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ふれあい活動奮闘記
「人の役に立ちたい」というささやかな思いを、自然な形で生かせる仕組みづくりを模索中
 NPO法人オリーブの会(石川県)
 「小さい頃、今は亡き母と2人で道を歩いていた時、重そうに荷物を持っていたおばあさんに母が声をかけ、その方の荷物を変わりに持って家まで送っていってあげたことがあったんです。別れ際、おばあさんは″どこのどなたさんですか?″と聞きましたが、母は″名乗るほどのことではない″と言い、ただ握手をしただけで、私たちはその場を去りました。でも、子ども心にその光景はとても印象的で、私もそういうさりげない親切ができる大人になりたいと思ったものでした。これが私がボランティアに興味を持った原体験で、それが現在の活動へもつながっているわけですが、誰かの助けを必要としている人と、誰かの役に立ちたいと思っている私たちが、心と心を通い合わせながら、ごくごく日常のお付き合いを続けていけるような地域社会がつくれたら、ホントにステキなことだと思うんです。だから微力ではありますが、私たちの会がそのための土台づくりにひと役買えたら…。そんなことを考えながら、日々活動をしています」
 
 こう語るのは、「活動を通じて出会った仲間が心の友であり、会があるからこそ、今の私がある」というNPO法人オリーブの会の代表・福多晶子さん。素顔はもうすぐ5歳になる一人息子がいる、元気なヤングミセスである。
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オリーブの会のチラシ
依頼・援助しやすい状況を創るために無償から有償へと転換
 同会は、石川県七尾市の社会福祉協議会(以下社協)に登録する個人ボランティアが、月に1回開かれる意見交換会で顔を合わせ、お互いの熱い思いを語る中から、1998年10月に生まれた個人ボランティアグループで、その後社協から独立。現在はNPO法人として、有償在宅福祉サービスを提供している。
 「土地柄もあるのでしょうが、この辺りは狭い田舎町で、まだ“ボランティア“そのものになじみが薄く、誰かの役に立ちたいという思いはあっても、それを生かせる場がなかなかなかった。それで住民への啓発活動も含めて、ボランティア活動を積極的に推進していくためにはどうしたらいいのか。それを皆で話し合う中で、行政や社協に頼るばかりではなく、自分たちでも何か行動を起こさなければいけない。そんなふうに考えて、従来は個人で行っていた活動を組織化。支援を希望する人たちに即応できるよう窓口の一元化を図ろうと事務局を設立して、コーディネート事業も始めることにしたんです」
 同会は、当初まったくの無償ボランティアとして活動を開始した。ところが、チラシを作って公民館や病院、施設などにそれを置いてもらい、活動のPRをしても、なかなか思うように依頼は入ってこなかった。
 「いったい、どこに問題があるのか。本当に困っている人はいないのか悩みました。それであるとき数少ない利用者の一人に、″どうしてもっと、頼まないの?″と聞いてみたんです。そうしたら驚いたことに、″ただではお願いできん″と言うんですね。たとえば病院への送迎一つを頼むにしても、タクシーは有料なのに、会に頼むとお金も時間もかかるのにタダ。そうなると″遠慮″や″気兼ね″が働き、やすやすと頼もうという気にはなれないと。これにはショックを受けました」
 
・活動会員の声より・
 「週に2回ほど、一人暮らしのお年寄りの家に家事援助に入っていますが、ある日、利用者の方がこたつに入って、見てもいないテレビを、音も出さずつけているんです。″どうして″とそのわけを聞くと、″音を出してもよく聞こえないし、見てもわからないけれど、寂しいから取りあえずつけてある″と言う。この状態で1日を過ごしているのかと思ったら、堪えられない気持ちになりました。私たちは家事援助を依頼されて訪問しているけれど、それと同じくらい、利用者の方は″心のふれあい″を求めている。だから時間内にあれもこれもと、つい自分のペースで動きがちですが、できるだけ利用者のペースに合わせて、心を通い合わせながら、ニーズに応えていくことが必要なんだと、改めて感じました」
 
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企画したラジオ番組「峠の茶屋」でジャパンパラリンピック出場について話してもらった宮田さん(中央)も誘って、地域の人に手ほどきを受けながら餅つきに挑戦(右手が不自由なので会員が手助け)
 そこで、依頼者と活動者が対等な関係を保ちながら謝礼や経費を認め合い、お互いがより依頼しやすく、活動しやすい状況をつくろうと、福多さんたちは有償サービスを提供することを検討。ところが、これが波紋を呼んだ。メンバーの中には「ボランティアなのにお金はもらえない」と反発する人も少なくなかったからだ。
 「それでも今の現状を打破し、私たちの町にも助け合い活動を根付かせていくには、新しい形のボランティア組織が必要。そう思ったんです。ボランティアに関する勉強をする中で、全国各地で、そうした有償ボランティアグループが活発に活動していることを知ったことも、励みになりました」
 こうして半年間にわたる議論の末、会をNPO法人化し、有償化に踏み切ることを決意。50数名いた仲間のうち、賛同者は11名にしか過ぎなかったが、このメンバーで2000年4月、NPO法人オリーブの会は新たな船出を果たした。
 「法人格を取得したのは、お金をもらうのであれば会計報告もきちんとして、社会的な信用を得られる団体に育てたいと思ったからです。世間に対して、“私たちのお腹は黒くありませんよ“との宣言も含めてね(笑)」








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