日本財団 図書館


ふれあい活動奮戦記
神戸・東灘の取り組みから
地域通貨で温かい人と人とのつながりをもう一度取り戻そう
 昨年10月、神戸市の東灘地区で2つの地域通貨が誕生した。その名称は「らく」と「かもん」。地域通貨とは、文字どおり、地域の中でお互いに助け助けられたときに、お礼の気持ちを自分たちで作った「通貨」で表して交換するシステムのこと。7年前の震災直後にお互いに支え合ってきた人々のつながりが引き継がれ、高齢になっても安心して住み続けられるまちづくりを目指してスタートした。今月号の奮戦記では、いつもとちょっと色合いを変えて、そうした地域通貨を使ったふれあい活動の現場をご紹介してみよう。
z0024_02.jpg
地域通貨で地域再生を!
●地域通貨「らく」●
助けてもらうことの痛み
 さわやか福祉財団が推進している事業に「ふれあいボランティアシール」がある。これは、ボランティア活動をした時間や回数などをシールで記録し、目に見えにくいボランティア活動を社会的評価につなげようという試みだ。多種多様な仕掛けで地元コミュニティーの活性化を支援してきたNPO法人コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)が、1998年からモデル事業として実施し、それが「らく」の誕生につながった。
 ボランティアの場合、サービスの受け手がどのように感じてくれているかは、なかなか見えにくいものだ。たとえば受け手にとっては期待していた8割、あるいは半分という結果でも、「ありがとう」の気持ちを伝えなければならない。地域で支え合っていくためには、ボランティアを提供する側もこのような「助けてもらうことの痛み」を理解することが大切。そこでボランティアをする人も助けてもらえる仕組みをつくろうと99年10月から「らく」の検討が始まり、約1年間の準備を経て、神戸市の東灘地区でスタートした。
 
1998年 4月   CS神戸、「ふれあいボランティアシール」パイロットモデル事業を実施
1999年 10月   地域通貨の勉強会を開始
2000年 6月   「らく」企画相談会を開催
  7月   「らく」発会式及び実験的な運用を開始
  10月   正式な運用を開始
 
「らく」で“楽“に暮らす
 
 「大学の学生さんを食事に招待して“らく“をもらったの」と語るのは末岡和子さん。彼女は痴呆の方やその家族を支援するボランティアグループ「ろう梅会」代表を務め、「らく」を大いに活用している一人である。
 「らく」の名は神戸の酒蔵「蔵」と「楽」の二つをもとにつくられた。券面もユニークで、持ち主の顔写真やイラストが紙券の中央に描かれている。自分のプリクラのシールを貼ったり、似顔絵を描いたり、会員が思い思いに自分をアピールする。末岡さんも他の会員に似顔絵を描いてあげて大好評だったとか。
 このように様々な「顔」を持った「らく」が、助け合いの輪を広げながら人々の間を回っていくのを想像するのは楽しい。
z0026_01.jpg
「らく」の券面には持ち主の顔写真、イラスト等が自由に入れられる。
上は末岡和子さん
 「らく」の会員になると、自分ができるサービス・してほしいサービスを事務局(CS神戸)に登録し、「らく」紙券を使って会員同士でサービスを交換する。サービスの交換はどんなものでも時間を基準にして、「1らく」当たり30分。自分の希望するサービスを見つけるには、事務局で作成された「できること・してほしいことリスト」を利用する。リストに登録されているサービスには、買い物.食事作りなどちょっとした家事支援もあれば、有機野菜、有機たい肥の提供のような環境を主眼としたサービス、中にはビールを飲みながらの話し相手といったユニークなものまで、暮らしが楽しくなりそうな実に様々な内容が並んでいる。
 「“らく“から、カップルが一組誕生して、今度ご結婚されるんです」と末岡さんが教えてくれた。新しい知り合いが増えることも地域通貨の大きな魅力だが、今回はこんなうれしいおまけも付いてきた。
 
「らく」を循環させるために
 「“らく“をもっと利用してもらうために、今後はサービスメニユーをさらに充実させること、そのためには会員数を増やすことも必要」とは、地域通貨を担当する河内昌子さんの話。
 「らく」は東灘地区という比較的広範囲なエリアを対象に、日頃多忙なボランティアリーダーらが中心となって始まったため、「遠方の忙しい方に、ちょっとしたお願いをするには気が引ける」という気持ちが壁となって、気軽に利用できない場合もあるという。
 「会員が増えれば、近い地域での助け合いが可能になって、もっと気楽に利用し合えるはず」と河内さんは期待する。
 会員になるためには、既存会員の紹介を得ることが要件。またサービスリストが各会員に配布されるため、個人情報の公開という点も考慮しながら会員同士の信頼関係を築いていくことも必要である。現在「らく」では、「らく市」という会員の交流会を定期的に開いている。会員が手作り品などを持ち寄って、互いに物々交換をしながら「らく」を利用することで、サービスの交換につながる互いの人間関係づくりの場として工夫されたものである。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION