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シリーズ・市民のための介護保険
ケアマネジャーをもっと身近に!
 この1年、「介護保険」という言葉はどのくらい私たちに身近になっただろう? 何かしら関係ある人にすれば「もう、見聞きしない日はない」と言うはずだ。だが一方で、今でも制度ができたことさえ知らない人もまだ大勢いる。ようやく産声を上げた介護保険をより実のあるものに根付かせるためには、利用者である私たちがしっかりと注文を出していくことが必要だ。本連載では毎号具体的なポイントを盛り込みながら「新しいふれあい社会づくり」における介護保険の役割を考えていきたい。
さぁ、言おう!
 ケアマネジャーの土台再整備を。独立性を保ち、介護保険のサービスだけでなく、NPO活動も含めた地域に存在するあらゆる機能を視野に入れた利用者本位のケアプラン作りの実施。
選ぶための情報も基準もない…
 介護保険制度の大きなキーワードは「選択」。どんなサービスを利用し、どの事業者を選ぶのか、決めるのは利用者自身だ。これまで行政から“施し“のように与えられてきた措置時代の福祉から脱却し、本人主体の福祉を実践していく旗頭が介護保険だ。とはいえ、素人である我々にいきなり「好きにしろ」と下駄を預けられても戸惑うばかり。そこでしっかりと利用者の味方になってくれる力強い援軍として登場したのが、ケアマネジャー(介護支援専門員)のはずだった。
 利用者の意思を汲み取り必要なサービスを組み立ててケアプラン(介護計画)を無料で作ってくれ、それを実行する適切なサービス事業者にもつないでくれる。しかしそんな願いとは裏腹に、利用者不在ともいえる実態が生じている。
 「結局、数が多くても自分では選び切れないから、ケアマネジャーが紹介してくれる事業者を利用せざるを得ない」と体験を話すのは、東京在住の主婦Yさんだ。Yさんの父親が大腿骨を骨折して入院、そのリハビリ中に病院を通じて介護保険の相談をしたため、ケアマネジャーもホームヘルプも通所リハビリ(デイケア)もみんな病院が関係する事業者になってしまったという。
 認定結果が出たときにケアマネジャーから渡された区の「居宅サービス事業者一覧」には驚くほどたくさんの事業者が掲載されていた。しかし「利用者の側に事業者の善しあしを判断する情報とか選ぶ基準がない以上、ケアマネジャーが勧めてくれるところを断るだけの理由もなくて」とYさんは言う。
 川崎市に住む編集者のSさんは、母親の要介護認定を通してケアマネジャーの力量による差をまざまざと痛感した。Sさんは母親が多発性脳梗塞で左半身が不自由になったため、主治医の勧めで認定申請し、要介護2と認定された。認定結果とともに市から事業者の一覧表が送られてきたが、それを開いて呆然としてしまった。膨大な記載の中からケアマネジャーを選ぼうにも手がかりがないのだ。
 そこで、母親の家に近い住所の「居宅介護支援事業者」ーケアマネジャーが所属しているところを数件洗い出し、自転車で様子を見に行ったが、マンションの一室だったり、いつ行っても留守だったり。途方に暮れたSさんは再び福祉事務所に行き、「一体どうやって選べばいいの?」と詰め寄ると、担当者はおもむろに台帳を開いて利用者の件数が少ないケアマネジャーを教えてくれた。
 看護婦出身の60代のケアマネジャーは、母の話し相手としてはよかったが、事務処理が遅く、依頼した手すりの取り付けが完了するまでに2か月半かかってしまった。同じ時期に違うケアマネジャーに住宅改修を依頼した友人宅では一か月も早く完成しており、「事務処理能力の違いを感じた」とSさんはしみじみ言う。
忙しく悩み多いケアマネジャー
 
 もちろん、ケアマネジャーの側にも言い分はある。その多くは、「親身になってやろうとすればするほど、目指したい理想と現実の狭間でもがいているようだ」。
 本誌編集部にはあるケアマネジャーからこんな投稿が寄せられた。
 新潟県内のある社会福祉協議会に所属しているが、「新年度の予算作成にあたり、上司から利用者数を増やすようにと厳しく指示され困っている」というのだ。利用者1人につき国からケアマネジャーに支払われる報酬単価は、要介護度に応じて6 500円から8400円。経営上、毎月の利用者を60件確保する必要があり、入院などのケースも考慮して「65件引き受けなくてはいけない」という。
 「良いサービスをしていくうえでは50人でもきつい。しかも高齢者相手の仕事なので話も一度では伝わりにくく、すべてに時間がかかるし…」と、上司からの指示に困惑の色を隠せない。
 「ケアマネジャーの資質にバラツキがあるなど課題が多いことは承知してますが、実際にやってみると煩雑なことが多く大変です」と話すのは、神奈川県茅ケ崎市の「湘南ひまわり」のケアマネジャー、中村和子さんだ。お年寄り一人ひとりの状態を把握してケアプランを作っても、体調不良や入院などでサービスが全く利用されないこともあり、そうなるとサービス事業者への連絡やケアプランの見直しに追われる。
 「一人ひとりのことが頭に入っていて、丁寧に対応しようと思ったら、30人くらいが適正だと思います」と中村さんは話す。
 厚生労働省が標準としている、一人のケアマネジャーが引き受け可能な人数は約50人。しかし、現場から聞こえてくるのは「50人はきつい」という声だ。全国23府県に設立されている介護支援専門員連絡協議会は現場が抱える問題の解決を図る機関で、連絡協の話し合いの中でも「月末は翌月のケアプラン作成と当月の介護報酬の請求事務で仕事量が膨大」「必要な知識を吸収する時間がない」などの声が次々に出るという。
知っていますか?
介護保険・おさらい
 
 介護保険で利用できるサービスは、在宅サービスと施設サービスに分かれ、それ以外のサービスとして福祉用具購入費と住宅改修費の支給がある。
 在宅サービスにはホームヘルプサービスなどの訪問系サービス、デイサービスなどの通所系サービス、短期入所(ショートステイ)の3種類がある。施設サービスには特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群の3通りがある。
 利用できるサービスの総額は要介護度に応じて限度額が決められていて、たとえば要介護2の限度額は月額19万4800円(介護保険では介護報酬はすべて「単位」という表示で定められており、要介護2は1万9480単位。1単位は基本は10円の換算。従って19万4800円となる。)
 この限度額以内であれば、本人が負担する利用料は介護報酬の1割。仮に要介護2の人が限度額いっぱい利用すれば、利用料は月1万9480円となる。限度額を超えた分については実費払いとなる。
ケアマネジャーは独立の形で
 
 こうした利用者側、ケアマネ側双方の苦悩に、ケアマネジャーの業務支援体制を整備する自治体も出てきている。
 仙台市はこの4月1日に「ケアマネジャー支援センター」をオープンの予定。市の社会福祉協議会に委託して相談窓口を設けるもので、ここにケアマネジャーのスーパーバイザーを常駐させる。
 センターの活動は、[1]相談業務、[2]研修の実施、[3]実態把握のための調査、の3本で、これらの活動を通して資質の向上を図るのが狙いだ。
 昨年の8月から9月にかけて仙台市は、ケアマネジャーを対象に彼らが所属する居宅介護支援事業者の実態を調べるとともに、作成したケアプランを提出してもらってケアマネジャー一人ひとりの資質を見る調査を行った。そこから浮き彫りになったのが、ケアマネジャーの資質にバラツキが大きいこと、困難なケースを抱えて悩んでいるケアマネジャーが多いことだった。こうしたセンターを作ることによって、「悩みの6割は解消できるだろう」 (同市介護保険課)とみる。
 常駐のスーパーバイザーは、[1]現場を知っていること、[2]経験を持っていること、[3]関連する法令など幅広い知識を備えている、の3要素を満たす人材で、スーパーバイザーによる助言と研修で、ケアマネジャーを重層的に支えていく。
 またケアマネジャーの問題に詳しい日本医科大学リハビリテーション科教授の竹内孝仁さんは、仙台市の試みを評価しつつも、「資質の向上は、本質的にはケアマネジャー自身が自助努力で行うべきもの。引き受ける人数も30人とか50人という数の問題ではなく、専門性をしっかり身につければ、おのずと多くのケースを引き受けられるでしょう」と語る。
 公的介護保険制度がスタートしてちょうど1年。寄せられる苦情の中でケアマネジャーに関するものは多いが、「創世期の混乱」を割り引けば決して解決不可能な問題ではないはずだ。というよりも、絶対に解決していかなけれはならないものだろう。
 なぜなら専門職としてのケアマネジャーは、単に介護保険のサービスだけを考えてもらっていては困る。福祉だけでなく医療・保健はもちろん、利用者が住む当該地域のインフォーマルな助け合い(ボランティア・NPO活動等)など、あらゆる要素・サービスを、一人ひとりの高齢者それぞれが主体的に心豊かに暮らしていけるよう心身両面から組み立てていくまでに育ってほしいからだ。そのためにも、やはりケアマネジャーは利用者本位の立場から、適切なサービス事業者を独自に選べるような縛りのない独立性を保つように、仕組みを再構築していくべきだろう。
 
華々しく参入した民間事業者の撤退が話題になっているが、一般民間企業あるいはNPO法人など、従来なかったような様々な形態が参入することでよりよいサービスへの向上にもつながっていく。もちろん単に数を増やすだけではなく、私たちが選択しがいのある市場に育てていくことが求められる。
介護保険指定サービス事業者登録状況(都道府県別)
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(参考資料:WAMネットより。3月3日時点)








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