日本財団 図書館


ふれあい活動奮戦記
介護保険では補えない、補い切れない部分の生活の支援をしていきたい
生活支援センター“YOU”(埼玉県)
「人に話すといつも笑われてしまうんですが、子育てを終えて自分を見つめ直したとき、今のようなウガママな性格じゃダメだと思った。それで人に接する仕事をして自分磨きをしようと思ったのが、福祉の世界に入ったきっかけなんですが、活動を始めたことで、いい仲間を得られたことが何よりの収穫です。“自分たちの住む地域を良くしたい”との思いで集まった人たちだけに心理的なつながりが強いし、何かのときにはお互いに助け合えるとの安心感もあります。また重度の障害を持っていながら、和歌や俳句、作詞を手掛けられ、口に棒をくわえてパソコンまで使いこなしてしまうような前向きで明るい女性と知り合うなど、一緒にいると自分の心に安らぎを覚えるようなステキな出会いもたくさんありました。お陰でネットワークもずい分と広がりましたが、様々な立場や経験を持っている人とのかかわりを通して自分自身も成長していくことができるのが、心の交流を大切にしたふれあいボランティアの魅力ではないでしょうか」
 
 忙しい活動の合間を縫ってこう語るのは、社団法人長寿社会文化協会・生活支援センター“YOU”の代表を務める石井初枝さん。
z0026_01.jpg
“YOU”の皆さん
地域で自立して暮らすための援助をしようと団体を設立
同会は、厚生労働省認可2級ホームヘルパー養成講座修了生の有志10名が発起人となって1995年4月に設立された団体で、主に有償在宅福祉サービスを提供している。
「養成講座を受講したことで、福祉のあり方についていろいろ考えさせられました。中でも強く感じたのは、自分たちが年を取ったときには、できる限り地域で自立して暮らしたいということ。施設のように決まった時間にトイレに行かされたり、食べたいときに好きなものも食べられないといった集団生活はやはりつらいですからね。それで講座が修了したとき、学んだことを生かして、地域の高齢者や障害者の方たちの自立のお手伝いをしようじゃないか、という話が持ち上がったんです」
 活動を開始するに当たっては、当時石井さんが、生活科学研究所が運営するシニアハウスで生活コーディネーターを務めていたこともあって、会社のスペースの一部を事務所として提供してもらうことができたという。同会のような非営利の市民団体の場合、立ち上げ時の事務所の確保と家賃の捻出は頭を悩ませるところだけに、その点では“YOU”は比較的恵まれたスタートを切ることができたといえるだろう。
 またそうした事情もあって、当初の利用者はシニアハウスの入居者が主だったが、口コミなどにより会の存在が知られるようになると、一般の利用者も次第に増加。それに伴って活動も多忙を極めるようになり、3年後、石井さんは会社を退職して活動に専念する決意を固め、事務所も移転を果たした。
 そして現在では約40名の利用会員に対して女性25名、男性5名の協力会員が活動しており、1か月の平均活動時間は1000時間に達するまでになった。男性は主に人工透析の患者さんの外出介助を担当しているが、定年を過ぎた男性が今までとは違った生活に、生き生きとした顔で活動しているのがとりわけ印象的だという。
「一方、利用者は一人暮らしの高齢者や高齢者のみの世帯が多いですね。中には毎日、15時半から22時まで援助に伺っているお宅もありますが、“いつも一人なので話し相手ができただけでもありがたい”と言ってくださる方もいる。またリハビリのお手伝いをさせていただいた方などは、最初は腕、足はもちろん、首も動かすことができない状態でしたが、10か月後には立つ練習をするほどまでに回復。これは本人のリハビリへの意欲と努力のたまものなんですが、“皆さんのお陰です”と、涙を流して喜んでくださった。そうした利用者の方々からの感謝の言葉が、活動の何よりの励みになっています」
z0028_02.jpg
生活に役立つリハビリ講座
 もちろん、世の中にはいろいろな人がいるので、そんなふうに心を通わせて、いい関係を築けるケースばかりとは限らない。たとえば、近くに住んでいる娘から身の回りの世話を頼まれている老夫婦の場合は、うつ病気味のこともあって、ヘルパーが訪問すると、
「何しに来た。早く帰れ」といった言葉を投げつけたりすることもあるという。
「正直いって、こういう対応をされると落ち込むものです。果たして、私たちの援助は彼らにとって必要性があるのかとね。それでも、いつものヘルパーが都合で行けなくなり、別の者が訪問したときなどは、“なんだ、あの人を待っていたのに”とがっかりした様子を見せたりする。口で何のかんの言ってはいても、ちゃんと待っていてくれたんです。とにかく、私たちは“自分がしてほしくないことは相手にもしない、困っていることに対してはどんな支援も惜しまない”をモットーにふれあい活動を展開していますが、そういう“YOU”の姿勢は、着実に利用者にも理解され、少しは心の支えにもなれているのかなと思える今日この頃です」
1994年9月 厚生省(当時)認可2級ホームヘルパー養成講座受講
1995年4月 講座修了生のメンバー有志が集まり、生活支援センター“YOU”を設立
  厚生省認可2級ホームヘルパー養成研修講座を開催(〜98年まで)
  地域交流と運営資金作りを目的にバザーを開催(以降、年1〜2回実施)
1997年4月 会食を兼ねたミニデイサービス(手作りお昼の会)「まねきねこ」を開始(以降、毎月月末実施)
 
