われら地球市民
一緒に走り一緒に笑う
―アマチュア落語家が広げる人間の輪―
橋本 泰孝さん
松下電器産業株式会社 海外CSセンター
「会社の人間関係だけの中で生きてきた自分にやや飽き足りなくなった、もっといろいろな人とお付き合いをしたい、もっと人の輪を広げたいと思ったんです」
松下電器産業の橋本泰孝さんはボランティアを始めたきっかけをこう語る。同社商品のサービスのため海外を飛び回るサラリーマンである。こんな思いを持ったことのあるサラリーマンはかなりいるはずだ。
京都・桂川沿いにある「八幡――嵐山サイクリング道路」。視覚障害者が後ろに乗った2人乗りタンデム自転車が走る。1991年、自転車愛好家が「趣味を通じて何か人の役に立てないか」と企画、ユニセフヘの募金を呼びかけた。ユニセフ・チャリティーサイクリング」と名づけられたこの活動は最初は約40人でスタートした。橋本さんも93年に参加。奥様方の活躍などもあって会員も年々拡大して現在は約120人。ユニセフヘの寄付金は累計で約160万円になる。
橋本泰孝さん(左)と山田政司さん
2人乗りタンデム自転車の前には健常者が乗りパイロット役、まわりの風景などを説明する(上左写真)。後ろには視覚障害者が乗りそれぞれのペダルを漕いで走る。ペアで走る一体感は爽快だ。ゴールに着くと、寄付をした参加者は視覚障害者のマッサージが受けられる。500円のマッサージ料もユニセフヘの寄付となる。「日ごろボランティアを受けている立場の方だけに、逆に自分がボランティアで役に立っているという意識が得られ、皆さん感動されています」と橋本さんも感激していた。
会社もボランティア活動資金支援制度を活用してタンデム自転車を寄付してくれた。「何かをしてあげているという意識は、実は相手に負担をかけてしまう。活動していること自体の楽しさに気づいてこそ本当のボランティアですね。一緒に楽しむ姿勢が大切なのだと思います」
人の輪を広げたいという思いはさらに深まる。関西大学時代に落語研究会に所属し、全国上方落語学生連盟の委員長までやった橋本さん。5年前から枚方市の素人落語集団「渚の会」に入会し、「渚家六丸」の芸名で毎月特別養護老人ホームなどでお年寄りを喜ばせている。5年間自閉症で話したり笑ったりしなかったお年寄りが、橋本さんの落語を聞いて初めて笑ったという大感動の経験もした。11月からは八幡市生涯学習センターの講師になり、お年寄りに上方落語の話をするという。「今後は落語を通じ、近所付き合いが少ないといわれる新しい住宅地の住民同士の交流もやってみたい」と夢は広がる。桂三枝さんは学生時代の3年先輩、ボランティア活動ならと創作落語のネタを橋本さんに提供している。
特設の高座に上がれば「渚家六丸」!
「多くの社員が、橋本さんのような気持ちをもって社会に接していけば社会が変わっていくはず。会社も支援制度だけでなくできるだけ応援していきたいと思います」と、同社のボランティア活動資金支援制度事務局長の山田政司さんは語る。
(取材・文/三上 彬)