II 社会適応促進諸事業
1.国際結婚・離婚に関する問題へのカウンセリング
今年度は、前年度と同様に日本財団(日本船舶振興会)からの補助金を受けて、国際結婚・離婚にともなうカウンセリングおよび相談援助を行った。国際化といわれる現代社会では、インターネットなどによる高速で大量な情報の飛び交う中、人々の移動も、速さばかりでなく、量の多さも大きな特長である。人々の出会いも国を越えたものになっている。そうした状況の中で、自分の国を離れて結婚し、生活する人々が問題を抱えた場合は、自分一人ではなかなか解決が困難である。特に結婚・離婚にともなう法的な問題は、子どもの親権などが絡まってくると解決はより難しくなる。夫婦がすでにそれぞれ他国に住んでいる場合は、困難は一層である。手紙、電話やFAXを通して様々な相談が入ってくる。最初のインテークの時に電話であれば丁寧に聞き、適切な情報を提供したり、他の機関を紹介したりもする。問題によっては継続して対応し、必要があれば、ISSJに来てもらって話を聞く。また、こちらから訪問することもある。長期的にカウンセリングが必要な場合は、担当者が決められ対応している。ISSJは世界的なネットワークを持つジュネーブのISSの日本支部でもあることから、ISSの各国支部およびコレスポンデントからも国際結婚、離婚に伴う子どもの親権、面接権、養育費に関する問題が持ち込まれ対応している。
国際結婚は年々増加している
国際結婚をする日本人男性が多くなり、共通語を持たない妻と夫とのコミュニケーション、育った国、文化や環境の相違から誤解も生じてくる。これらに対応して時には、個別にカウンセリングを行う。
さらに家族状況の変化、たとえば夫が職を失う、事故にあったり、病気になるなど頼りにしていた夫に変化があると精神的ばかりでなく、経済的にも不安定となる。また、夫が不幸にも死亡した時は、妻は夫の相続や墓の争いごとに巻き込まれたりする。無断で子どもを連れて母国に帰ったまま妻や夫の元に帰りたがらないケースや、妻が子どもをおいて行方不明になるケースもあり、夫や妻の連れ子、さらに二人の間に生まれた子どもが絡んでくると、子どもの幸福を守るためにより慎重かつ平等な視点でのカウンセリングが求められる。家族間の問題は夫婦の関係が根本にある。ISSJが関わっている時がたとえ彼らの生涯のほんの一時であろうと、その時の課題に当事者が真摯に向き合うことが大切であり、そのための援助が求められている。
インテーク中のソーシャルワーカー
◆香港における国際結婚・離婚に関するカウンセリング◆
5月に香港において、韓国、台湾、香港、タイ、中国そして日本のソーシャルワーカーが各国における国際結婚の実情、特に中国・台湾国籍の人が関係する場合の問題点およびその解決方法について情報交換をし、今後の協力を確認しあった。
最初に異文化社会での生活からくる問題点について、各国の参加者から報告があった。日本で生活する人が一番問題とする言語および慣習の違いと宗教への考え方の違いは、いずれの国においてもかなり深刻な問題となっていることがわかった。特に夫婦で共通の言語がないため問題がより深刻化してしまったり、毎週日曜日に教会へ行く事に拒否反応をする夫や、寺院にお参りさせられることへの妻の反発なども結婚前にお互いの文化を知らなかった結果ともいえる。
香港人の夫と日本人の妻のカップル
また、親族の中で経済的に豊かなものが一族を養うという多くのアジアの国の慣習が理解できないため、実家に仕送りをする妻に夫が不満を募らせ、破綻する場合もある。さらに夫が働いて得たお金を母国の家族に仕送りし、預金がなくなったら行方をくらました妻の問題も、深刻な問題として取り上げられた。また、離婚後滞在資格を喪失した人への相談援助や、離婚して失意のうちに帰国した人への帰国後のカウンセリング、夫が死亡したために経済的困窮に陥った人への援助、さらに子どもがいる場合は離婚後親権者がどちらになるか、生活の場はどこにするかなど様々な問題が出てくる。それゆえ結婚前にカウンセリングを行い、お互いの背景も含めて理解しあうことが重要と確認された。今後、問題を抱えた人を支えるために、参加者がお互いにそれぞれの国の家族法や民法などの法律と、慣習、文化、宗教についての情報を交換し、より確かなカウンセリングが出来るように協力をすることで合意した。この活動は日本財団の助成によって行うことが出来た。
◆フィリピンにおける国際結婚・離婚のカウンセリング◆
8月にフィリピン・マニラにある児童保護施設を3カ所訪れ、国際結婚をした日本人父とフィリピン人母の間に生まれ母が行方不明となり、父がフィリピンで借金のため養育できなくなって施設に預けた4人の子ども達や日本から強制送還された同じように日本人を父に持つ子ども達二人と面会した。フィリピンの社会福祉開発省(DSWD)のソーシャルワーカー達と、ケースの背景にある国際結婚・離婚に付随して起こる問題とその対処方法について討議を行った。また、国際結婚あるいは婚姻外で生まれた子どもたちを日本の児童保護施設に預ける親が増えているため、DSWDソリマン長官やソーシャルワーカー達と、親への支援方法や、DSDWとISSJが円滑に問題解決をするための協力について、有意義な話し合いを行うことができた。2カ国にまたがる結婚・離婚の問題を持つ人々の支援には、その2カ国における援助者の協力が不可欠である。この活動は日本財団の助成によって行うことが出来た。
見学した児童保護施設
事例6:国際結婚の離婚カウンセリングと親権変更の援助
アメリカ合衆国の中西部州の厚生局より、日本に在住する家族Iの家庭調査の依頼がISSJに寄せられた。日本人夫とアメリカ人妻が、日本で結婚生活を開始した。この夫妻の間には、日本とアメリカ両方の国籍を有する二人の子どもがいる。しかし、夫婦関係の悪化に伴い、母親は二人の子どもを連れて米国に帰国してしまい、父親と母子は別居状態となった。ところが、母親は薬物使用により、州刑務所に収監することになった。州の裁判所は薬物中毒の母親から、子どもの親権を一時的に剥奪し、州の保護下に置いた。裁判所は、この二人の子どもの処遇を決定するにあたり、日本に住む父親、およびその家族の養育能力を調査の上、報告書を提出するよう、州厚生局に指示した。厚生局が在日アメリカ大使館に連絡を取ったところ、ISSJを照会され、厚生局はISSJに本ケースの家庭調書の作成を依頼した。
依頼を受けたISSJは、早速、父親と連絡を取り、父親とその家族に州裁判所の見解を伝え、家庭調書作成への協力をお願いした。担当ワーカーは、父親、および同居の祖父母と面接の上カウンセリングを実施するとともに、家族の家庭環境、経済基盤、地域の社会資源等を調査し、二人の子ども引き取りについての詳細な計画を報告書にまとめ、州厚生局に提出した。
その後の裁判の結果、子どもの親権は、州当局から父親に委譲され、二人の子どもは日本に住む父親のもとに引き取られることになった。州の裁判所は、厚生局に対し、子どもが父親に引き取られてから、最初の6ヵ月間は、3ヵ月ごとに2回の適応調査報告書を提出するよう義務付けた。ISSJは、家庭訪問を実施し父親と子どもへのカウンセリングを継続していった。
子どもは、父親と祖父母の深い愛情に育まれて、元気に暮らしている。学校を含めた地域社会の支援を受け、友達にも恵まれた子ども達は、言葉の習得も順調に進み、日本での生活には順調な適応を遂げている。国際化が進むに連れ、国境を越えて家族を守るためのカウンセリングの必要性を痛感する。