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まちのお医者さん最前線 5
川崎幸クリニック院長 杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
1947年愛知県生まれ、東京大学医学部卒業。川崎幸病院副院長を経て現職に。在宅の高齢者宅等を自転車で往診する銀輪先生として、また「ぼけの専門家」として地域医療に情熱を傾ける。
 
ぼけを正しく理解するために(続き)
●第3法則=自己有利の法則●
…自分にとって不利なことは認めないで、ぼけがあるとは思えないほど、素早く言い返してくることを言う。しかし、言い訳の内容には明らかな誤りや矛盾が含まれるため、「都合のよいことばかり言う自分勝手な人」「嘘つきだ」など、お年寄りを低い人格の持ち主と考えて、介護意欲を低下させてしまう家族は少なくない。知的機能が低下して相手の気持ちが理解できないため、平気で言ってしまうのだから、そのような言動こそぼけそのものと考えるべきである。
●第4法則=まだらぼけの法則●
…ぼけのお年寄りは異常な言動ばかりするかというと、そうではなく、正常な部分とぼけの部分とが必ず混じり合って存在している。ぼけの初期から末期まで通して見られる。介護上の大きな混乱の原因の一つに、ぼけか本気かが見分けられなくて振り回されることにあるが、「常識的な人であれば行わないような言動をお年寄りがしていて周囲が混乱している場合、ぼけ問題が発生しているのだから、その原因になった言動はぼけの症状である」と割り切ることが大切である。
●第5法則=感情残像の法則●
…言ったり、聞いたり、行動したことはすぐ忘れるが(ひどい物忘れ)、感情の世界はしっかり残っていて、瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として残るように、お年寄りがその時いだいた感情が相当時間続くことをいう。
●第6法則=こだわりの法則●
…ある一つのことに集中するとそこから抜け出せない。周囲が説明したり説得したり否定したりすればするほど、こだわり続けるという特徴を現したものである。
●第7法則=ぼけ症状の了解可能性に関する法則●
…第1〜第6法則にある、老年期の知的機能の低下の特性を考えれば、ぼけ症状のほとんどすべては、そのお年寄りの立場に立ってみれば十分理解できるものである、という内容の法則である。
●第8法則=衰弱の進行に関する法則●
…ぼけのお年寄りは、ぼけていない人と比べると、身体の衰弱の進行が速く、およそ3倍位のスピードで進行するという内容である。若年性痴呆のアルツハイマー病や高齢者のアルツハイマー型老年痴呆、多発性脳梗塞などに伴う痴呆では、家族などの予想以上に身体の衰弱が進行して、実際の介護期間は初期に予想されるより長くない。
●介護に関する原則●
…「お年寄りが形成している世界を理解し大切にする。その世界と現実とのギャップを感じさせないようにする」。これが介護に関する原則である。お年寄りの気持ちを理解して一旦受け入れることが上手な介護のコツで、介護の負担を軽くすることにもなるのである。
 とにかく、ぼけ老人が、自分は周囲から認められているのだ、ここは安心して住めるところだ、と感じられるように日頃から対応することが、一番楽で上手な介護になるのである。
(詳しくは、拙著「新訂ぼけなんかこわくないぼけの法則」リヨン社を参照)








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