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地域通貨特集
堀田 力のさわやか対談
あなたは地域通貨のすごさを知っていますか?
ゲスト 経済評論家 森野 栄一さん
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森野 栄一(もりの えいいち)
1949年、神奈川県生まれ。國學院大学大学院経済学研究科博士課程単位取得中退、ゲゼル研究会会員。貨幣を本来の交換機能に限定して、人々の公平で自由な経済活動を実現しようというドイツの経済学者シルビオ・ゲゼルの自由経済運動に興味を持ち、資本主義でも社会主義でもない新たな貨幣制度を研究。最近は地域通貨の普及のために全国を回り、講演等でも活躍中。「エンデの遺言」(共著)などの著書の他、論文多数。
 
 「お金」の魔力は人の心を惑わせる。冷たくなってしまった地域社会をもう一度再生しようと出てきたのが「地域通貨」だ。
いわばおもちゃのお金で貨幣価値もゼロなのに、なぜ今、世界各国で注目されているのか?
そこには“本物“を超えた役割があった。21世紀が目指す共生の時代に向けて、「地域通貨」は切り札となるのか?
 
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堀田 力
   1934年京都府生まれ。
   さわやか福祉財団理事長、弁護士。
 
取り組みの積み重ねが社会を大きく変える
 
堀田  最近、地域通貨の記事をよく目にするようになりました。今度の芥川賞作品の中にも出てくるほどで感心したんです (注・「聖水」青来有一著)。
森野  いやあ、あちこち回らせていただいても関心は高いですよ。地域のことは自分たちで考えよう、自分たちで助け合っていこうという気持ちがずいぶんと出てきましたね。
堀田  森野さんは地域通貨の先達者ですが、注目されたのはいつ頃からですか?
森野  1970年代の終わり頃からですが、やはりこれしかないのかなと思い始めたのはバブルの頃ですね。80年代にグローバル化、自由化という世界の流れができて、強い者のみが生き残るという思想、それに反論するような人は見向きもされない。でも所得格差はどんどん広がって、人のつながりも崩壊していくじゃないですか。そんなのはすごくおかしい。欧米各国で何とかしないとという反省の中で地域通貨が急速に広まりだして、やはりこれだと。
堀田  資本というのは暴走して富を集中させ、人の心を冷たくする性質を持っています。でも一方で人の心を刺激し、勤労意欲を引き出すというすばらしい長所もある。もう共産主義という選択はあり得ないから、あとは良い面を伸ばし、悪い面をどう正していくかしか道は残っていません。一つは、産業政策などで経済活動をチェックしつつ適切に所得を再配分すること、もう一つは従来の経済制度を離れて、人間らしい生活をつくる新しい仕組みへの挑戦ですね。前者は政治の大きな仕事、そして後者は市民自らがつくり出せるものです。そのために地域通貨が果たす役割はとても大きくて、従来の社会体制の欠陥を補正するほどの力を持っていると思っています。
森野  市民一人ひとりが直接参加できて、体験できるのが地域通貨のいいところなんですよ。一つ一つはささやかでも、確実に各地で起こっていけば必ず世の中に大きな変化をもたらす、まさにそんな役割なのでしょう。
地域通貨でどこまで可能か?
 
堀田  そこで、日本でこれから地域通貨を大きく広めるために、基本的な理論の整理がそろそろ必要だと思っているのですが、森野さんはどうお考えですか?
森野  現在は規模がわずかですからまだ問題にはなっていませんが、確かに行政当局も多大な関心を持っていますね。
堀田  森野さんもおっしゃっているように地域通貨の機能は大別して、地域の経済活性化と地域の人々の相互扶助があります。取引対象では、モノとサービスの2つがあって、特に考えなくてはいけないのが地域経済活性化型。物との交換が多く発生しやすくて、国民通貨的な機能を果たし出すと、昔の海外の例を見ても、必ず国は規制し始めます。それでせっかくのいい活動が下火になったらもったいない。
森野  実際、ある地域通貨で、映画館の1500円の入場料のうち500円相当分を地域通貨にしたら、税務署から割引しすぎだと指摘されたケースがあるんです。でも実は、そこは以前から月2回の女性優待があって、同じように1500円を1000円にしてたんです。でも税務署はそれを許していた。そう反論したら、税務署側も言われてみればそうだなと。ですからまずは、個別事例を積み重ねて理解してもらうことが大事だと思っています。
堀田  もう一方の相互扶助型の代表であるふれあい切符、時間預託、これは戦後に出てきた地域通貨ではもっとも早い、世界でも私は日本がトップだと思っていますが、交換対象はサービスだけで、その種類も極めて限定されています。これについては通貨性の法律問題はないけれども、それでも所得の考え方、対する課税の問題、労働基準法違反・職業規制法違反だと指摘する相手への法解釈の問題など、全部個別に戦いながらやってきた。そこに物の交換も入ってくるとなると相当しんどいぞというのが正直なところなんですが。
森野  そうですね、理論的に一番すっきりした形でいえば、スイスの「ヴィアバンク」(WIR BANK)が1ヴィア=1スイスフランと国から参照通貨として認められているように、日本でも1地域通貨=1円と認めてもらえるといいけれど、まず無理ですからね。
堀田  無理ですね(笑)。
●ヴィアバンク(WIR BANK)…1934年に始まった長い歴史を持つ地域通貨。現在スイス全土の中小企業関係者8万人以上が参加、60周年の1994年には年間取引高が25億スイスフラン(およそ1775億円)を超えている。
森野  ヴィアでは、会員間の相互取引はヴィアを精算手段として使って、実際の会計処理はスイスフラン建てにそのまま直して税も負担します。経済統計にもしっかり反映されるし、スイス当局はヴィアがスイス経済の強さの根源であるとよく認識しているわけです。日本の場合は、取引量がある程度増えたら、円ではこのくらいですとか具体的な実績を提示するなどして課税の相談をすることになるのでしょう。ただ地域通貨は、貸し借りの関係、つまり債権債務の関係で、本来全員の分を相殺するとゼロになる仕組みですし、そこには何の利得も支払いも発生していない点は忘れてほしくないですね。
 
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