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特集 新しいふれあい社会を考える
開かれた学校づくり
新しい社会のビジョンは自立した市民がつくる
助け合い活動の中で培う心の安定感が社会を救う
取材・文/本間 信治
 「教育改革」という大きな課題が学校に与えられている。私は、そんな時に、一人の小学校教師の立場で、さわやか福祉財団に研修生として派遣されてきた(東京都教育庁より2000年度研修派遣)。さわやか福祉財団での1年間の活動を通して、そして全国各地の地域助け合いの活動に触れて、「新しいふれあい社会の創造」は一教員の目にどのように映ったか、初めて外から見た学校の姿はどのように映ったか、ルポしてみた。
「私にもできることがある」 地域たすけあい研修会から
 「私たちは、皆さんの現在の活動を見てすごいなあと感じてしまうのですが、いろいろな努力の結果、今日のようになったということがわかりました」
 これは、今年3月14日、秋田市で開かれた「地域たすけあい研修会秋田」の参加者から寄せられたアンケートの声だ。さわやか福祉財団では、毎年一般市民向けに、こうした地域で助け合い活動を行うための団体設立に向けた研修会を全国各地で開催している。2000年度は全国22道府県で計23回(北海道・東北4回、関東・甲信越6回、東海・北陸4回、関西・中国・四国5回、九州・沖縄4回)行い、1500名を超える熱心な参加者が各地の会場に集った。
 秋田でも、当初は、「参加者は30名ぐらいと予想していました」(実行委員の丹すみ子さん、「湯沢あかねの会」代表)ということだったが、研修会について知った人たちから前日まで申し込みが相次ぎ、最終的な参加者は見込みの2倍を超える78名、まさに熱気あふれる研修会となった(当日のプログラムは下記のとおり)。
 
「地域たすけあい研修会 秋田」プログラム(敬称略)
 
[1]開会の言葉
加藤 由紀子(ふれあい天童代表)
 
[2]主催者あいさつ
米山 孝平(流山ユー・アイ ネット代表/さわやか福祉財団 草の根推進プロジェクトリーダー)
 
[3]講演「市民意識が変わってきた 〜市民活動の必要性」
稲葉 ゆり子(たすけあい遠州代表)
 
[4]事例発表「こんな活動があるんです!」
(県外活動団体)
・給食サービス 藤田 佐和子(あかねグループ)
・移送サービス 米山 孝平(流山ユー・アイ ネット)
・ミニデイサービス 近藤 明美(おひさまくらぶ)
・在宅福祉サービス 須田 弘子(まごころサービス福島)
 
[5]分科会(もっと聞きたいコーナー)
・「私たちになにができるか」 〜立ち上げと、もう一歩前へ〜
(担当)米山 孝平、加藤 由紀子、石井 順子(ひまわり)
・ミニデイサービス、給食サービス
(担当)藤田 佐和子、稲葉 ゆり子、近藤 明美
・在宅支援・移送サービス
(担当)佐藤 敬子(かたくりの会)、高橋 礼子(こでまりの会)、須田 弘子
 
[6]個別相談コーナー
 
 今回講演を行ったのは静岡県にあるNPO法人たすけあい遠州代表の稲葉ゆり子さん。長年学校の事務職員として働いてきた中で、女性が働き続けることの難しさを実感して地域での助け合い団体設立に奔走した。司会者が「会場が狭くて申し訳ありません」と、おわびを繰り返していたが、皆、気にする様子もなく、真剣に稲葉さんの話に耳を傾ける。稲葉さんの思いと、今の自分の思いとを重ね合わせるかのように、うなずく人、メモを取る人…。稲葉さんは、助け合いの温かい取り組みを、いとも当然のことと淡々と話していく。その自然体の姿勢が聞く者の好感を呼ぶ。
 「つぶやきを声に、思いを形に」…、いい言葉だ。「待てよ、一人ひとりのつぶやきや思いを大切にすること、これこそ今の教育の課題ではないか―」。教員である筆者は、そんな思いが胸をよぎる。自分の周りに、何かを必要としている人がいるとき、放ってはおけない、という自然な気持ちと、できることから一歩を踏み出すことの大切さを学ぶ。
 続いて、4つの分野の事例発表が行われた。講師の熱の入った話に、皆がペンを慌ただしく動かしながらメモを取る。講師と参加者の一体感が強まっていく。それは事例発表のあとの分科会にもはっきりと表れていた。2時間という短い時間の中での参加者の変化を講師の皆さんは肌で感じ取っていく。
 「最初は、下を向いていて、いや、私なんかは、ちょっと…、と話していた人が、私にもできそうなことがありそうだ、と顔が輝いてきたんですよ」(秋田市の「ひまわり」石井順子代表)。感想文も同様だ。「難儀な仕事を笑顔で語れるようになるまでには大変だったと思いますが、とっても励まされました」「思いが形になり、その形が大きくなっていくのがすばらしいことだと思いました。思いは大事なことですね。私もできることからやっていきたい」(研修会アンケートより)
 ここには社会で指摘されるような“孤立無援な人”も、未来に希望を失った人も見られない。人が本来持っているやさしさを生かし、「自分の身の回りで、できることから一歩」を踏み出して助け合いの活動をしようとする前向きな意欲と熱気にあふれていた。
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「地域たすけあい研修会 秋田」には予想を大幅に超える参加者が集まり、熱心な視線が壇上に注がれた。写真左は講演者の稲葉ゆり子さん








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