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シリーズ・市民のための介護保険
誰だって介護保険だけじゃ足りない!
保険外サービスとの連携をどうする?
さぁ、言おう!
介護保険と介護保険以外のサービスが連続して提供できるようにしよう
 
 介護保険の柱である訪問介護は、利用者からは「時間が細切れで話をするヒマもない」と言われ、ヘルパーからも「あれをやってはダメ、これもダメと決まりが多くて窮屈」との声が漏れる。介護保険は身体をみる最低限の仕組み。介護は日常生活そのものであり、人として満足できる暮らしを望むのは年齢に関係なく当たり前のことだ。だからこそ介護保険に加えて、生活支援や心のふれあいといった保険外のサービスが不可欠なのだが、この2つの車輪をどううまくかみ合わせるか、それがなかなか難しい…。
1泊旅行の宿泊介護を行った特別養護老人ホーム
 今年1月18日付の北海道新聞にこんな記事が載っていた。「宿泊旅行介護サービス好評」という見出しで、道央のある特別養護老人ホームが昨秋に実施した1泊旅行の話である。
 要介護1、2のデイサービス利用者を対象に、施設のバスを使い、看護婦やヘルパーら数人が同行して、札幌近郊の定山渓温泉に1回につき10人前後で3回に分けて出かけたという。デイサービスの一環という位置づけなので、施設の収益は6時間程度の介護保険制度によるデイサービス分のみ。宿泊を含めたその前後の時間はいわばボランティアだ。記事中で施設長は「赤字覚悟の上だが、参加者は喜んでくれた」と語っている。
 介護保険にボランティアを組み合わせてこんな1泊旅行に行けたら、普段外出する機会の少ない要介護のお年寄りはどんなに楽しいだろう。ぜひじかに施設側と利用者の感想を聞いてみたい…。そう思って、北海道新聞社に問い合わせたところ、「いろいろと波紋が広がっているので、この件での取材は辞退したいとの連絡があった」との返事。どうやら“宿泊介護“というサービスが、本来は施設内や在宅で行うサービスを想定して作られた介護保険になじまない、という行政側の判断を示されたようなのだ。道介護保険課でも記事中で「事業者がわかれば事情を聴く必要がある」とコメントし、半ば高圧的な様子。
 もちろん何でも介護保険に含めてしまえというのでは、財政はすぐに破綻する。このケースでも直接話が聞けなかったので他に何か問題があったのかどうかはわからないし、確かに介護保険法ではデイサービス(通所介護)とは「省令で定める施設又は老人デイサービスセンターなど当該施設において入浴及び食事の提供(これらに伴う介護を含む。)その他の日常生活上の世話であって…」と定められている(第7条から編集要約)。
 しかし、普通のデイサービスでもゆったりとお風呂に入り、昼間の外出介護もあるわけで、利用者が望む柔軟な制度運営を、という言い分は理解できる。紙面では「一定の条件を付けて認めるべきだ」という識者のコメントも併せて掲載されていた。
 デイサービスの本来の目的は、日頃家に閉じこもりがちの要介護高齢者が人と交わり、刺激を受けることで気持ちを明るくし、ひいては寝たきりや痴呆の予防にもなる、というもののはず。利用者本位で考えればせっかくの好事例、こうして介護保険以外のサービスとも積極的に組み合わせて、両者が一体となって愛情あふれた介護が提供されれば、こんなにいいことはないではないか。介護保険でできるサービスとそうでないサービス、その連携を現場ではどう対処しているのだろうか?その実態を愛知、京都、三重の3つの草の根団体に取材してみた。
愛知県大府市のNPO「さわやか愛知」の場合
 
 愛知県大府市のNPO法人「福祉サポートセンターさわやか愛知」(代表・川上里美さん)は、1994年に川上さんが自宅を開放して始めた在宅福祉サービス団体。ケアワーカーと呼ぶ有償ボランティアが、高齢や病気などで助けを必要としている人に暮らしのお手伝いをしている。本誌でも何度か紹介しているが、ケアワーカーとして活動している協力会員は現在360人余り、ケアを受ける利用会員は約440人という愛知県の草の根団体のモデル的存在だ。
 任意団体として活動してきた「さわやか愛知」が介護保険への参入を決めてNPO法人格を取得したのは99年7月。利用者のかなりの数が要介護認定を受けて介護保険のサービスを利用すると見込まれたためだ。NPO法人となって、ボランティアによる扶助事業部に加えて、介護保険の居宅介護支援、訪問介護、通所介護を行う専門事業部を新規に立ち上げた。そして、ヘルパー2級以上の資格を持つケアワーカーは、どちらを選んでも、あるいは両方の事業部を兼務してもよいことにした。
 ところが一つの団体に2種類の活動形態が存在するようになって、いろいろな問題が生じ始めた。まず、一人のケアワーカーが介護保険と介護保険外の両方にかかわると、介護保険のヘルパーとして入っている時に利用者に頼まれるままに規定外のことをやってしまうケースが出てきた。家事援助で入っていて頼まれるままに爪切りをしたといったケースだが、一人が規定外のことをしてしまうと、あとに入った別のヘルパーがやりづらくなってしまう。また、もともとがボランティア育ちだけに、利用者が気になって予定外の時間に訪問し別のヘルパーとかち合ってしまったり…。
 一方、利用者にとっても、従来のケアワーカーと介護保険のヘルパーとの違いを理解するのは難しく、身体介護で入ったヘルパーに掃除を頼んだりすることも。そこで川上さんたちは、利用者にどちらのサービスなのかをわかってもらうために、介護保険のサービスの時は統一ユニフォームを着用し、それ以外の時は自前のエプロンに取り替えることとした。
 また「転んで動けなくなったので来て!」とか「具合が悪くなったので病院に付き添って」といったケアプラン以外の緊急の呼び出しも毎日のようにある。そうしたSOSには「とりあえず行ける人間が駆けつけて、それを保険で処理するかどうかはあとで考えます」と川上さん。
 現在、介護保険と有償ボランティアの両方にかかわる人は48人。介護保険のヘルパーとして活動する人は43人。ヘルパーの報酬は経験年数に応じて1時間当たり1000〜1500円の幅で、川上さんと本人との話し合いによって決める。家事援助、身体介護、複合型での区別はない。一方、有償ボランティアについては、利用者が支払う800円の利用料のうち600円が還元される。








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