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今、心の教育を考える
いろいろな人との良好な関係が「ほんとうの学び」を支える
秋田市立旭北(きょくほく)小学校
 
 総合的学習の時間の本格実施に向けて、各学校で研究や実践が進められている。そんな中、進んでコミュニケーションを図ろうとする意欲や態度を育成するために、「外国の人との交流」と「地域の人との交流」の2つの柱をバランスよく進めている学校がある。秋田県秋田市立旭北(きょくほく)小学校(奥山彌佐子校長、児童数399名)だ。
 旭北小学校の国際理解の学習には長い歴史がある。1988年以来、旧西ドイツ・パッサウ市のノイシュティフト小学校との親善交流が続けられてきた。また、96年度からの3年間は、英語教育の研究開発校として研究と実践を進めてきた。こうした積み重ねの中で、言葉や文化の違う外国の人にも進んでコミュニケーションをとろうとする態度や能力が、児童の中に育ってきた。
「これから、こうした力をどう伸していくのか、という次の段階が課題なのです」と奥山校長は語る。
 そこで、2つ目の柱である「地域の人との交流」に重点が移された。地域の人々も児童の興味関心に基づく課題に合わせて、“ゲストティーチャー”(ゲスト講師)として積極的に協力してくれている。
 その一例が、地元のお米屋さんと1年間にわたって米作りについての学習を行った3年生の「めざせ米作り名人」。
 土作りから始まって、田植え、除草、稲刈り、乾燥、脱穀、籾すり等、米作りの全段階を学び、収穫祭「おにぎりパーティ」というゴールを楽しみにしながら、古代米の試食などを織り交ぜて米栽培の歴史、食文化などの学習などを行った。最後は稲わらを使ってクリスマスのリースも制作し、「稲には無駄なものは一切ないのです」というお米屋さんの言葉を、実感を持って受け止めることができた。
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お米はまず「土作り」から(写真上)。
やがて秋にはおいしいおにぎりになって感激!
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稲刈り風景
 「かんさつカード」には、新しい発見と驚きの感動が生き生きと綴られている。「生活が豊かで便利になり、プロセスが見過ごされていく中で、一つ一つの過程を丹念に踏んでいく体験が今、必要であるとわかります。考える習慣、感じる心はこうした体験の中から育つのです」(奥山校長)
 6年生は、「将来、何になろうかな」という職業体験の学習を行った。体験先探しから交渉まで、事前の準備はすべて児童自身が行う。訪問先は、地元の放送局、銀行、ホテル、保育園、美容院など多種多彩だ。地元の協力で、自分の生き方に直接つながる貴重な体験ができた。「「仕事で一番うれしいときは、どんなときですか?」と質問したら、「お客さんの笑顔を見るときです」と答えてくれました。ぼくも、働く時はお客さんの笑顔が見たいです」という児童の感想にも充実感がうかがえる。奥山校長は、こうした地元の協力によって進められた学習を通して、「学ぶということは、単に知識を覚えるということでなく、他者との良好な関係が紡がれてこそ成り立つ、ということを改めて感じました」と語る。旭北小の生き生きとした活動は、児童の成長につながる「ほんとうの学び」は学校と地域の願いと協力が一緒になって創造される、ということを改めて教えてくれている。
取材・文 本間 信治








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