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ふれあい 活動奮戦記
小倉東区地域福祉推進委員会(福岡県)
 ふれあいの輪を広げていきながら「困ったときはお互いさま」と気軽に手助けできるまちづくりを目指す
小倉東区 地域福祉推進委員会
 「そろそろ仕事を辞めようかと思っていた4年ほど前に、定年後の生活のことを考えて、春日市社会福祉協議会(以下、社協)が開いた“夜間ボランティア講座”を受講。これがきっかけになって福祉の世界に足を踏み入れましたが、今では、近くのスーパーに連れ合いと一緒に買い物に行くと、挨拶をしてくれる人がたくさんいる。会社人間だった私が、ボランティアのおかげですっかり地域の人になれました。残された私の人生はあと10年余りでしょうが、肩書抜きで付き合える仲間をたくさん得て、時にはスケジュール調整に頭を悩ませるくらい忙しい毎日を過ごしながら、現役時代とは違った楽しみが味わえているのは本当に幸せなことだと思います」
 
 穏やかで誠実な人柄を感じさせる口調でこう語るのは、地域福祉の推進に励む「小倉東区地域福祉推進委員会」で副代表を務める来田冨士雄さん(66歳)。
住民同士がふれあえるまちづくりを目指して活動を開始
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町内高齢者の半分以上が参加して和気あいあい。
昨年7月から始まった「ふれあいニコニコサロン」風景(第1回)

 福岡県春日市小倉東地区は、高齢化率が10%前後の春日市の中で、さらに32ある地区で高齢化率が下から2番目の、世帯数約480のこぢんまりした地域である。そんな同地区に1999年6月、春日市の社協からの働きかけで地域福祉を推進する無償のボランティアグループが誕生した。それが「小倉東区地域福祉推進委員会」だ。
 「当初の構成メンバーは自治会長、公民館長、民生委員、老人会長、子ども会育成会長などで、いわゆる“当て職”。私も環境推進員(町内のゴミ処理を指導する役職)ということでメンバーに組み入れられたんですが、何分そんな事情もあって、しばらくの間、具体的な活動への取り組みは何らなされなかった。そこで“これではいけない”と委員の中の有志7名が集まり、ようやく11月、まず何からやるかを話し合うことになりました」
 同地区は福岡市のベッドタウンとして発展したため、マンションやアパートが大半を占め、隣近所との付き合いはないに近い状態。そこで活動開始するにあたっては、「道で顔を合わせたら気軽にあいさつが交わせるような、住民同士がふれあえる街にしよう」という目標を掲げ、まずは隔月で「小倉東ふれあいニュース」(A4判、2ページ)を発行。全世帯(48 0世帯)に配布することにしたという。
 「ニュース発行の主目的は福祉活動の情報を全世帯に知らせることでしたが、調べてみると、自治会や公民館、子供会育成会等、地域の住民を中心に活動している団体やスポーツや趣味のグループがいろいろあることもわかった。それでこれらの団体が実施する行事も載せて、住民に参加を呼びかけることにしました。そうしてお互いに知り合い、ふれあっていく場を増やし、その中から手助けを必要としている方を見つけだして、支援していければと思いましてね」
 その他、来田さんが中心となって、「ニコニコ歩こう会」という趣味のグループを発足。また、新しく始まる介護保険制度についての学習会なども企画・開催した。
 こうして始まった小倉東区の福祉活動だったが、活動の範囲を広げていくには当初の7名では手が足りず、翌5月には「ふれあいニュース」を通じてボランティアを募集。その結果、集まった15名とともに(その後、4名が加わる)2000年度の活動の進め方について話し合いの場を持ち、[1]高齢者のふれあいの場の提供、[2]情報提供=学習会、[3]健康維持と世代間交流、という3つの分科会に分かれて具体的な計画を作っていくことを決めたという。
 「集まったメンバーの大半は、勤めを持っている中堅・若手で、それぞれ忙しい人が多いので、活動日は土曜か日曜日。“できることを、できるときに”をモットーにして、無理をせずに楽しくやっていくことにしました。とはいえ看護婦、ケアマネジャー、ホームヘルパーやレクリエーションの指導員、それに詩吟の先生、合唱団のメンバーに、手話を習っている人と多士済々の顔ぶれ。それぞれのキャリアを生かしてつくったプログラムは、おのずと楽しいものになりました」
 
1999年6月 地域福祉推進委員会発足
11月 有志7名により活動を開始 
  「小倉東ふれあいニュース」(A4、2ページ)を作成、全世帯への配布を開始(年6回)。また、住民のふれあいの場をつくっていくことを目的に「ニコニコ歩こう会」を発足。
2000年5月 地域福祉ボランティアを募集
7月 ふれあいニコニコサロンを開催(年4回)
  学習会を開催(年3回)
8月 世代間交流ナイター・グラウンドゴルフ大会を開催
2001年4月 ふれあいニコニコサロンを隔月開催に増やす
5月 高齢世帯を対象にゴミ出しの手助けを開始
「利用者の立場」を念頭に置いた企画が成功の秘訣
 ではさっそく、そのプログラムの一端を紹介することにしよう。
 まずは「ふれあいニコニコサロン」。これは町内に住む65歳以上の高齢者を対象にした語り合いの場で、引きこもりがちなお年寄りを外に出そうということで計画されたもので、7月の第1回めの開催にあたっては、まず「ふれあいニュース」で町内全体に知らせ、2週間前にはボランティアが手分けをして高齢者のところへ個々に案内状も持参。「出ていらっしゃいませんか」と声掛けもしたという。
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ふれあいニコニコサロンはまず「健康チェック」から(血圧測定)
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食事の後は楽しいゲームでにぎやかに

 「直接、案内状を持参すれば、重い腰をあげてくれる人もいると思いましてね。おかげで、当日は町内の高齢者(65歳以上)84名のうち、49名の参加がありました。当日は血圧測定などの健康チェックに始まり、健康体操やゲームなどで体と頭をほぐし、食事の後は皆で唄ったり、手話ダンスを習ったりしての3時間を楽しく過ごしましたが、これまで自治会や公民館の行事に顔を見せたことのない人も足を運んでくれました。それだけでもうれしいのに、“楽しかった。今度は主人と一緒に来ます”と言ってもらえましてね。その後10月、1月、3月と計4回開きましたが、3回目からは誕生日を迎えられた75歳以上の方へ、パソコンが得意なボランティアの手で、デジタルカメラで撮った顔写真を組み込んだカレンダーをその場で作成して、プレゼントもしており、“これがIT革命か”と喜ばれています」
 このほかにも、「住み慣れた街で老後を暮らすには」という学習会、3日分の食事の献立を出してもらい、それを栄養士にチェックしてもらう「食生活診断」、これからは男も介護をする時代ということで夫婦で参加する「介護講座」、さらには世代を超えてみんなが楽しめる「世代間ナイター・グラウンドゴルフ大会」なども開催した。
 「いずれも好評で、多くの参加者を得ることができました。企画にあたっては“利用者の立場”を念頭に置いたのが、成功の要因の一つではないかと思います。福祉の世界では、これまでどうしても上からの押しつけで、参加しないのは“住民の意識が低い”というひと言で片づけられがちでした。でも企業であれば消費者のニーズを捉えて、マーケティングをしたり、営業活動をするのは当然のこと。そのあたりのノウハウは、現役時代に培ったことが役に立っているように思います」








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