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シリーズ・市民のための介護保険
「行ってよかった」と思えるデイサービスを
さぁ、言おう!
利用者の心身の状態と希望に応じた画一的でないプログラムを
 家に閉じこもりがちな要介護高齢者にとって、デイサービスは外の空気に触れて心身の活性化を図る貴重な外出機会。ところが、利用者から聞こえてくるのは「介護保険が始まって、デイサービスがつまらなくなった」という不満の声だ。一方、事業者からも「運営基準が変わって、十分なサービスができなくなった」との声。いったい何がどう変わったのか。そして、どんなデイサービスなら利用者は満足できるのだろうか。
行きたくなくなったデイサービス
 埼玉県に住むAさん(79)は、パーキンソン病を患って9年。幸い投薬で症状の進行が抑えられており、夫亡き後一人暮らしを続けている。介護保険の認定は要介護1で、毎日1時間の家事援助と、週1回のデイサービスとデイケアを利用している。
 Aさんが介護保険が始まる前から通っているデイサービスは特別養護老人ホームに併設されたもので、以前は毎週休むことなく通っていた。ところが、介護保険に移行して半年が過ぎた頃から、3週に1回ぐらいしか行かなくなった。「朝から夕方までず一っとイスに座っているのが辛いから」というのが理由だが、よくよく話を聞いてみると、利用者が増えて介護度の重い人に職員の手が取られるため、一人で食事も排泄もできるAさんは放っておかれがちであること、痴呆症の利用者が多くなり、一日一緒に過ごしていると神経が疲れること、その結果「あまり行きたいと思わなくなった」と言う。
 入浴サービスを利用していないAさんは、他の利用者が入浴を済ませるまでの間、職員に渡された折り紙細工をしたり、残っている利用者とおしゃべりをして過ごすのだが、「話す内容もグチが多くて気が滅入る」と浮かない顔だ。
 そもそもデイサービスの目的は、介護を必要とするお年寄りが、介護施設に通い、食事や入浴や日常生活に必要な機能訓練などのサービスを受けること。介護保険の通所系サービスの柱だが、介護保険とは別に各自治体がそれぞれ地域の高齢者を対象に行っている、介護予防を目的とする「生きがいデイサービス」もある。
 また、Aさんも通っているデイケア(通所リハビリ)はデイサービスと並ぶもう一つの通所系サービスで、こちらは「理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことで、利用者の心身の機能の維持回復を図る」ことが目的だ。
介護報酬による運営になって人員配置が弱体化?
 現在、居宅サービス事業者として指定を受けているデイサービス事業所は全国に8867か所(2001年5月現在)で、運営主体は社会福祉法人、地方公共団体、民間営利法人と続く。ちなみに非常利法人(N PO)は145。
 ある公設公営のデイサービスセンターに勤務する生活相談員Bさんも、「介護保険以前と比べれば、サービス内容は変わらないものの、質は後退していると思います」と指摘する。その理由として、[1]運営費が介護保険前の措置費から利用者の介護報酬へと変わったため、介護報酬だけで運営を成り立たせるには定員を増やさざるを得ず、介護報酬の高い利用者を受け入れる傾向が強くなった、[2]介護保険前の細かい類型分けがなくなり様々な状態の利用者が一緒にサービスを受けるケースが増え、個別対応が難しくなった、[3]介護保険で事務作業量が増えたため、職員はそれに時間を取られ本来の介護業務にしわ寄せがきている、という点を挙げる。
 
「デイサービスの介護報酬単価(基準額)
(利用者は該当する金額の1割を利用料として負担)
■単独型通所介護費
  3時間以上4時間未満 4時間以上
6時間未満
6時間以上
8時間未満
要支援 3320円 4740円 6640円
要介護1・2 3830円 5470円 7660円
要介護3〜5 5140円 7340円 10280円
 
■併設型通所介護費
  3時間以上
4時間未満
4時間以上
6時間未満
6時間以上
8時間未満
要支援 2800円 4000円 5600円
要介護1・2 3310円 4730円 6620円
要介護3〜5 4620円 6600円 9240円
 
 Aさんが感じているサービスの後退も、これらの点に起因しているようだが、「介護報酬だけで運営していこうとすると、コストの面で職員の専門性や常勤配置はむしろ弱まってしまい、そこの問題が深刻なんです」とBさんは言う。
 利用者数の増加に応じて必要な職員の数が決められているのは介護職員だけで、その他の生活相談員、看護職員、機能訓練指導員はサービスを提供している時間帯を通して原則1人以上と決められている。ただし機能訓練指導員は他の職務との兼務が認められており、さらに、常勤は通常「生活相談員又は介護職員のうち1人以上」とされているため、あとは皆、非常勤でもよいことになる
 そこでデイサービスの現場から聞こえてくるのは、「常勤と非常勤の割合が逆転して、安定性が不足してきた」という声だ。安定性とは、利用者の側から言えば、いつ来ても同じ職員がいる安心感、また事業者の側から言えば、利用者一人ひとりに継続的なケアをしていくことができるチームの統一感というもので、これは複数の高齢者を同時に受け入れるデイサービスには欠かせない要素であろう。
 経営効率だけを追求してサービスがおざなりになれば、そのつけは結局利用者にまわる。必要な専門性を備えた職員が十分に配置され、できる限り利用者一人ひとりの心身の状態に見合ったサービスの提供、というのは“理想郷“なのだろうか。
常勤による介護体制であったかいサービス
 そんな理想を現実にしようと熱心に取り組んでいる団体の一つが、青森県上北郡百石町に今年1月オープンしたデイサービスセンター「NPO法人わっしょい」だ。理事長の山田美恵子さんは、特別養護老人ホームに17年、百石町の社会福祉協議会(社協)のデイサービスセンターに5年勤務した介護のベテランだが、社協を飛び出して、一緒に働いていた仲間と「わっしょい」を開設した。デイサービスの質の低下に対する焦燥感と、「自分の親を行かせたいと思えるデイサービスにしたい」との思いからだったという。
 前の職場では介護保険を機に職員は増員となったものの、パートしか採らないため肝心な時間帯に人手が足りなくなったり、重度の利用者の介護にベテランの職員がかかりっきりになるなど、「お年寄りの話し相手になる余裕も、パート職員に介護を指導する時間もなかった」と山田さんは振り返る。何度も常勤の配置を事務局に掛け合ったが断られ、「それなら自分の手で」と独立を決意し、多額の借金をして単独型で介護保険のデイサービスを行う施設をオープンした。
 
スタッフの赤ちゃんも一緒にテーブルにつく(下)。
一列になってボール渡しのリハビリ(下)
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 「わっしょい」の定員は25人で、今のところ1日の利用者は要支援から要介護5までの12〜13人。これに9人のスタッフで対応する。9人のうち常勤は7人。常勤の給料は理事長の山田さんも介護職員も一律に同額。
「仕事の内容が違うだけで、思いは皆同じですから」と山田さんは言う。もちろん経営はぎりぎりのところで、今はある団体からの助成金と安い給料でしのぎ、利用者の掘り起こしに力を入れている。
 内装はふだんの生活に近い設計を心がけ、重装備の介護機器は置いていない。日常の生活動作を維持する機能訓練はゲームの中に取り入れ、入浴も特殊浴槽は使わず介護職員の手で入れる。「技術があれば人の手でできる。そのあったかさがうちの売り」という「わっしょい」のデイサービスは、スタッフの熱い思いにあふれている。
 
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手すりの位置を工夫した浴槽。スタッフの介助で入浴できる
欠かせないリハビリの視点
 デイサービスの利用者を要介護度別に見てみると次頁グラフのように、最も多いのは要介護1、次いで要介護2、要支援の順で、比較的軽度の人が中心。デイサービス利用者の最多層である要介護1は部分的な介助があればほぼ自立した生活ができる状態であり、残存する身体能力を維持し心身機能を活性化する目的で行われる機能訓練はデイサービスの重要なプログラムでもある。だが、この機能訓練についても、たとえば、体操や風船バレーといったお決まりのプログラムでお茶を濁しているところも少なくないようだ。
 確かに体操も風船バレーも楽しみながら身体を動かすという点では立派なリハビリであり、広義でとらえるなら施設内をあちこち移動することも、送迎の揺れる車中で座位を保つことも、デイサービスにおける生活のすべての動作がリハビリと言えなくもない。
「大事なのは、スタッフ全員がサービスを利用者の自立支援のためのリハビリという視点でとらえていること。スタッフがそのように意思統一するためには、できれば常勤の作業療法士や理学療法士など専門のスタッフがいたほうがいい」と指摘するのは、前出のBさんだ。
 専門性が確保されていないところにリハビリを位置付けても、利用者への個別対応は難しい。 デイサービスでは、リハビリや機能訓練の重視に向けて専門的な体制を整えた事業者には「機能訓練体制加算」というものが認められている。この場合、介護報酬として利用者1人1日につき270円を加算することができる(理学療法士、作業療法士、柔道整復師など該当者を1日2時間以上配置した場合)。
居宅サービス別要介護度別利用実人員の構成割合(%)
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(厚生労働省2001年4月発表資料より。数字の端数処理により100%にならないものがあります)








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