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シリーズ・市民のための介護保険
第三者評価とは何か
事業者を選ぶモノサシを探す
 介護保険を利用するときは誰でも丁寧でやさしいヘルパーに来てほしいし、住み心地の良いホームに入りたい。
 ところがそうした質のいいサービスをしてくれる事業者や施設をどう選べばいいのか?
 その目安はあるのか?
 サービスの質を比べるために必要なモノサシづくり、「第三者評価」とはどのようになっているのだろう。
 
●国・自治体・事業者は情報公開を
●市民は情報を白ら「選択」する責任を
 
 介護保険によって在宅サービスを受けたり、施設に入ったりする場合、私たちはサービスを提供する団体・会社や介護施設を自由に選べることになっている。けれども自分の町にはどんな介護事業者や施設があって、どれが信用できるのか、自分の希望に合うサービスを提供してくれるかについて詳しく知っている人がいるだろうか?市町村の介護保険担当係に尋ねても、「我が町」の個別事業者や施設のサービスの質について良しあしを正確に答えられる職員は恐らくいないはずだ。ケアマネジャーにしても自分が勤めているところのサービスについてしかわからないだろう。
 そこで介護保険の指定事業者の信用度や提供するサービスの質の良しあしを公平な立場で評価し、選択の目安を提供することが必要になる。これを第三者評価というが、実施することは至難の業である。
 まず公平な評価をする第三者とはいったい誰が適当なのか?お役所、社会福祉協議会、市民団体、事業者団体あるいは株式会社などいろいろ考えられる。次に評価の前提になる調査を的確に実施できるのか?施設や介護会社は経営内容や介護サービスの実態をどれだけ正直に答え、資料を公開するだろうか。また、利用者の満足度は同じ特別養護老人ホームの入居者でも、入居の経緯や価値観あるいは家族関係などによって、極端な場合、「ここは極楽です」と喜んでいる人もいれば「地獄に送られた」と嘆くお年寄りもいる。訪問介護にしても「テキパキとビジネスライクにしてくれるヘルパーが欲しい」という家族もいれば「介護技術よりも話し好きの優しい人」を望むお年寄りもいる。また調査情報の全公開か部分公開か、格付け(ランクづけ)をするか、印刷物かホームページか―など情報提供・発表の仕方も多様だ。誰が見ても公平で客観的なサービス評価の基準(モノサシ)づくりは言うは易く行うは難い
市民の目で調査する
 そこで「福祉を拓く会」(大阪・岡本仁宏代表)と「メイアイヘルプユー」(東京・新津ふみ子代表)という介護サービス評価に取り組む東西2つのN PO法人は市民の立場でこの問題を広く考えようと、3月9日、東京で「サービスの第三者評価の必要性と課題」を考えるセミナーを開いた。
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東京で開かれた第三者評価のセミナーには250人が参加した
 主催2団体の代表者ほか本間郁子「特養ホームを良くする市民の会」代表、妹尾美智子神戸市消費者協会専務理事がそれぞれの調査・評価の特徴を発表。森山幹夫厚生労働省社会・援護局総務課長が、国の介護サービス評価基準について説明した。
 一人の市民として全国に先駆けて介護施設を訪ね歩き、丹念にサービスの良しあしを調べてきたのは「市民の会」の本間郁子さん。1999年度に東京都内41施設を対象に、2000年度は東京都全施設などで訪問調査を実施した。その目的は[1]利用者が自分に合ったサービスを提供する施設を探すための情報を提供する、[2]他の施設と比較する情報提供によって施設サービスの質の向上を促す、[3]利用者・市民の立場から介護保険改善のための政策提言をすること、である。調査項目は経営者の理念、苦情相談の窓口の有無、ボランティアのかかわり方など施設運営方針からおむつ交換の仕方、味噌汁の温度やお替わりができるかなど日常生活に対する配慮に至るまで約200。施設側と入居者・家族の双方から聞き取った結果は「より良い選択のための特養ホーム最新情報2001年版」として発行する。
バラの花マークをつけて
 本間さんの「市民の会」と連携して調査を実施した「福祉を拓く会」は評価情報を立派な単行本「選ぶ時代がきた!90施設の誠意をアンケートで読み取る」にまとめて市販した。京都府、大阪府、滋賀県、兵庫県、奈良県にあるすべての特養ホームと京都府、大阪府、兵庫県、奈良県の全老人保健施設にアンケート用紙を配り、回答した90施設について情報公開している。
 選択の目安は基本的な19項目に絞っている。うち「お風呂」「おむつ交換」など7項目については他の施設より優れていれば、その項目にバラの花マークを付けるなど一般の人がわかりやすい工夫を凝らしている。本の税込み価格は一般が1670円、会員は1190円。評価事業費は白己資金、行政の補助、寄付金など「多元化していく」(岡本理事長)。
 「メイアイヘルプユー」は介護事業者評価を目的に設立されたユニークなNPO法人、利用者についてはアンケートと面接で、事業者には書類調査と責任者面接をする。訪問看護婦ら介護の専門家が調査し、調査結果は利用者・市民に提供するほか事業者にフィードバックしてサービスの質向上に役立ててもらう。評価コストは事業者が負担する。
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良いサービス、事業者の目安となる市民団体が作った評価結果やガイドブック
 神戸市消費者協会は神戸市が定めた22の評価基準に基づいてヘルパー資格を持つ同協会の会員が事業所を調査。同協会介護保険評価委員会が評価する。評価結果は「介護技術」「苦情・相談の対応」など5つの指標にまとめて、五角形のレーダーチャートに表示する(右図)。一事業所当たり8万円の評価料は事業者が支払う。市民は評価結果を市役所の窓口で閲覧できる。
神戸市の介護サービスの評価を表すレーダーチャート図
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それぞれの項目が高く評価されるほど中心からの長さが各々の頂点近くとなり、頂点に達していれば満点。
 国は昨年6月、「福祉サービスの第三者評価基準」(試案)を発表した。セミナーで配布された国の資料によると、第三者評価とは「当事者である事業者や利用者以外の第三者機関が評価すること」である。
 その目的は「事業者の提供するサービスの質の向上」であるため第三者評価基準は最低基準や指定基準ではなく「よりよいサービス基準へ誘導するための基準」だとしている。また「どのような団体がどのような基準および方法で第三者評価を行おうとも、法令等に違反しない限り自由」だ。厚生労働省によれば「国の基準もワンノブゼム」(森山社会・援護局総務課長)に過ぎない。事実、第三者評価の試みは百家争鳴を呈している(下記参照)。
 
介護サービス第三者評価の主な動き
 
政治・自治体
◆厚生労働省/社会・援護局 福祉サービスの第三者評価基準の作成
◆北海道/自己評価による北海道基準を事業者に配布
◆群馬県/ホームページで事業者向けに事業別のサービスチェック表を公開
◆東京都/東京都高齢者保健福祉計画に「第三者によるサービス評価の実施」を明記
◆仙台市/2001年度から事業者の自己評価を実施
◆高浜市/市の条例に基づきインターネット、市役所窓口で公表
◆名古屋市/利用者の満足度と事業者の自己評価を付け合わせる相互評価
◆神戸市/レーダーチャートによる公開。神戸市消費者協会介護保険評価委員会に調査委託
◆北九州市/施設、訪問介護(希望業者)についてホームページ、区役所窓口で公表
 
民間団体
情報公開型
在宅支援・草の根ネットワーク委員会(宇都宮市)ホームページによる情報提供/特養ホームを良くする市民の会(東京)特養の訪問調査結果を販売/老いを考える会“諒”(横浜市青葉区)2人の女性による市民運動/西宮地域たすけあいネットワーク(西宮市)介護者の実態調査/民間在宅介護支援ネットワーク(吹田市)吹田市の介護事業者ガイドブック作成
チェックリスト型
市民互助団体全国協議会(東京)19項目のチェックリスト作成。頒布価格100円/市民福祉サポートセンター(東京)評価基準を選ぶ基準を公開/介護の社会化を進める1万人市民委員会関西・滋賀ネット(滋賀県)事業者選定・契約時及び利用時のポイント/京都市右京区在宅ケア・ネットワーク推進委員会(京都)介護保険等・自己点検のしおり
評価型
格付け型 大阪高齢者福祉協同組合(堺市)AA(最高)からC(不適格)まで5段階に評価
改善指導認証型 シニアライフ情報センター(東京)事業者と契約。非公開/東京都生活協同組合連合会(東京)社会福祉・医療事業団助成事業により実施/NPO法人メイアイヘルプユー(東京)看護・介護のプロが事業者を評価。結果の一部を公表
利用者支援型 えひめ福祉オンブズネット(愛媛)行政の施設台帳情報公開請求による施設情報を整理・公開ホームページhttp://www.navigo.gr.jp/介護サービス利用者が掲示板上に3つ星評価を書き込む/NPO法人福祉を拓く会(GOWA・大阪府)特養、老健アンケート結果を公表
(注=福祉を拓く会理事長岡本仁宏氏がメイアイヘルプユーと共催で2001年3月9日に実施した東京セミナー「サービスの第三者評価の必要性と課題」で発表した調査結果を要約)








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