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特集 新しいふれあい社会を考える
5月号トークアンケートから
あなたは寄付をしますか、しませんか?
寄付文化の土壌は育つか――NPO支援税制のゆくえは?
 10月1日、NPO側が長年にわたり待望してきた支援税制がようやく一つの形となる。一定の条件を満たしたNPO法人に寄付をした場合、個人や法人の寄付金控除を認めるというものだ。しかし関係者の期待に反し、その中身はフクザツで条件は非常に厳しい。対象となる福祉系のNPOは1%にも満たないのではないかというのがもっぱらの予想だ。社会構造が変化する中で、非営利の活動を支える環境整備が大いに望まれる一方、ではそうした市民活動を支える寄付に対して、我々はどんな意識を持っているのか?5月号のトークアンケート結果と共に、寄付について、また市民活動を支える税制のあり方について考えてみたい。
 寄付と聞いてあなたはまず何を想像するだろう?市民寄付の文化の土壌が育っていない日本ではこれまで、寄付は「一部の金持ちがすること」、あるいは「うさん臭いモノ」というようにとられがち。しかし、阪神・淡路大震災を一つの契機にボランティア活動が身近になってきたことで、義援金など寄付に対する世間のイメージも少しずつ変わってきた感がある。
 ところで非営利で活動を行っているNPOにとって寄付は今も昔も重要な収入源。本誌7月号特集「お金をつくろう」では資金づくりに奮戦する団体の活動ぶりをご紹介したが、それもこれも安定的な財源が乏しいゆえ。
 また、本当にサービスが必要な人に対して、公的なサービスや民営サービスだけでは得られない様々なサービスを提供しているNPOにとって、寄付で多くの人々に支えられることは、単に財源安定だけでなく自分たちの存在感や活動への信頼感も実感できるもの。市民活動がようやく芽生えてきた日本で、果たして市民主体の寄付文化は根付くのか?まずは本誌5月号で募集したトークアンケートの集計結果からご紹介していこう。
寄付に対する意識は?
  トークアンケート結果から
 北海道から九州在住の方まで30代から80代111人と数多くの投稿をいただいた。50代、60代が圧倒的に多く、男女比はほぼ6対4で男性からのほうが多かった。本誌の読者であるだけに市民活動についての意識は高く、率直な意見が寄せられた。
 
Q これまでに寄付をしたことがありますか?
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 上のグラフのとおり「まったくしたことはない」という回答はゼロ。また1回当たりのおよその金額は上グラフのとおりで、数千円から1万円程度の幅で6割余を占めた。
 
Q 寄付の対象は?(複数回答。単位人)
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●「ユニセフに毎月少額ですが寄付しています。目的がなく生きている若者に情報を送り、少しでも外に目を向けてもらいたい」
(64歳女 秋田県)
 
●「海外から帰国する国際空港に設置してある外国のお金の募金箱には(便利なので)いつも入れている」
(50歳代男 東京都)
 
●「半強制的に行われるものに疑問を感じています。募金はもっと個人の自由意思で行うものと考えています」 
(64歳男 千葉県)
 
●「若い頃の苦い経験ですが、街頭で難民カンパをしていた若者たちのグループが実は自分たちの生活費に充てているのを知ったとき、裏切られた思いがしました」 
(58歳女 東京都)
 
 別に質問した「これまでの最高寄付額」は、1万円以下で25%、5万円以下で30%。100万円を超える高額寄付も少なからずあった。
 
Q 福祉系の市民・ボランティア団体へ寄付したことはありますか?
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●「資金不足で活動が不十分なところへは事情が許すかぎり支援したいと思っています」
 (75歳女 新潟県)
 
●「年金生活者の妻として無事に生活できるのは社会の仕組みのお陰と感謝しています。高齢者ではあっても何かお役に立ちたいと思い、ささやかな寄付は折に触れ貧者の一灯として行っています」 
(68歳女 長崎県)
 
●「NPO法人の事務局長をしていたので経理の大変さ、そして低い人件費、赤字にならないようにしている努力など、内情を知っているので少しでも助けになればと思って寄付している」 
(52歳男 東京都)
 
 何らかの形で福祉系の市民・ボランティア団体に寄付をした経験がある人は8割を超えた。赤十字、ユニセフなど規模が大きな団体と違って、情報・PR不足を指摘する声もあったが、さすが福祉に関心が高い本誌の読者ということを割り引いても、社会の目は着実に地域活動に向いてきているといっていいだろう。
 
Q 寄付先、寄付金額などはどのように決めますか?
 87%の人が、「自分の意思で決める」と回答。「ぜひ福祉やボランティアヘの寄付に新しいネーミングを」といった提案や、一方で「町内会や職場など、周囲からの要請や状況をもとに決める」と回答した人の中にも「多少の余裕を感じている今、小遣いの範囲で社会参加の一つとして前向きに考えたい」「今回のアンケートで考えるきっかけとなった」という声が届いた。
 
Q 今後、福祉系の市民・ボランティア団体に寄付を考えてもいいと思いますか?
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 ほぼ9割の方々が「思う」と答えてくれたことはNPO側にとって大変に力強い。「恵まれた年金生活なので一部は社会に還元していきたい」「金額はわずかでも継続して支援することを考えている」という声、また、収入の何%と計画を持って寄付をする、という回答もあった。
 「思わない」という中では「年金生活者として余裕がない」「現役時代はしていたが年金生活での付き合いが苦しくなってきた自己防衛」「継続した寄付が大事だと思うが続ける自信がない」といった回答があり、「労力面でボランティアとして少しでもお役に立ちたい」といった意見など肯定的な姿勢も読みとれた。
 
Q あなたが寄付を考える前提として、何を求めますか?
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●「地方にいるとどこでどんな事業が企画されて寄付を募集しているかがわからない。もっと積極的に広くPRすればよいと思う」 
(72歳男 福岡県)
 
●「母子家庭で知的障害の娘と暮らしていますが、少額でも私たちの将来に向けて役立つのであれば寄付したいと思っています」
(50歳女 岡山県)
 
情報開示の中では、「集めたお金の使途や内訳を知りたい」という意見が圧倒的に多い。
 
●「寄付金が中間段階で人件費や手数料他諸々の経費などに消費されていくのが一番気になる点です」
(45歳男 大阪府)
 
●「寄付の集め方やその使途・効果など、全体像が積極的に情報公開されているケースは少ないのではないか。お金がどこかへ消えてしまったような印象が少しでもあれば参加できない」 
(49歳男 神奈川県)
 
 開示方法としては「個人郵送はお金がかかるのでインターネットで」「ホームページに投書箱を設け可能な限り回答」「寄付金の使途を円グラフで」といった具体的アイデアも。市民の善意で活動を支えてもらっている市民団体であればなおさら、社会に向けて積極的に情報開示をしていく姿勢は忘れないようにしたい。
 
Q NPO活動支援のための寄付税制優遇制度ができたことを知っていますか?
 「知っている」との回答が5割を超えた。寄付税制の内容については後述するが、今回は「寄付」というテーマに対し、本当に多くの意見が届き、思いの深さ、そして複雑さが感じ取れた。
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 「寄付」に対して日本人は欧米よりも数段無関心と言われることがあるが、本当にそうだろうか。今回のアンケートの回答結果やコメントを見ると決して意識が低いのではなく、思いを社会の枠組みに生かせる基盤整備、使途に対する情報開示などの未成熟さが大きな要因のようにも思える。福祉分野はもちろん、これからは行政だけで私たちが望むサービスのすべてを賄うことは不可能。自分たちが望む社会を自分たちの手でつくるために自ら選択して資金を託す、そんな「寄付文化」をどう発展させていけるのか、社会全体で考えていきたいものだ。読者の方から寄せられた投稿の一部をご紹介しよう。
 
投稿・トークアンケート
寄付はボランティア・市民活動の財政基盤
●「低成長で高齢化の社会になり、福祉の問題も国や地方公共団体のみに依存する訳にいかなくなり、N PO・NGOの活動が必要になってきたと思います。これらの活動を支えるのは寄付です」
(69歳男 千葉県)
 
●「少子高齢化が進んでいる今日、共に支え合っていくための福祉系の市民・ボランティア団体への寄付は有益であると思う。仕事などで活動に直接参加できない人も、寄付という形で支えていくことができることに気づいてほしい」 
(39歳男 福島県)
 
●「災害基金は家計をやりくりしながらでも必ずしています。自分の家で好きな物を食べられるありがたさを思えば苦になりません。寄付はたった一つの“社会に役立っている”と思える実感です」
(53歳女)
 
●「企業による努力がもう少しあってもいいと思う。社会貢献という言葉があるが一定基準以上の利益をあげている企業はもっと社会に還元し、そのことを大いにPRすべきと考える」 
(39歳男 東京都)
 
寄付はボランティアの意思表示の手段
●「自分が直接手を出せないことについて、せめて経済的援助をさせてもらいたい、そんな気持ちで寄付をします」 
(73歳男 長野県)
 
●「高齢になると自分の意思を伝達する方法がなくなり、体でお返しする行動ができません。わずかでも心からお役に立つなら、どなたでも結構、喜んでいただけたら、と自分の勝手な思いから実行させていただぎます」 
(84歳女 東京都)
 
●「自分の子どもに財産を残すのでなく、ボランティアや福祉団体へ寄付できるお金が残せるように努力している」 
(65歳女 京都府)
 
●「社会の役に立ちたいと思いつつも仕事を病気退職し現在も健康ではないので、せめて寄付くらいはできるだけしようと思っています。夫ともども福祉への寄付は優先し、平和、教育などにも協力したい」 
(68歳女 千葉県)
 
●「不動産仲介業をしているが、売買した空き地にビルなどが建ち、植物がなくなってしまうことに危機感があり、学校や神社などに1回数万円をかけて植樹をやらせてもらっている」 
(71歳男 大阪府)
 
●「「このような活動を推進している、自助努力はこうしている、より効果的に事業を進めるために賛同者は寄付で意思表示を」というくらい寄付集めに積極的でよいと思う」 
(53歳男 埼玉県)
 
●「寄付先の実態、活動をしっかりと見ることが大事。出す方ももらう方も意識変革が必要。寄付の構造改革も必要では?」 
(68歳男 青森県)
 
本当にNPO活動を支援するための寄付税制優遇制度を
●「所得税の寄付金控除についてはNPOに対する条件を緩和して寄付しやすくすべきである。必ずしも十分な活動をしているとも思えない社会福祉法人などが寄付の面で優遇され、NPOに厳しいのは不合理だ」 
(67歳男 神奈川県)
 
●「何よりも日本を良くするためには、税法が決め手。少なくともアメリカ並みに寄付はすべて控除されるべきものと思います」 
(67歳男 千葉県)
 
●「相続税をなくして生前に自分の意思で寄付したい。他の主要先進国のように寄付に対して所得税等から控除すべきである。これが民主主義国であると思う」
 (69歳男 千葉県)
 
●「自宅で宅老をやっているが出費が多く寄付のようなもの。でもお年寄りの生き方など学ぶことが多くお金には代えられない。控除があるものは確定申告の時に少し得をした気になれる」 
(54歳女 宮城県)








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