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地域通貨の基本は心と心の交換
 
堀田  そこなんです。根底の理論として、地域通貨は交換を仲介するだけで富の蓄積機能は持たない、つまりいくら貯めても所得にならない。そこをしっかり認識させられるような理論を提示しないといけない。地域通貨は相互の主観的な満足をもたらすところに主眼があり、経済的な利得はないから、従ってその取引にも課税問題は発生しないという理屈をしっかりわかってもらえるように。
森野  北海道の地域通貨の例で、みんなで稲刈りをして、参加したある都会の人はとっても楽しくて、別の人はこんなに辛い仕事はもういやだと思った。この場合、楽しいと思えた人は農家の人に、ありがとうと地域通貨を払うわけです。逆に大変だったという人には、農家のほうから払いましょうと。まさに主観的というか地域通貨では同じことでもまったく違う取引になり得るんです。
堀田  そうそう。本来、地域通貨での取り組みは、地域経済活性型であっても対象がモノであっても、あくまで相互扶助が基本の考えです。やるほうもそこを忘れないようにしないといけない。そうでないと必ず便乗して儲けようという人も出てきますから。
森野  実際、地域通貨の相談を受けてもよくありますよ。これに参加すれば儲かるのか、とか(笑)。よく言うんですが、営業品目だけで地域通貨に参加しようと考えないでくれと。酒屋だって、相互扶助で提供できるものが必ずあります。地域通貨の本質は相対取引、相互交換ですから、そこで信頼関係ができればネットワークが広がって、実際、商売のほうも結果的にうまくいくんですよ。
 
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堀田  地域通貨の理念に則って、どこまで適用させたらいいのか、その線引きですね。個人的には環境や資源の保護を意図した中古品の活用などまでは地域通貨でいけるだろうと思っています。先日、旧大蔵省の元次官の人と話していたら、「それは通貨じゃなくて、トークン(token)ですね」と。
森野  なるほど。
堀田  つまり彼らの目から見ればおもちゃなんです。ふれあい切符とか多くの「レッツ」(LETS)など、モノは対象としないサービスだけの相互交換なら財政的にも税制的にも問題はないと。ですから私はまずそうした分野からどんどん広げていきたいんです。そうして社会的な事実を積み上げて、地域通貨の社会的相当性を誰が見てもわかるようにしていく。
森野  (うなずきながら)地域通貨には、志の正しさというのが本来備わっているわけです。そのことを忘れずに自信を持ってやっていけば、必ずいい解決策は得られていくだろうと思っています。私自身、そんな信念を持っているんです。
●レッツ(LETS)…1983年にカナダのバンクーバー島から始まった地域での交換取引システム。今ではイギリス、フランス、スウェーデンなどをはじめ、世界各国に広がっている。
誰にだってできることはある
 
森野  各地に呼ばれていくと、身につまされる話がいっぱいあるんですよ。寂れてる商店街で、いつもあるおばあちゃんからお醤油1本、マヨネーズ1本持って来てという頼みがあって、店のお兄ちゃんに配達に行かせると、毎日だからテーブルの上が醤油びんだらけ。結局お兄ちゃんに来てもらって話がしたいだけなんですね。都会が薄情といわれていたけれど今はもう都会も田舎もありません。
堀田  田舎のほうがきついこともあるでしょう。むしろ閉鎖的という面では。
森野  各地を歩いていても旧来の住民組織は崩壊状態で、お祭りすらできない。隣は何する人ぞが田舎で起こっているんです。買い物すら車で遠方の大型店に出向いて、だいたい全国資本の企業ですから地域にカネは落ちない。結局は自分たちで自分たちの首を絞めているんですね。私は地域通貨をやると面倒だとはっきり言うんです(笑)。
堀田  確かに新しい人間関係が増えるわけですから。
森野  それに、地域通貨に入るとこれで終わりというのがないでしょう。それを負担と感じるか、心地よいと感じるか。
堀田  (うなずく)
森野  でも地域通貨への関心の高さを見ていると、社会の意識が変わってきたとはっきり実感します。相手の自由を束縛せずに生活しながら、必要なときに必要な支え合いをするといううまいバランス、そんな望みが出てきているんじゃないですか。
堀田  そう思います。みんなで互いにやれることをどんどん登録し合えばいい。相互扶助型の地域通貨で、ふれあい切符のように福祉分野に限定したサービスだけじゃなくて、子どもに外国語やサッカーを教えるとか、逆に子どもがおじいちゃんにパソコン教えるとか、お酒を飲む相手になるとか。誰だってできることはたくさんあるし、そうなれば日本だってあっという問に変わりますよ。
森野  (うなずきながら)実は地域通貨について以前はヨーロッパの考え方を調べていたんですが、最近、二宮尊徳さんをえらく尊敬するようになりまして(笑)。
堀田  それはそれは。どんな理由からですか?
森野  地域通貨をやっていると気が付くようなことがほとんど書いてあったんです。
堀田  ほおー。
森野  たとえば村の再建でも、そういう時に善人は引き込みがちだと。どの村でもだいたい悪人、嫌われ音が跋扈しているけれども、村を活性化するためには善人を前に出すような仕掛けが必要だと。実際、私もそう実感することが少なからずあります。地域通貨はそうした人をうまく前に出す仕組みだと思うんですよ。
「円」の常識は地域通貨の非常識!?
 
森野  彼は実はすごく鋭く人間を見ているんです。地域通貨ではコーディネーター役が重要だと認識されてきていますが、尊徳さんもやっぱりリーダーを選ばないといけないという。よく出無精って言いますが、人選も、そこから無をとって出精、つまり精を出してよく畑に出る人、あるいは周囲からあいつはよく働くと認められてる奇特人を選べとか。
堀田  確かにいい人が引っ込んじゃってるんですね。今、うちでも近隣助け合いをどう広げるかという研究会をやってもらっていますが、地域に皆をどう引っぱり出すか、それがなかなか難しい。人に「助けて、これをやって」というのが今の日本人はなかなか言えないから。
森野  私たちは普段円での生活にどっぷり24時間浸かっていて、意識はしていないけれどなかなか離れられないんですよ。円の世界では借りを受けるのはものすごく負い目で、逆に貸すのは力をふるえる立場になる。だから必ず貸し借りはゼロにしておかないと大変だと。
堀田  本当はいろいろとやってほしいことがあるのに、抑圧し、あるいは気が付かない。
森野  円の世界に捕らわれているうちはいろいろ問題が出ます。ある地域通貨に入ってきた人で、私は円の世界でプロとしてお金を稼げるような仕事をしていますと言うんですね。あんなアマチュアの仕事と何で同じ値段なのか、許せないと。でもそれはまったく違うんですよね。地域通貨は相対だから相手に嫌われればいくらだって安い値段になる。逆に素人の仕事でもその人の気持ちがすごく好きで、その人にやってもらいたいと思われれば需要が殺到するケースだってあるわけです。
堀田  時間預託もまったく同じで、最初の頃は、介護と家事援助と単なる話し合いとが同じなんておかしい、プロも子どもも一緒なんて何だと。でも今は活動の広がりとともに大分理解されてきました。助けてといえない背景は、円という経済的な価値観から脱皮できていないというのに加えて、もう一つ私は、自立するということ、そして共生することの意味をきちんと日本では教えていないという現実があって、そこが非常に大きな問題だと思っています。
森野  まだまだ日本人は個が強くないんですよ。地域通貨をやっても、尊徳さんじゃないけれど地域に嫌われ者がいて、必ず入ってきます。いい加減な活動しかしないのにもっと安くしろとか、無理矢理タダで手に入れてフリーマーケットで売り飛ばすとか。地域通貨はお互いの相対での交渉だから断りさえすればいいんです。でもそれができない。あの人が来るからやめようかとか、内証にしてやろうとしても必ずわかりますよね。そんなんじゃ活動自体が広がりません。ですから地域通貨は、自分の個を確立する練習台としても非常にいいと私も思っているんです。
堀田  精神的に自立していない、自分の思いを大切にしていない方が少なくないですね。自立をどう教えているかというと、人に迷惑をかけちゃいけない、だから人に頼まず、自分でやる、やれないことはあきらめる、となる。こんな間違った教え方が助け合いの仕組みをつくるときには障害になるわけです。
 
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森野  今までの教え方は自立ではなくて孤立でしょうね。地域通貨をやっていると、どんな人間でも、教育的効果というと変だけど、発見があります。それがまた一人ひとりの参加者にとってもすごくうれしいことだったりする。参加してみるとそれがわかります。私自身だっていろいろなところに行ってずいぶん変わりました。これが浸透していけば大げさでなく日本はずいぶん変わるはずです。
堀田  自立というのは自分の生き方を大切にし、人の生き方も大切に重んじることです。そして共生とはそれぞれに自立するための相互援助なんです。おっしゃるとおり、地域通貨は日本の今までの人づくりの弱いところを補っていくもの、自分の生き方に責任を持ち、生き方の幅を広げるために大きな意味があるものです。森野さんにもますます頑張っていただいて、地域通貨を日本中にあっという間に広げたいですね。今日はありがとうございました。








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