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喜・涙・笑 ふれあい 活動奮戦記
 元気なお年寄りが困っているお年寄りを支えることで地域社会の活性化を図っていきたい
NPO法人なかまごころの会(神奈川県)
 
 「当会の協力会員には70代も少なくないんですが、ある方は利用者宅を訪れた際にまず、“ご主人のお仏壇に明りを灯させていただいていいですか“と聞いたそうです。そして、懐からティッシュペーパーを出して、きれいに仏壇を掃除して灯明を灯したところ、利用者さんは“私が一番したいことをしてくれた“とうれし泣きをされたとか。きっと仏壇が汚れているのがパッと目に付いたのでしょうが、この話を聞いて私は目から鱗が落ちる思いでしたね。こういうことが喜ばれることなんだと。普通、援助の依頼を受けたら、家の中の掃除をするとか、食事を作ったりといった決まりきったことしか考えないものですが、我々とは違う視点でそういうことが自然とできる。それが世代ギャップの少ない介護のいいところではないでしょうか」
 
 同志が集う和気あいあいとした雰囲気の事務所でこう語るのは、神奈川県横浜市中区で高齢者に対する在宅福祉サービス活動に取り組む「なかまごころの会」の理事長・白石孝徳さん。
 93年に「なか老人福祉まごころの会」としてスタートを切った
(5月22日の総会風景)
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「元気な高齢者」という埋もれた人材を発掘
 同会は1993年5月、「80歳を70歳が支え、75歳を65歳が応援する」という構想のもと、高齢者の相互扶助団体として発会した。
 「当会の提唱者である横浜市会議員の伊波洋之助さんのもとを、横浜ボランティア協会専務理事を退職された大塚常男さんと共に訪れたのは、発会前年の9月のことでした。私たちを前に伊波さんはこう言った。“今、中区は高齢化率が市内で第2位です。高齢者の方々は、長い間ご苦労をなさって今の世の中を築いてこられた。なのに今、寝たきりや一人暮らしといった不自由な生活の方が大勢いる。この方々の支えになってほしいのです“と。これがきっかけで、来るべき高齢化社会に備えて、市民互助の会を区内に作ろうということになったのです」
 以来8か月、7名の発起人が週1回の割合で勉強を持ち、老人福祉活動をしている団体の調査や訪問による資料の収集を行いながら、周到な設立準備をすすめてきた。高齢者同士の助け合いに的を絞ったのは、高齢者の8割が元気で健康な現状に注目したからだという。
「年を取ると、人との接触がなくなり寂しさが増し、生きがいもなくなる。この状況はお年寄りにとって大敵です。年寄りは何もせずにテレビでも見ていなさいでは、元気なお年寄りも寝たきりになってしまう。だから、健康なお年寄りに生きがいを見つけてもらうため、同世代の老人介護に取り組んでもらう。そういうシステムを考えたのです」
 狙いはズバリ当たった。口コミなどを通じて会の発足が伝わると、介護や家事援助を希望する高齢者が瞬く間に100人も集まった。それだけではない。手助けをしたいという「協力会員」にも、60〜70代を中心に約200人の申し込みがあり、さらに資金援助を申し出た賛助会員も法人が40〜50社、個人が約400人に達した。「生きがいを求める元気な高齢者」という埋もれていた人材が発掘されたのだった。
「設立時は赤字の不安もつきまといましたが、多くの賛助会員が集まったおかげで、事務局の経費もなんとか賄え、1時間850円の利用料を、事務手数料を差し引くことなくそのまま協力会員にお渡しすることもできました。とはいえ、当初数年間は有志がポケットマネーをつぎ込みながらのやりくりでしたけれどね(笑)」
 こうしたボランティア団体の場合、地域からの信頼を得るまでに比較的時間がかかるものだが、発起人が元校長先生や元PTA会長、民生委員など、長年にわたって地域に貢献し、幅広い人脈を持つ人たちだったこともあり、その活動の意義が認識されるのは早かった。活動実績も順調に伸び、初年度で1403時間、4年目には1万時間を超え、介護保険施行前年の99年度は2万5000時間を超えるまでになった。またその活動の輪は、現在では中区以外の横浜市内の8区にも広がり、これらの区では預託時間の相互利用が可能になるなど、ネットワーク化も進んでいるという。
 
地域との自然の交流を目指して朝市にも出店
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調理実習にも真剣なまなざし
介護保険の枠の内外関係なくまごころで接していきたい
 
