてあげたい。どっかでボタンを押してあげられたらと。
 
秋山  我々の業界、とまではいえませんが、まだまだ考えられるリスクに手が打たれていないところがあります。人材教育にしても、最低限の現任訓練ができる機関は必要ですし、あるいは仮に経営が行き詰まる、火事が起こる、そんな時に公的施設なら近隣の施設に移れても、我々はそれも難しい。こうした課題を皆で地道に洗い出して、必要なところには的確なアドバイスができる、そんな機関がほしいですね。
新しい時代を生きるキーワードは参加意欲と自立心
 
堀田  それでは最後にこれから開設したいという方、あるいは入居されたいという方へのアドバイスをいただけますか?
 
西條  皆さんのお話を聞いているとご自分だけとか、2、3人で考えていらっしゃるんです。そうじゃなくて、もっと自分から積極的に開いていろいろな人の意見、異業種間の知恵ももらいながらやってほしいんです。今、うちのNPOでもう一つ2 003年に開設させたいと考えていて、でもお金も土地もない(笑)。そこが知恵の出しどころよって、市民と企業と地主さんと行政も巻き込んだネットワークづくりに張り切ってるんですよ。
 
秋山  まさにそうした気概といいましょうかね。新しい時代を牽引するようなエネルギーが開設者には必要でしょうね。グループホームはまさに新しい取り組みですから、マニュアルを見たからつくるとかいう消極的な姿勢じゃだめなんです。スタッフもそろえた、開設したけれど入居者は一人しかいなかった、とおやめになる方も実はたくさんいますので。
 
堀田  ゼロからつくり上げていく逞しさと、新しいものにチャレンジしていける柔らかい頭、これからはどの分野でも必要ですね。入居者の方へはいかがですか?
z0013_01.jpgz0012_01.jpg
秋山  私がよく言いますのは、知り合いがいるからとか誘われたとかじゃなくて、もっと深く自分と向き合って、本当にそこで命を全うするのかという決断をしてから決められたほうがいい。そうじゃないと何かあった時に迷いが出ます。男性にしても女性にしても、お互いに依存して生活してきた人はむずかしいですね。
 
西條  まだまだ依存的なんですよね。どこかいいところができたら入りましょうみたいな。そうじゃなくて、やっぱり自分のことですから、70歳80歳になっても当事者として、参加していくという姿勢を大事にしてほしいんです。そうして初めて本当の自立した生活につながると思います。もっと元気良く、人任せにせず自分の意見もはっきり言う。子孫に美田は残さずに自分に使うという意識を明確にすればずいぶん違うはずですから。
 
秋山  これからの社会は他民族も含めて共生の時代です。子どもも大人も、本当の意味で自立した大人になって社会を背負うという気概を持った国になってほしい。自立と共生はまさにコインの表と裏の関係なんですね。
 
堀田  まったく同感です。ところでお二人とも、最後まで今のホームにお住まいになるおつもりですか?
 
秋山  本籍も移してしまいましたし、若手がもしやれば、私が逆に入居者になると公言しております(笑)。
 
西條  合い言葉として死ぬまで一緒ね、って言っている手前がありますし、私も上手に死にたいと思っています。そんな話もいろいろしますよ。去年、がんで余命3か月と言われた方がCOCOで終わりたいって手術をせずに帰って来られて、1年経った今でもお元気です。これから年を重ねていく中でいろいろな事が起こるでしょうが、それらすべてが学び合いですね。
 
堀田  ふれあい型グループホームヘの関心はこれからますます高まってくるでしょうし、新しい住まい方の実践者としてぜひこれからのますますのご活躍を期待しています。今日はありがとうございました。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION