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新たな“生と死”を求めて 2
尾崎 雄
(プロフィール)1942年6月生まれ、フリージャー
ナリスト、老・病・死を考える会世話人、元日本経
済新聞編集委員。著書に「人間らしく死にたい」(日
本経済新聞社)、「介護保険に賭ける男たち」(日経事
業出版社)ほか。現在仙台白百合女子大学で非常勤
講師として死生学、終末ケア論等を教える。
2001年宇宙への葬送
“2001年宇宙の旅“それは、ほんの一握りの宇宙飛行士にのみ許された特権である。だが、実は誰でも宇宙に行ける。といってもそれは遺灰になってからの話である。
 遺灰を宇宙空間に打ち上げる、いわゆる宇宙葬は、1997年からビジネスとしてスタートしている。その年の4月21日、米国のセレスティス社が世界初の宇宙葬を実施した。このときロケットで遺灰を宇宙に葬られた人々は、あの「スタートレック」の原作者、故ジーン・ロッデベリー氏ら24人。この中には5歳でなくなった日本人の男の子が含まれていた。10月には早くも日本のトライウォール社がセレスティス社と提携し、日本を含むアジア・オセアニア諸国での営業権を獲得した。
 1998年2月に実施された第2回の打ち上げでは日本人一人を含む30人の遺灰が打ち上げられた。99年12月20日の第3回打ち上げでは32人中11人が日本人だった。今年の5月ころに予定されている第4回打ち上げにはすでに16人の日本人の遺灰が予約されている。
 トライウォール社は昨年、こうした事業を「スペース・メモリアル・サービス魂の、宇宙紀行」と銘打って展開する新会社ウィルライフを設立した。同社は来年後半には月面に遺灰を届けるサービスも実施する。さらに、2003年8月には宇宙探索船ボイジャーに故人の遺灰を載せる「ボイジャー・オデッセイ」計画を実施するとか。「太陽系を超えて、銀河系を渡って宇宙の旅へ。旅するスピリットが叙事詩を創造します」と同社のパンフレットは死後のロマンをかきたてる。
 遺灰を宇宙に送り出す様子をビデオで見ると、それは人工衛星の打ち上げロケット発射式である。発射場近くに遺族らが集まってパーティを催して故人を偲び、噴煙と壮大な光を発しながら昇天する3段式ロケットを見送る。それは魂は遺骸とともに土に還すという従来の発想を逆転した21世紀的な情景である。キリスト教とビッグサイエンスを結びつけたニュービジネスとでもいおうか。
 打ち上げる遺骨は7グラム。口紅のケースあるいは弾丸の薬莢に似たカプセルに故人が生前に残した言葉や遺族らのメッセージ30文字と一緒に封じ込める。料金は100万円。ロケット発射後、記念冊子と打ち上げセレモニーを記録したビデオが遺族に届けられる。100万円が高いか安いか。それは遺族の死生観や来世観にかかわる問題だろう。
 ある席にウィルライフ社の社長を招き、この話を披露してもらったところ、人々の受け止め方はマチマチ。「私もぜひ」と望む人から「やはり納得できぬ」と考え込む人、「宇宙空間に漂うゴミを増やすな」と環境問題を持ち出す人―と。宇宙の墓場論争は大いに盛り上がった。
 20世紀末に当たる2000年には日本の死亡者数は100万人を突破したと推定される。今世紀、「死」にまつわる市場は「介護」に匹敵するビッグマーケットに成長するかもしれない。








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