身よりのない人の老後に共感
献体とはどういうものか?
高橋 寿夫さん 65歳 埼玉県
「身よりのない老人の記事(2000年11月号・当世高齢事情)は人ごとと思えませんでした。もしかすると明日は我が身。うろ覚えの記憶ですが「献体」というのはいかがでしょうか。大学の医学部の学生に解剖用に提供するのです。所定の手続きをしておきますと、大学側が全部やってくれるようです。下品な言い方ですが、安上がりできちっとやってくれるので安心なのではないでしょうか」
「献体」とは、自分が死んだ後に自分の遺体を提供すること。解剖実習の教材として役立ててもらうことになる。ただし、本人の意思が及ばない中で貴重な人体を提供するわけだから、申し込みから実行までには約束事がたくさんある。
まず申し込みだが、全国の医科・歯科大学それぞれに独自の献体篤志希望者の会があるところが多い。(病院ではなく)医学部・歯学部のある大学の事務に問い合わせると、会の連絡先を教えてくれる。また東京の白菊会本部は全国組織で、東京大学をはじめ24大学に支部がある。
申し込みの際には家族全員の了解が必要で、天涯孤独という人も登録の際によく相談してみよう。費用は、遺体引き取り、保存処理、解剖、納棺、火葬までは相手側が持ってくれるが、いわゆる葬儀費用は出ない。葬儀をどうしたいのかも(遺体なしの葬儀、葬儀後の遺体引き取りなど)前もって決めておきたい。登録者が亡くなると連絡が入り、大学が遺体を引き取りに来る。遺体は、最終的に遺骨となって遺族の元に帰る。遺族がいない場合は献体先の大学の納骨堂に納めてもらうことも可能な場合があり、また遺骨が帰るまでの期間は、その時の事情にもより、数か月から、長い場合は数年を要することもあるという。
横浜市立大学医学部内の献体希望者の会「有美会」会員の遺族に聞いてみた。
「晩年は寝たきりになって看護婦さんのお世話になる一方だったけれど、若い医学生の勉強の役に立てたことで本人も満足だったろうと思います」(81歳の夫が献体)、「入院した病院は、献体を希望した大学病院ではありませんでしたが、枕元に献体の意思を示す会員証を置いていました。そのせいか看護婦さんたちの接し方も丁寧で褥そうもできず、手厚く看護してもらいました。病院の霊安室で一夜を明かして朝、大学病院から車が来て引き渡しました。大学主催の合同慰霊祭で医学生の感謝の言葉を聞いて、最後まで誰かの役に立てたと、胸がいっぱいになりました」(79歳の義父が献体)。
また新しい会員の話も聞いた。
「臓器のドナーにはなれないけど、アイバンクと献体には登録しました。独身なので死後のことをすっきりさせておこうと思って、きょうだいをはじめ遠い親戚まで、連絡できる人全員に了解をもらい入会しました」(63歳)。
この人は、3、4年前、朝日新聞紙上「折々のうた」の「献体を約して荒地耕しけり」という句で献体を知って以来、考えてきたという。
ついでながら臓器移植と献体を共にすることはできない。献体を希望する人が重複して提供できるのは角膜だけだ。臓器移植のドナーになるには、全国の郵便局、コンビニエンスストアなどに置いてある黄色い「臓器提供意思表示カード」に必要事項を記入し、常に携帯しておけばよい。
献体という言葉はまだそれほど耳になじんではないかもしれないが、それでも、先ほどの白菊会では、会員が3万人を超えているという。医療従事者の人たちは、提供すると申し出て亡くなった人たちの尊い遺志をしっかりと引き継いでほしいものだ。
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