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今、心の教育を考える
自然の中でこそ育まれる心の交流
神奈川県横浜市立南舞岡小学校
 
 横浜市戸塚区舞岡公園、この公園は昔ながらの里山の景観を維持した自然公園である。谷戸に沿って、33面の水田が連なる。この水田は市民団体の舞岡公園田園・小谷戸の里管理運営委員会(以下運営委員会)が、管理運営している。
 「多くの子どもたちが心を閉ざし、もがき苦しんでいる今必要なもの、それは自然の力。自然の中にいるとホッとするような安心感が得られる(自然はまた理解の浅い深いによって危険もたくさんある)。この自然の中でこそ心の交流が育まれると思うんです」と事務局長の小林哲子さん。彼女を含め多くの市民の思いが実を結んでこの里山の公園が実現した。
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 6月8日、梅雨の晴れ間、田んぼに子どもたちの歓声が響いていた。舞岡公園に隣接する南舞岡小学校5年生全員の48名が、運営委員会の3名のボランティア指導員と共に、田植えを行った。植える苗はもち米。南舞岡小学校では8年前から、運営委員会の協力を得て、苗代作りから収穫まで田んぼでの学習が行われている。今年も5年生の担任とボランティアスタッフとの間で打ち合わせを行い、年間スケジュールを調整した。
 「地域の人とのかかわりの中で稲を作るという体験を通して、子どもたちは、様々な提案をしてくるようになりました。たとえば、子どもたちの提案で手作りのわら細工を販売し、そのお金で、お世話になった方を収穫祭に招待するなど、子どもたちには、お世話になった方への思いやりの心が確実に育っています」と語る砂田哲男教諭は、今年の宿泊体験学習で、静岡県の山間部の棚田や平野部の田んぼ等、舞岡の小谷戸とは違う田んぼの様子を5年生の児童と見学してくる。
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田植えの前に調べたことを発表する子どもたち
 
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熱心に田植え作業を行う。田んぼに鮮やかな緑が広がった
 
 「深くて、なかなか進まない」「苗が開いちゃうよ」と叫び声を上げながら、子どもたちは、張られた縄の印を目安に、ぬかるんだ田の中を一歩ずつ後退しながら、苗を植えていく。2時間ほどかけて、田んぼの水面一面に緑の苗が並んだ。「収穫祭で、全校生やお世話になった人にお餅を食べてもらえるように、頑張って育てる」。目を輝かせ、自信満々の男子の言葉に、学校が取り組んだ8年間の重みを感じる。田植えを終えた後、真っ黒に熟した山桑の実を集める子、「カワセミや蛍もいるよ」と教えてくれる子。小林さんたちの思い通り、自然の中で、多くの人たちに支えられ、子どもたちは伸び伸び育っているように見えた。
 現在、田んぼで稲作を体験学習している学校は、南舞岡小を含めて6校。田んぼで学習をしたいという希望が、今も運営委員会へ数多く寄せられている。しかし「ボランティア主体の活動で、人手の問題、運営費の問題があり、受け入れば今が限界」と小林さんは言う。学校は「総合的な学習の時間」の導入により様々な形の体験学習の現場を求めている。体験学習を行う受け皿を、地域にいかにつくっていくか。それがこれからの学校が真剣に取り組まねばならない課題であると感じた。
取材・文/悪原 義範








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