 「協力会員の中には、毎日病院通いをしていたのが、活動を始めた途端に元気になり、病院とはすっかり縁が切れてしまった人もいる。生きがいを見つけて、現役復帰をしたわけです。そうかと思えば、お嫁さんから“お母さんはもう、台所のことはしなくていい“と言われてしょげていた人が、利用者宅に行ってホウレンソウのゴマあえを作ったところ、 “ああ、ゴマあえなんて、何年ぶりで食べただろう“と喜ばれ、それからは、昔作った料理をふるまうことが、何よりの喜びになったという人もいました」
 
1992年9月 設立準備会を組織
1993年3月 会員募集開始
5月 「なか老人福祉まごころの会」設立総会
1994年 ほどがや「まごころの会」発足(5月)。あひ「まごころの会」・さかえ「まごころの会」発足(8月)。こうなん「まごころの会」発足(12月)
1995年 かながわ「まごころの会」発足(10月)。こうほく「まごころの会」発足
1996年7月 「横浜まごころの会連合会」発足
1997年11月 にし「まごころの会」発足
1999年11月 NPO法人なかまごころの会の認証を受ける
2000年4月 指定居宅サービス事業者として、介護保険事業に参入
2001年1月 かなざわ「まごころの会」発足
 
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 市のケースワーカーの「地域の高齢者」研修(左から4人目が白石さん)
 
 この8年間の介護の活動の一端を、こんな事例を挙げて紹介してくれた白石さん。人は自分の行動が認められて、相手に喜ばれ、感謝されると生活にハリが出る。それは定年後の第2の人生を、助け合い活動にかけた白石さん自身が誰よりも強く実感していることでもあるようだ。
「また、“老老“介護は介護する側とされる側の年齢が近いので、会話も弾みやすい。そのおかげで、寝たきりだったお年寄りが介護を受ける中で刺激を受けて、だんだん元気を取り戻し、散歩や買い物を楽しむまでに元気になった人もいます」
 現在、同会の協力会員の平均年齢は約64歳、利用会員のそれは約80歳。70代後半の協力会員が70代前半の利用会員をサポートするといった逆転介護や、発足時は協力会員だったのが、歳月の経過とともに、協力会員から利用会員へと移行したケースも少なくないという。まさしく、できるときにできる人ができることをし、助けが必要になったら大手を振って助けてもらう。ごく自然な形で発展する、市民互助活動の実践がここではなされていた。
 そして、公的介護保険制度が施行された2000年4月から、指定居宅サービス事業者として介護保険事業へも参入。「介護保険になっても、まごころの会のヘルパーさんに継続して来てほしい」との利用者の声に押されてのことである。
 「介護保険でカバーできる部分は保険で賄い、そうでない部分はこれまで通りの助け合い活動を行うという2階建て方式で運営していくことにしたんですが、制度施行後の活動状況としては、助け合い活動はほぼ半減し、その分がそっくり介護保険事業に移行したという印象です。現在当会には40名弱の有級ヘルパーが在籍していますが、60代の協力会員の方もヘルパー資格を取るなどの動きが活発なのは、心強い限りです」
 そんな同会の今後の予定は、指定居宅介護支援事業者の指定を受け、よりよい地域支援の提供ができるような体制を整えることだという。
「この1年、介護保険事業にかかわる中で、在宅福祉の現状を知らないケアマネジャーが少なくないこと。それゆえ、利用者のニーズを汲み取った介護メニューが提供しきれていないことを感じました。ですから当会では今、医療機関との提携や区内の各種在宅支援サービス事業所同士のネットワークづくりなども推し進めています。まあ、これからは介護の世界も市場の競争に巻き込まれることは必至でしょうが、いずれにしても主役は人。ですから保険の枠内であれ、枠外であれ、まごころで接するという基本精神だけは変わることなく、力まずに今までどおり、地道に誠意ある活動を続けていくつもりです。そして、介護保険の事業で得た収益金で健全財政を築き、助け合い活動を支えていきたい。そんなふうに考えています」
 
 神奈川県中区に本拠地を置く「なかまごころの会」は、地域の人々が住み慣れた町で安心して心豊かに暮らし続けていくために、少子高齢社会の中でお互いに助け合い、支え合うことのできる町づくりの推進に寄与することを目的として設立された市民互助型のNPO法人。主な活動内容は家事援助と身体介助。会員になるには利用会員、協力会員共に年会費3000円が必要。賛助会員は年会費個人1口3000円、企業団体1口1万円。サービスの提供を受けるときには1時間850円の利用券を同会から購入し、介護を受けた後、利用券を協力会員に渡す。協力会員は受け取った券の数を同会の事務局に知らせ、券の枚数分の現金を受け取るという仕組み。時間預託も可能。また、指定訪問介護事業者として、介護保険を利用したサービスも受けられる。(→連絡先は最終頁)
車イスの研修の様子
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利用者と一緒になっての「まごころ」にあふれた会を目指す(見学会から)
 








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