日本財団 図書館


問題は事業者の自己評価
 評価事業は事業者の自己評価を信頼する前提で行われている。ここで紹介した4団体の評価事業も同様だ。そこでネックになるのが事業者の姿勢。どんなに工夫を凝らして利用者が知りたい調査項目を作っても事業者が正確な情報を隠すことなくきちんと記入しなければ正しい評価はおぼつかない。
 訪問調査にしても実際に調査員が行くと「前もって施設内をきれいにするなどして普段の実態がわかり難い」(本間さん)。また利用者の読み取り能力にも限界がある。詳しい調査結果を網羅した報告書やガイドブックができたとしても、情報リテラシー(読解力)に乏しいお年寄りらが上手に活用できるかどうか。利用者としては隔靴掻痒の思いが募る。
格付けをする市民団体も
 そんな思いに応え、だれでもわかりやすい格付けつまりランキングをやってのけた市民団体がある。大阪府堺市に本部を置く大阪高齢者福祉協同組合(組合員1050人、八重橋克巳理事長)である。昨年8月から12月まで学生やベテラン調査員を動員し、堺市内の施設や介護事業者のほとんどにあたる824事業所とその利用者・家族について片っ端から調査した。
 調査項目は151。“企業秘密“の壁を越えて実情を探るため調査の趣旨は伏せ、施設の従業員や利用者・家族らに接し実態を聞き出した。施設経営者や法人代表者の資産状況や経歴に至るまで調べるため興信所勤務経験者も参加したという。そのデータをもとに看護婦、ケアマネジャー、ヘルパー、医師や大学教授らで構成する格付委員会が事業者の経営実態とサービスの質を評価し、5段階に格付けした。
 824事業者の格付け結果はAA(質・実とも最高)が26、A(非常に優秀である)234、BB(普通)284、B(設備、組織、人材その他において改善必要)202、C(介護事業者として全く不適格)78だった。格付け表と調査結果は公表せずに組合が保管。組合員の希望に応じて閲覧してもらい、事業者を選ぶ際の目安としている。357万円の調査費用はすべて自己資金だという。格付委員会の委員長を兼任する吉谷治貞専務理事(74歳)は、毎年、実施すると張り切っている。
z0044_01.jpg
介護事業者の格付けを断行した大阪高齢者福祉協同組合の吉谷治貞専務理事
 福祉を拓く会の岡本仁宏理事長は関西学院大学法学部教授。この試みについて「高齢者自身が評価事業に取り組んだことの意義は大きい」と評価する。中世に町民白治を確立した堺らしい先鋭的な試みだが、問題は調査の継続性が難しいこと。同協組の覆面調査が世間に知れ渡って事業者が警戒するため今後、同じやり方は通じない。
z0045_01.jpg
「第三者評価のために国、自治体と事業者はまず情報公開を―」と訴える岡本仁宏・福祉を拓く会理事長
試される市民の自立
 岡本教授が注目するのは横並び比較だ。自治体が実施する施設の施設台帳と監査結果を収集・分析すれば自己記入調査では不可能だった事業者の横並び比較を客観性の高いデータとして公表できるからだ。愛媛県でスタートし、岡山県、埼玉県などに広がりつつある。
 介護福祉サービス評価が定着するためにはいくつかの前提が必要だ。自治体と事業者がきちんと情報開示をし、公開された情報を市民が自らの責任で判断して事業者を選ぶことである。自己責任に基づく自己決定が介護保険の基本理念。成熟した市民意識なしに第三者評価は機能しない。ここでも市民の自立が試されるのだ。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION