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II.問題リスト
 看護記録の中で、最も影響力をもつのが、「患者の問題」である。看護実践・看護計画および経過記録に影響する。問題が適切であり、妥当であるかの検討をすることによって看護記録は、意味ある記録へと変わる。 問題リストが適切かどうかの簡単な評価方法は、経過記録を読み、経過記録に書かれている内容が、問題リストと一致しているかどうかをみれば、問題が適切か、現実的かがわかる。
 問題リスト用紙には、問題とは、問題リストとは、の概念・定義を印刷する。
1)問題とは、問題リストとは、何かを明らかにして、この概念・定義に該当する解決するべき問題を記載する。
2)あくまでも患者の問題とする。
3)患者の問題とは何か、概念・定義を明確に文章化をする。この概念・定義を基に、問題を判別して、記載する。
1.問題とは
 問題とは、看護を必要とする人が健康生活を営むうえでの心身の機能・能力を妨げるような事項である。この概念だけでは理解出来ない場合には下記も参考に出来る。
 :具体的には、患者にとって辛いこと、苦しいこと、解決してほしいことも含む。看護婦・士として、専門的立場から何が問題となるか、定義から判別をする。このことが解決できれば、生活に戻れる。このことが解決されれば治療に専念できるなど、患者と共に立案する看護計画は、共に問題は何かを話しあうことから始まる。
1)問題とは、何か:参考となる基本的な考え方
 アメリカ看護婦協会の声明にある下記の「看護介入すべき人間の反応」は、普遍的な患者の問題として参考になるであろう。介入とは、問題を解決するという意味である。患者が下記のような状態にある場合には、問題として介入が必要であるという考え方である。下記の(1)〜(10)は、健康生活を営む上での心身の機能・能力を妨げるような事項であり、介入が必要であるという考え方である。
(1)セルフケアの限界(註 日常生活動作の遂行が困難)
(2)休息、睡眠、呼吸、循環、活動、栄養、排泄、皮膚、性、その他の機能障害
(3)疼痛と不快
(4)疾病や治療に関連した生命を脅かす出来事、情動上の問題、あるいは不安、喪失、孤独、悲嘆などの日常的な経験
(5)対人関係や知的な働きの中に反映される、幻覚などの象徴機能のゆがみ
(6)意志決定や個人的選択をする能力の欠如
(7)健康状態によって生じる自己イメージの変容
(8)健康について自分の状態を適切に理解が出来ない
(9)出生、成長・発達、死などライフプロセスに関連する心身の緊張
(10)問題のある親族ないし準親族関係
2.問題リストとは(日本看護協会2000)
 医療保健チームメンバーが解決すべき患者の問題を列挙したものである。
 List・リストというのは、一覧表という意味である。(日野原)
 :看護診断は、問題リストの一部に包含される。
 看護診断リストとするなら異なる。しかし、実際の経過記録を読むと、医師の指示に基づく医療行為が記載されている。この医療行為の記載は重要である。一貫性が大切である。
3.入院理由・目的と問題の一致
 第1に挙げるべき事は、入院の理由・目的(生活を営む上で心身の機能・能力を妨げる何かがあったから入院)である。すなわち、入院診療計画に記載された問題は協働の時代の医療・医療の担い手としての看護婦・士も共問題解決に取り組むべき問題でもある。
 定義・概念によっても異なるが、もし、日本看護協会の定義に準ずるなら、医学的問題、共同問題、看護診断とは分けずにの医療チームメンバーが協働で解決するべき問題を記載することになる。顕在する問題が優先する。
 患者とともに、問題解決に取り組むことのの意味
その人らしい生活を送っていた
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医療提供:コラボレーション
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 カルペニートは、医学的診断共同問題、看護診断に分類「患者の問題」の概念をどのように考えるかが課題
 
 現在、多くの場合、患者の問題を、医学的診断、看護診断、共同問題とに分類している。POSは本来このような分類はしない。全てが患者の問題である。多くの看護婦・士は、患者がもっている問題の中で、看護婦・士が介入可能な問題すなわち共同問題と看護診断に焦点をあて、問題リストに挙げている。この考え方が適切なのかどうかの検討が必要である。看護診断と共同問題を挙げなければということが、問題探しや可能性という現実から乖離した問題を挙げる要因にもなっていると考えられる。
 さらに、POSは問題を解決することによってアウトカムをめざすことから、不確実な予測される問題は挙げない。信頼性がないからである。何が問題であったのか信頼できるデータが失われる。
例 肺合併症の可能性ではなく、ヘビースモーカー・早朝の痰、さらに呼吸機能検査結果から、軽度閉塞性呼吸機能障害という問題が挙げられる。
POSでは、診断確定までのプロセスも重要視される。
入院直後に医師が記載した問題リスト(診断が確定していない患者の例)
#1.乾性の咳、発熱、胸部濁音界、右下肺後部ラ音、右下葉浸潤影
#2.ヘビースモーカー(40本/一日×40日)
#3.意識消失発作
#4.転倒後腰痛
これらの問題を解決するために、診断計画が必要となり、その結果のアセスメント・評価によって問題を解決するための治療が重要となる。
診断が確定している患者の場合は、診断名が問題リストに挙げられる。
例 医師が挙げた問題リスト(不確実な問題は挙げていない)
 #1.肝硬変(アルコール性)
 #2.腹水
 #3.出血傾向(引用文献1 P55)
 
 日本看護協会の「患者の問題」「問題リスト」の概念は、医学的診断、看護診断、共同問題これら全ての問題を包含している。基本は問題となる事実を中心とすること。
 
  4/24 #1.細菌性肺炎(右下肺野)
    4/24 #2.高体温 38度台の弛張熱の持続
    4/24 #3.軽度の呼吸困難(非効果的呼吸パターン) Sp02 87%
  一時的問題
    4/27 便秘→ 4/28 レシカルボン座薬で解決
 
 患者の問題は、患者に入院診療計画書で説明されている病名と看護診断を記載した。
○信頼できる適切な問題リストは、優れた簡潔なサマリーでもある。
○不確実な問題リストは、医療従事者間でのケアの方向性を誤る。
○不確実な問題リストは、患者・家族に不安を与える。
 あなたが、患者で入院した場合には、どのような問題リストを求めるか
○POSは、問題を解決し、アウトカムをめざすシステムである。
○問題は解決するべき事実である。架空の憶測ではない。
問題リストを看護問題あるいは看護診断とするのであれば定義・概念が必要である。
例:「熱」が高くて入院したなら、熱の原因を明らかにし、熱を下げること。
問題は、#1 38度台の弛張熱 あるは 高体温:38度台の弛張熱(NANDA)
例:「発熱により清潔の保持が難しく、体力の低下をまねく」
この問題表現の不適切性について
問題表現文章の末尾が「問題」という基本原則から考えることである。とすれば、体力の低下が問題ということになる。発熱と清潔が保てないために(原因・要因とし記載している)体力の低下が問題なのだとしている。真実だろうか。適切だろうか。患者の問題は「熱が高いという事実が、現に起こっており、解決しなければならない現象・問題」である。望ましい状態からのズレ・この方らしい生活を営む上で、まず、熱が下がれば、日常生活動作の遂行・セルフケアも可能に近づく。問題は、高体温(38度台の弛張熱)であり、原因は、肺炎(#1として表現している)看護の基本は、熱を下げる行為・看護実践を行う事である。(医師の指示・医療行為も当然含まれる。それが看護業務・看護実践である。)当然、熱が高ければ、代謝が亢進し、体力の消耗は通常以上であり、不感蒸泄も高く、適切に関わらなければ、水と電解質のバランスが崩れることもあり得る。しかし、人間の体は、常に、平衡を維持するメカニズムも働いている。当然ながら熱が高い患者の看護は、安静を維持し、出来るだけ栄養物を摂取する必要性を説明し、とれるように工夫をする。さらに、水分出納を評価し、水と電解質のバランス維持にもつとめるのが、当然となる。問題判別および表現が不適切であれば、看護計画や看護実践そしてその結果としての経過記録にも影響する。
1)問題リストあるいは看護診断・看護上の問題は、現実的な現存する患者の問題と乖離の傾向
下記の問題は、現実的か。書く必要性があるのだろうか。
診療記録開示において、患者が読んだらどのように思うだろうか.
#1.手術に関連した不安の可能性(不安のリスク状態)
#2.手術に関連した術後出血・ショックの可能性
#3.手術に関連した疼痛の可能性
#4.手術に関連した肺合併症の可能性
#5.手術に関連した腸管麻痺の可能性
*これらの問題は、確率何%で起こっているのだろうか。
「手術に関連した」という原因の記載は、術者・執刀医の問題を指摘していることになりかねない。執刀医が手術に伴うリスクを説明することとは違う。
問題リストは問題を解決するために問題を列挙するのである。
例:# 術後5〜10日目頃に吻合部の過度の緊張、腸管の血行障害、低栄養状態、感染などにより縫合不全を起こす可能性がある
どのように予防出来るのか。誰が責任をとるのか。執刀医の意見はどうか
例:# 腰椎麻酔の副作用が起こりやすい
誰が、どのように予防出来るのか。起こった場合の責任の所在はだれか
麻酔医の意見はどうか
2)感想文タイプ。何が問題なのか。解決するべきことは何か。
#1.自ら喀痰喀出が出来ないため分泌物が貯留し、呼吸状態が悪化しやすい
#2.脱水からくる皮膚の緊張低下がある
#3.母親に看病疲れがみえる
3)抽象的過ぎる表現.何が問題か、アウトカムは何か、介入の焦点が明確でない。
#.ベット上安静に伴い二次的合併症をおこしやすい
#.廃用症候群が起こりやすく、全身状態を悪化する可能性がある
#.全身状態の悪化により急変する可能性がある
#.脳出血範囲拡大しつつあり、急激なレベル低下の恐れ(が)ある
4)NANDA看護診断の誤解・無理な記載How toにとらわれる。
例:疼痛に関連した安楽の変調(誤解 註NANDAに安楽の変調はない)
例:血糖値が400mg/dl以上のケトアシドーシスが疑われる文字が読めない初回緊急入院の患者(解決すべき問題とのズレ)
#1.知識不足
#2.非効果的治療計画管理
EBM・EBNの時代、病院での発生確率は何%かを調べる。
予見は、重要であり、回避する義務がある。問題に可能性があるという表現をしていることは、問題が起こらないようにするということ・回避可能であるということを明らかにしょうとしている。もし起こった場合に責任は誰がとるのか。看護婦・士が責任をとれるか。責任がとれる可能性のある問題を挙げるべきである。
例:転倒・転落のリスク状態褥瘡のリスク状態
  この場合には、常に、計画に記載した予防行為を実行しなければならない。
*治療に関する説明・話し合いにおいて、患者にはリスクに関しても説明をし、治療方法の決定が行われる。しかし、リスクが問題なのではない。
介護保険においては、ケアマネジャーが立案する計画には起こりうる問題を重視するようになっていると指摘される、根拠に基づいた確率の高い潜在する問題、すなわち、現在の状況が根拠となり、「転倒のリスク状態」が挙げられるのだろう。
5)記載例
例:#1.高血糖・ケトアシドーシス(血糖値空腹時Xmg/dl、HbAlX%)
NIDDM/高血糖・ケトアシドーシス(血糖値空腹時Xmg/dl、HbAlX%)
高血糖状態で入院した場合には、NIDDM・高血糖そのことも問題
医師の指示に基づく医療行為も看護実践であり、経過記録には記載する。
実際の記録は、血糖値の測定と結果による医療行為の記載をしている。
血糖値が高いことは、患者の問題であり、コントロール目的で入院してきた場合には、共に、問題解決に取り組むべきである。PCではない。現に起こっている解決しなければならない問題である。
(PC:Potential Complication 潜在する合併症という意味)
(共同問題は、CP:Collaborative problems)
例:子宮筋腫のため、子宮全摘術で入院。この手術目的が達成できることである。
#1.子宮筋腫・子宮全摘術
#2.特有の個別的問題があれば追加(看護診断など)
(看護診断に意義をと強調する場合にはN2.という表現などの工夫も可能)
例:#1.うっ血性心不全・心拍出量の減少(註心拍出量の減少は、NANDA看護診断名)
N1.非効果的呼吸パターン:Pa02xmmHg PaC02xmmHg
*看護問題を明らかに記載したいと強調する場合はN1.とすることも可能
例:#1.食後の嘔吐:約2wks→10/20食事の変更と輸液治療によって解決
  R/T 幽門部狭窄10/11生検で胃癌と判明
#2.幽門部胃癌(ボルマン3型)
#3.軽度閉塞性呼吸障害・術後無期肺のリスク状態(根拠にもとずく)
  R/T・40本〜50本/一日×50年間のヘビースモーカー、早朝の喀痰
 註 R/Tは、アメリカで多用されている略語「〜に関連した・related to」
4.問題リストにおける課題:問題がもっとも重要であり、全てに影響する。
1)現実的・解決すべき問題に焦点:リスク状態や可能性のある問題はより現実的に無理に問題探しをしないこと。
:問題が不適切であれば、計画立案は非現実的あるいは実行されないことになり、さらに、経過記録との一貫性を失う。
2)情報の列挙ではない。
3)簡潔・明瞭であること。
4)患者の選択・拒否・同意が必要である。
5)問題表現上の工夫をする。
(1)NANDAの看護診断は、NANDAの2年毎の改訂版を使うこと
(カルペニートは彼女の診断名も開発:例 安楽の変調はNANDAにはない)
例:全国的に多い間違った表現 疼痛に関連した安楽の変調
 この表現は、「馬から落ちて、落馬した」と記載している。
 正しい表現・診断 # 疼痛:右悸肋部から背部にかけて レベル6
(2)長文の表現は不適切である。:問題が何か伝わりにくい。
(3)簡潔に、第3者にわかるように表現をする。
(4)原因(要因)を添えた表現
この表現は、英語構文であれば、最初に問題が表現される。しかし、日本語表現の場合は、原因や誘因が最初にくるために、原因が多様であればあるほど、問題が末尾に表現され、何が問題か簡潔な理解が困難になる。
 問題を明確に端的に表現をし、R/Tで、原因や要因を記載すれば理解しやすく、また、コミュニケーションも容易であり、解決方法も導きやすい。
6)潜在する問題、可能性のある問題は、発生確率が高い現実的問題を挙げる。
不確実な問題リストは、患者に不安を与える。
* 問題表現は、患者に起こっている望ましくない状態・問題現象を概念化することであり、共に問題解決にむかう上での基本である。この問題表現が不適切であれば、開示上誤解を招いたり、不安を引き起こすかもしれない。
さらに、看護実践、その基本となる看護計画との不一致、経過記録との不一致となるであろう。
最も簡単な評価方法は、現在実際に記載されている問題リスト、問題点あるいは看護問題、看護診断を開示出来るかどうかを検討することと患者の現在の問題と一致しているかどうか、実際的・現実的かどうかを検討することである。
問題表現の適切性・妥当性・信頼性の検討ということになる。
5.患者の問題あるいは看護問題・看護診断記述の目的
 原因を明らかにすることによって効果的な個別的な問題解決のための看護行為を導くことが可能となる。また、標準看護計画を活用する場合にも原因によって介入を精選できる。
 