子どもからお年寄りまでが寄り合える宅老所づくりを目指す
 
こうした在宅福祉サービスに加えて、バザーやバス旅行を催したり、「まねきねこ」と名付けた会食を兼ねたミニデイサービスを開催するなど、地域に密着した活動を積極的に展開しているのも、同会の特徴の一つである。
生きがい支援の一つ「押し花教室」
z0029_01.jpg
z0029_02.jpg
バザー風景
「ちょっと気軽に寄れて、行ってみたら何だか楽しくて、来てよかったなぁと思える…。そんなふれあいの場を地域につくりたいとの思いから、「まねきねこ」を始めました。単に食事を共にするだけではつまらないので、今月の“まねきねこ亭”と称して、文化琴やピアノの演奏などのイベントも行っているんですよ。これは完全なボランティアでの運営ですし、イベントのボランティアをしてくださる団体を毎月探すのも、正直いってひと苦労。それでも、毎回30名以上の参加があり、“楽しかった”“おいしかった”との声に後押しされると、来月も頑張らなくちゃという元気がわいてくるんです」
z0030_01.jpg
z0030_02.jpg
 そして今は月に1回のこのミニデイサービスを、いずれは常設の宅老所に発展させ、お年寄りに限らず、子供や若者も含めて地域の人たちが寄り合える場づくりをしたいというのが当面の目標だと石井さんはいう。
「困っている人の話をじっくりと聞いてあげられるのは私たちのような市民団体だけですし、地域をより良くするためには、今後は若い世代も巻き込んで活動を展開していかなければならない。そう考えたときに地域に宅老所があれば、たとえば子育てに悩んでいるお母さんの話を、子育て経験が豊富なお年寄りが聞き、アドバイスをしてあげるといったことも可能になる。それによってお年寄りはたとえ体が弱っても人の役に立てるという生きがいを持つことができるし、若い人は若い人で、お年寄りに接することで尊敬の心や思いやりの気持ちを育むことができる。その結果、自分たちさえよければいいではなく、“困ったときはお互いさま”の精神を身に付けることにもつながると思うんです。介護保険サービスに参入するのも一つの選択肢なのかもしれませんが、私たちはそれよりも、介護保険では補えない、補い切れない部分の生活の支援をしていきたい。そう考えているんです」
 活動の原動力となっているのは、会の設立時の精神から変わらぬ自立支援であり、困っているときは助けてといえる地域づくり。
 利用者のニーズに応え、日だまりのように温かくて、ぬくもりのある会づくりを目指して、“YOU”の奮闘はこれからも続いていく。
 
 埼玉県さいたま市に本拠地を置く社団法人長寿社会文化協会「生活支援センター“YOU”」は、広く地域住民の相互扶助により、地域福祉の向上のために寄与することを目的として設立された住民参加型の福祉サービス団体。主なサービス内容は、[1]掃除、洗濯、炊事等の家事援助サービス、[2]食事、入浴、清拭、トイレなどの介助や病院の付き添いなどの介助サービス。会員になるには利用会員の場合は入会登録料として1万円が、協力会員の場合は同じく3000円が必要で、年会費は3000円(2年目より)。サービスの利用料金は月〜金曜日の9〜17時は1時間1000〜1200円(交通費は実費負担)、時間外及び休日(土、日、祭日、年末年始)は1300〜1500円。協力会員は謝礼金として1時間800〜1300円を受け取ることができる。またホームヘルパー派遣活動のほかに、毎月月末には手作りお昼の会「まねきねこ」も開催している。(→連絡先は最終頁)
 
z0031_01.jpg
ミニデイサービス「まねきねこ」の様子から。
写真右はイベントボランティアの皆さん。
和気あいあいの中で食事もはずむ








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION