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京都府城陽市社協の「住民参加型相互援助サービス事業」の場合
 
 京都府の城陽市社会福祉協議会(会長・前尾有人さん)は、府下では最も早く1993年12月から「住民参加型相互援助サービス事業」を開始した。日常的な家事のほか庭の草むしりや散歩の付き添い、話し相手といった要望にも応えてきた。利用料は「家事」が1時間800円、「介助」が1000円だ。
 介護保険が始まって同事業にも変化が訪れた。城陽市社協が介護保険法の訪問介護事業者となったために、2級ヘルパー資格を持つ協力会員のかなりの数が登録ヘルパーとなり、結果的に介護保険の活動に限定する人、介護保険サービスと従来の活動の両方を行う人、今までどおり介護保険以外の活動だけをする人に分かれた。
 同社協・木村益雄さん(62)の案内で、介護保険とそれ以外の両サービスを利用している2軒の自宅を訪ねた。
 要介護1の大久保義雄さん(89)宅には社協のヘルパーが月曜から土曜まで毎日1時間ずつ家事援助で入り、水曜と金曜は2時間ずつ協力会員が「介助」で入っているが、「介護保険のヘルパーは何人もの人が出入りするし、1時間なのでろくろく話もできない。それに、ちょっとした傷の手当てを頼んでも「決まりでできません」と言う。その点、協力会員はいつも同じ人なので気心が知れているし、買い物に付き添ってくれたり、話し相手になってくれるので待ち遠しい」と協力会員のほうに軍配を上げる。
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手作りの分担表・週間予定表にはケアする人たちのスケジュールがきっちりと記入されている。
 もう一軒の利用者眞鍋英子さん(90)は要介護3で、妹の坂根澄子さん(83)と2人で暮らしている。坂根さんは要介護4だ。近くに住む眞鍋さんの長女が毎日通っているが、眞鍋さん宅には朝、午後、夜の3回のシフトで月間12人のヘルパーと協力会員が入る。日中はデイサービスに通う2人の朝の送り出しと午後の迎えは協力会員、夜のお世話はヘルパーという分担だが、うち5人が社協ヘルパーと協力会員を兼ねている。小田安子さんもその一人で、「介護保険の枠内でやろうとすると決まりごとが多くて窮屈。その分、協力会員という立場では自由にやらせてもらっています」と言い、眞鍋さんも「ほんとうにようしてくれます」と笑顔を見せる。
 介護保険のヘルパーとして活動している時の同社協の時給は、この6月からは家事援助、身体介護、複合型の区別なく1300円(時間外は1500円)。それまでは、身体介護1450円、複合型1220円、家事援助980円だったが、6月からパートヘルパー制度を新設するにあたって報酬を見直し、一律に1300円とした。
三重県尾鷲市のNPO「あいあい」の場合
 
 三重県尾鷲市のNPO法人「あいあい」(代表・湯浅しおりさん)は、介護保険と有償ボランティアの連携をうたってヘルパー全員が両方のサービスを提供するできたばかりの草の根団体だ。
 「あいあい」の設立は今年2月1日。介護保険開始と同時に同市にも店開きした民間の介護事業者コムスンで働いていた湯浅さんと仲間が、コムスンから独立する形で立ち上げた。湯浅さんはもともとは看護婦で、市内の外科胃腸科病院に10年勤務した後、医療以外のケアを実践したくて転職。その経歴をフルに生かして、「あいあい」では訪問介護、訪問看護、ケアマネジメントのすべてにかかわっている。現在のスタッフは、ヘルパーが常勤と登録を合わせて7人、看護婦が5人。ヘルパーは全員が介護保険と有償ボランティアの両方のサービスに対応する。介護保険の規定からはずれるサービスは、30分単位で一律400円(1時間800円)の利用料で24時間体制で受け付けている。深夜など時間外の加算はしていない。
 利用者は現在34人。今のところ深夜の緊急呼び出しは1件だけだが、「利用者さんの求めに応じて何でもやってあげたいという人間が集まったのが私たちの団体。介護保険は決まりが多すぎて、それから外れる部分や支給限度額を超える場合はすべて30分400円で対応しています」と湯浅さんは話す。
 ヘルパーに支払われる報酬は、1時間当たり1300円。家事援助も身体介護も複合型も区別なく一律1300円だ。「家事援助は一番しんどいのに介護報酬は一番安い。それをベースに賃金を決めてはヘルパーが気の毒」(湯浅さん)との考えから、時給はすべて1300円で一本化した。有償ボランティアのサービスについては、利用者が支払う30分当たり400円がそのまま報酬となる。
介護保険の枠内と枠外のサービス連携を
 
 さわやか福祉財団では、介護保険制度がスタートする以前の1998年に、介護保険開始後の市民・ボランティア団体における活動の形を大きく次の4つに分類して、取り組む方向性を決めていけるよう例示した。
 
 [1] 第1類型:
NPO法人を取得、または任意団体のままで、介護保険の枠外で活動する。
 [2] 第2類型:
介護保険に参入し、もっぱら介護保険の枠内で活動する。
 [3] 第3類型:
団体の中で介護保険の枠内・枠外でそれぞれ活動するグループに分け、連携して活動する。
 [4] 第4類型:
団体の中でグループ分けせずに、同じヘルパーが介護保険の枠内と枠外の活動を併せて行う。
 
 利用者の側から考えれば、介護保険のサービスとそれ以外のサービスが自然なつながりの中で提供されることが一番望ましい。そこで当財団としては、当初から4番目の[4]型を推奨してきた。もちろん団体の特徴はそれぞれであり、自分たちに合った形を自分たちで納得して決めればいい。また、実際の活動現場ではこうしたいわば一体型をすすめるについて、いくつかの課題もあるだろう。
 しかし、今回の取材を通じて、介護保険ではカバーできないサービスやふれあいの部分を介護保険と同じヘルパーが連続してボランティアで対応することへの希望や期待はやはり高いと感じた。方法論の難しさ云々ではなく、それが充実した毎日を送りたいという人間の本来の欲求だからだ。
 3つの団体も、やり方の差こそあれ一体型を取り入れている根底には「困っていることにお手伝いしたい」という助け合いの精神があり、それがあるからか、介護保険で入る場合とそうでない場合の報酬の差については、3団体とも異口同音に「不公平だという不満の声はないですね」と答える。
 一方、利用者にとっては、介護保険なら1割負担で済むものが、有償サービスでは800〜1000円程度の負担となる。城陽市の大久保さんの場合、介護保険で家事援助を週6日、各1時間ずつ利用しているので、ひと月当たりにすると153円×25日で3825円。また協力会員に「介助」で週2回、各2時間ずつ入ってもらっているので、こちらにはひと月に1万6000円を支払っている。両者を比べれば介護保険以外で受けるサービスのほうがはるかに高くつくが、大久保さんは「料金面での不満もまったくない」と言い切る。
 サービスを提供する側にしても、ある別の団体のヘルパー活動者は「連続して入っていると、時間を気にすることなく利用者さんにいろいろなことがしてあげられるのでホッとする」と率直な心境を打ち明ける。
 「活動する立場からいってもサービスを受ける利用者からいっても、一番気持ちに添うやり方がこの[4]型だと考えている。行政などの理解が薄いところがあるけれども、忘れてはならないのは、介護保険だけですべての介護の問題が解決するわけではないということ。人はただ身体のお世話になるだけでは寂しくて生きてはいけない。さまざまな生活面での援助と、人のぬくもりは絶対に欠かすことができないものであり、もし、それらすべての要求に介護保険制度で応えるとするなら相当な財政負担となる。枠外のサービスをいかにうまく連携させていくかは、介護保険制度自体の成否にも大きく影響するという認識が必要だ」(さわやか福祉財団理事長・堀田力)。
 介護保険とそれ以外のサービスはいわば車の両輪。どちらが欠けても人間らしい暮らしとはいえない。介護保険という新しい制度をよりよく支える意味でも、双方の連携のあり方を、柔軟にアイデア豊かに考えていける環境づくりが必要ではないだろうか。市民が豊富に持っているはずのそうした知恵をぜひ行政は活用していってほしいものだ。








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