 # 問題A
  R/T X(問題の原因・誘因の記述)
      Y(問題の原因・誘因の記述)
 問題を解決するための行為・看護実践:
  (原因を除去する実践に活かす)
  Xを軽減、緩和、除去という実践
  Yを軽減、緩和、除去という実践
  Z〔良くする因子〕=Zを強化する看護
 
・ 問題を解決するための実践の鍵は、問題の原因、関連因子を除去・軽減・緩和する行為を導くことである。POSは、問題リストで問題とする現象を明らかにし、診断計画で問題の原因を明らかにするための検査計画を立案する場合も多い。
 もしも、問題が生じた原因が特定できれば下記のような解決のための実践が計画できる。このようなことから、看護では「〜に関連した」と表現することが強調されている。
 例 非効果的気道浄化(痰の喀出困難)の原因が「水分摂取量が少なく、痰の粘稠度が高い」ことによるとすれば、「最良の去痰剤は水である」という原則から、水分出納を評価し、痰の粘稠度をさげるために水分摂取を促す行為が選択される。
[1]水分を1500ml/day取ることの必要性についての説明、話し合い
[3](患者が飲める、飲みたい飲料を聞き)例えば、お茶をポットで側に準備
[4]与薬時、少なくとも100mlの水で薬を服用などの痰の粘稠度をさげる行為が選択され、記載される。








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