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第6章 リスクマネジメントと看護記録
I.リスクマネジメントをめぐる用語の概念
 「To err is human」 人は、間違える可能性がある。
 医療職を守るのも記録、その逆もまた記録である。
 記録記載の基本は事実・真実が中心となる。
1.記録に関して使用する用語の基本的意味について
1)charting:記録を作成する
2)recording:再生を見込んで保存する
3)documentation:参考資料、証拠書類(事実を記録ドキュメントは記録映画)
4)reporting:報告する
5)communicating:伝達する
記録とは、のちに伝えるために書くこと。そのもの。
2.リスクマネジメントをめぐる用語:基本用語を理解すること・理解して使うこと
1)事故とは:患者をはじめとする対象者に実際に障害が発生したことおよび決められた手順を守ることができなかったこと(鮎沢、2001)
2)リスクとは:予想された結果と現実の結果との相違。損失、損失の可能性。(鮎沢)
3)事故予防とは:リスクマネジメントである。
4)リスクマネジメントとは:組織に損失を与えるリスクを認知し、評価し、対応していくプロセス(鮎沢1998)
最近では、リスクマネジメントといわず患者の安全性改善のプログラム(李講演)
[1]報告の義務化 [2]根本原因分析 [3]再発防止策の構築 [4]患者への情報開示
5)医療事故とは:診療過程で生じる人身事故。human error(注意不足、確認不足)
6)医療過誤とは:過失によって生じた医療事故(押田 茂實他:医療事故、医学書院2000)
医療過誤とは、医療事故の一類型で、医療従事者が医療的準則(医療的常識)に違反して患者に被害を発生させた行為(厚生省国立病院事故防止指針2000)
7)医療におけるリスクマネジメントの目的は、事故防止活動などを通して、組織の損失を最小に抑え、"医療の質を保証する"こと。(鮎沢、日本看護協会2000)
3.リスクマネジメントの目的
 患者と職員の安全と安心の確保を通して組織に与える損失を最小限に抑えること。
4.リスクマネジャーの育成とインシデント分析
 アメリカでは医療現場の知識をもつ看護職が法律、保険、組織管理などの知識をもって活躍(看護協会や学会で育成、認定)。日本でも、2000年度からリスクマネジャーの育成がスタートし、各病院でリスクマネジャーを置くようになった。
5.リスク管理の対象:事故の予防、紛争/訴訟の予防、紛争/訴訟の対応
 
*リスクマネジメントにおいては、何よりも事故事例の分析と予防、ICおよびコミュニケーションが基本
II.リスクマネジメントと看護記録
 この1年で、社会の看護記録への認識は異なってきた。看護記録の開示を求める例や遺族への開示を承認する病院も増加している。
例:看護記録に「誤注入の問題に関して真実を告げていないことへの葛藤を記載したこと」も事実認定の資料となり、告訴の一資料とされている。(2001年)
1.医療過誤問題で問われる事:
[1]予見出来たか [2]予見に基づき回避出来たか [3]因果関係があるか
現状の看護記録は、予見が多く記載されてすぎている。予見を作っている傾向がある。それに対する回避行為の記載は少ない。
[1]問題点・看護問題・看護診断/問題リスト [2]経過記録:特にアセスメント
根拠に基づいた発生確率の高い予見は重要である。そして発生確率の高い予見できる問題に対しては回避行為の実行と結果の記載を行うべきである。
裁判例:褥瘡、ベットからの転落は予見可能であり、回避義務がある。
2.看護記録記載がリスクマネジメントにも貢献
1)コミュニケーションの手段としての看護記録:概念と記載目的の理解
基礎情報、問題リスト、看護計画、経過記録
2)ケアの水準(レベル)の維持と効果的、効率的な医療の提供の手段
例:クリニカルパス
3)適切な業務を遂行した事実を証明
予見に関しては、回避義務を実行した事実、さらに安全を確認した事実を記載する。
(1)証拠保全:医療事故訴訟裁判の資料が診療諸記録
4)記録記載の原則を決める
医療行為の記載や異常を発見した場合などの記録は、意図的に、どのような事実・情報を記載するべきか基準を確認する。(看護手順などに記載事項の約束がある)
例 医療行為、患者の観察・異常に関する
意識をすることによって、何が重要なのか、手順など常に意識・確認ができる。
例 筋肉内注射、抗ガン剤の注射、輸血等の医療行為を行った場合の記載基準
転倒・転落の予見や起こった場合など記載例を明示する。
5)無防備な看護記録の現実(誤解を招くことも含めて)
 [1]個人的感情の記載 [2]感想、憶測・個人的見解
記録作成上の注意(日本看護協会「組織で取り組む医療事故防止」より)
看護記録は、日常の活動に活用するために正確かつ簡潔であること、また、分かりやすく読みやすいことが必要である。
 それには「必要なことはもれなく記述し、必要でないことは一つも書かないことが仕事の文書を書くときの第一の原則である。」








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