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われら地域市民
ボランティアは“パフォーマンス“
現役サラリーマンだって自然流で
高井 一雄さん
 社団法人神奈川県経営者協会 事務局長
 「自分の能力以上のことや他の人にツケを回すようなことはすべきでない。ボランティアを特別視する必要もなく、やりたいときにできることをやればいい。パフォーマンスとしてボランティアを楽しむ気持ちが欲しい」と、さりげなくボランティアに対する考え方を語るのは、神奈川県経営者協会事務局長の高井一雄さん。現役のサラリーマンである。
 川崎市にある電子機器メーカーで日々の生産に追われ、非生産的なものには価値を認めない典型的な猛烈社員であったある日、ふと目を通した新聞記事に大きなショックを受けた。今から30年も前のことである。記事は、神奈川県にある海風学園という個人経営の心身障害者施設で保母さんが足りないという小さなもの。「こういう世界で必死に頑張っている人たちがいるんだなあ」という思いにかられ、さっそく海風学園に手紙を出し訪問した。この訪問が、高井さんのその後の人生観を変えることになろうとは思いも寄らなかったという。
 
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海風学園のチャリティーコンサート。右端が高井さん(横須賀文化会館)
 “パフォーマンス“の始まりは休日に仲間を誘っての雑草取り。これをきっかけに学園を外からサポートする後援会の活動に取り組んだ。夏はコンサート、春秋はチャリティーフェア、冬はバザーなどの開催を企画・運営し収益金で学園を支援、また日常活動を手助けしてくれる学生やサラリーマンボランティアなどの受け入れ窓口になるなど八面六臂の大活躍。現在では約500名の個人と30の法人に支えられる後援会の事務局長として学園には欠かせない存在である。
 1988年12月、障害者同士の国際交流を夢見て仲間と作ったNGO「日本・ネパール友好をすすめる会(JNFPA)」は、海風学園の園生3人の親善使節とともに、ネパールの首都カトマンズ郊外にある総合障害者施設ニューライフセンターを訪問した。ヒマラヤの地ネパールで同じ障害を持つ者同士にだけ通い合う心の交流に、高井さんも「ようやくここまでこぎ着けることができた」という思いで感激が胸いっぱいに広がったという。 現在、厚生労働省は、勤労者のボランティア支援を目的としたマルチライフ事業を推進中だが、高井さんの勤務する神奈川県経営者協会は、すでに5年前から企業のボランティア支援事業を推進してきた。企業内ボランティアコーディネーターの養成セミナーを開催するなど、マルチライフ事業を先取りしている。これからは全国の先陣を切って神奈川モデルを作りたいと、高井さんは“本業“でも張り切っている。
 高井さんにとって未知の世界であった「海風学園」と「ネパール」をたまたま垣間見たことからパフォーマンスは始まった。「“何か“のために“何かができる“、そういう感激をわずかでも体験したとき、人はモノの豊かさでない、心の豊かさを知ることができる」という高井さんの言葉には説得力があった。
 (取材・文/三上 杉)








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