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3.無国籍児の問題・子どもの送還
◆無国籍児・外国籍児・未就籍児の問題◆
 最近外国籍女性が日本で出生した子どもが増えてきた。その中には、未就籍や国籍確認の出来ていない子ども達が多く存在している。未就籍とは出生届がどこにも出されていないことで、法的にはこの世に存在しないということでもある。また、出生届を日本の役所に提出したり、外国人登録をしたことで国籍確認が出来たと思っている人が多くいるが、国籍はその国の政府にしか与える権利はない。日本の市町村役場が外国人の国籍を決めることは出来ない。外国人登録に書かれる国籍がパスポートを確認した上で記載されたものではなく、医師の発行した出生証明書に書かれてある国名(その多くは本人の自己申告である)によって国籍が決められた場合は本国に国籍確認をしなければならない。
 無国籍とはいずれの国からも自分の国の人ではないと拒否される人のことである。例えば、ある国のブローカーにだまされて偽装パスポートで入国し、パスポートを紛失したり、有効期限が切れた後、その国から自国の人ではないのでパスポートの再発行を拒絶された人や出生後実母が行方不明となり、外国人母というだけで姓名の特定が困難な場合も無国籍となる。またその国の法律で、出生後何日以内に本国の政府に届け出ることで国籍取得が出来るとなっているのに、本国に届け出ができなかった場合も無国籍となる。こうした無国籍、未就籍、国籍確認の出来ていない子どもや人々への援助は、相手国政府、大使館との交渉を行わなければならず、法律と照らし合わせからする援助活動は時間がかかる上困難を極める。国籍取得、国籍確認、就籍手続きに必要な書類整備や翻訳さらに国籍確認ができた後本国に送還する。
 
◆国籍取得・確認・送還援助◆
 ISSJでも7〜8年前から外国人女性が出生した日本生まれの未就籍、国籍確認の出来ていない子どもの相談が援助として増えてきた。今年度、東京メソニック協会から助成金を受け、実母が超過滞在のため出生届が出されていない子どもの就籍、日本で出生し実母に遺棄された外国籍の子どもの本国送還、生地主義をとる国の子どもで日本で出生したため届けができない無国籍の子どもの国籍取得などの援助を行った。特にフィリピン国籍の大人や子どもへの援助が多く、ほとんどがフィリピン大使館および日本の入管からの依頼である。「強制送還」の対象となる子ども達は、フィリピン国籍の父母あるいは、フィリピン国籍の母親と日本人男性またはフィリピン国籍以外の外国籍を有する男性との間に出生した非嫡出子であり未就籍、超過滞在である。またこれらの子ども達は、彼らの両親に遺棄され、友人、知人または親戚の人々に預けられている。フィリピン国籍の母から出生した非嫡出の子の国籍はフィリピン国籍であり、親権者は実母である。しかし、ほとんど実母に関する確実な情報は残されていない。
 ISSJの援助は、まず現在子どもを預かり世話をしている人の面接から始まり、子どもの出生届がフィリピン大使館に出来る状態を整えて行く。また、実母が行方不明の場合、客観的にそれを証明するために、実母捜しに今まで試みた手段とその結果を集めなければならない。関係者との面接で得た情報や子ども達の父母が、どのような生活状態の中でこの出産に至ったか等々、日本での生活歴をレポートにまとめなければならない。このレポートは、DSWDとフィリピン大使館に提出されている。
 一方、ISSJはフィリピンで受け入れる人達の受け入れ能力、また受け入れ意思確認をDSWDのソーシャルワーカーに依頼し、客観的調査内容を送ってもらう。また子ども達の日本からフィリピンまでのエスコートの人選についてもDSWDとの密接な連絡で決定し、その許可証を発行してもらう。この様な書類が整うとフィリピン大使館は子どもの渡航書を発行し、日本の入管は日本出国の許可書を発行してくれる。
 しかし、強制送還のなかには、日本で出産費用が払えないため借金しているなど経済的理由から子どもだけを帰国させ、親は日本で働き続けるケースもある。彼らは、子どもの世話で規則的に仕事に従事できないし、ベビーシッターを雇うには費用がかかる。超過滞在のため健康保険に加入できず医療費が高額となるので子どもが病気をしても病院にいかれない。帰国してもフィリピンに仕事がなく、借金返済が出来なくなる等々の現状を抱えており、親は1〜2年日本に残って働き借金を返済し終えた後帰国することになる。
 もちろんISSJは超過滞在を決して容認はしていない。我々は機会がある度に超過滞在者に厳しく強く本国への帰国を勧め、法律に違反するのは罪であることを伝えている。我々は、違反行為は容認すべきでない倫理観と不安定な社会生活の中であえて超過滞在を続けなければいけない現実があることを知らされ、この矛盾する状況の中で大きな心の葛藤を抱えながら仕事をしている。
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国籍はすべての人に与えられた権利
事例5:子どもの強制送還ケース
 強制送還の対象になる子どもの援助でISSJが常に抱える問題の一つに子どもの渡航費の問題がある。ISSJは相談事業には関わるが、相談者への金銭的援助はしていない。
 Hはフィリピン人の母とイラン国籍の父親との間に非嫡出子として日本で生まれた。父親はHが生まれる前に姿を消してしまい、母親もHを出産後まもなく児童相談所を通して乳児院に預け、子どもの身の安全が確保されたことに安心したのか行方不明となった。
 ISSJは、Hの強制送還の手続きを色々な困難を越えて終了したが、最後で、子どもの渡航費をどうしても作ることができないこと、本国まで子どもに同行するエスコートを探せないと言う二つの問題に直面した。思い切ってフィリピン航空のプレジデントに事情を訴え、無料航空券の発行を依頼した。何度かの調査を受けた結果、快諾していただくことが出来た。エスコートはDSWDから派遣され、ISSJの一年間の研修を終え帰国するフィリピンのソーシャルワーカーが行い、Hをフィリピンに連れて帰り、DSWDを通してフィリピンの施設に委託した。ISSJが関わるケースで強制送還のケースに限らず、多くの人々、機関などの好意と理解を得てはじめてISSJとしての責任が果せることを感謝している。
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子どもの成長に家庭での愛情は大切である








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