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第二章 考察と今後の課題
1.考察
[1]フリーターと若年無業者の場合
 昨年度の考察(1)で「人生の途中で一時的にレールを外れた人も、社会参加しないと、生産活動が停滞してしまう」と述べた。が、今年度わかったことは、レールを外れたわけではないが、社会に“充分”参加していないフリーターや若年無業者が多くなり、このまま行くと日本経済・社会保障問題・治安など様々に、私たちの社会に影響を与えることになってしまうということである。この解決なくしてわが国の将来はないと思われる。平成12年度の総務庁統計局「就業構造基本調査」を労働省政策調査部が特別集計したところ、15歳〜34歳以下のフリーターの数は1982年で50万人、1997年には151万人となっている。現在、若年者のフリーターは300万人強とかなりの増加比率である。ひきこもりといわれている人は約100万人といわれている。
 この数値を使用した場合、彼らの保護者の経済負担(下図)は非常に大きな数字となる。仮に自分のお小遣いを稼ぐフリーターにかかる月額諸経費(食費・年金・保険・光熱費等)を5万円、ひきこもりには10万円とした場合、年間負担総額は3兆円となる。

  人数(概算) 諸経費(月額) 月総額負担 年総額負担(12ヶ月)
フリーター 300万人 5万円 1500億円 1兆8千億円
ひきこもり 100万人 10万円 1000億円 1兆2千億円
Total   15万円 2300億円 3兆円

 この400万人が正規雇用(就労・自立)を獲得した場合、この年間総額は、保護者等の私的な消費または貯蓄となるだろう。しかも、400万人の自立した人の消費総額(3兆円)をそれに加えるならば、総消費額は単純に2倍に膨れ上がる。これだけの潜在的経済損失をフリーターや若年無業者は内包しているのである。
 「成果」の部分で、「育てあげネット(コミュニティー・アンクル・プロジェクト)」等の解決策を一部提示したが、まだまだ今後に課せられた部分が多い。
 
[2]相談機関や教育機関の選別の難しさ
 昨年度、「適切な相談機関に相談することを薦める」と書いたが、今年度の活動から考えると、「藁をも掴む」親たちの足元を見た、実にけしからん相談機関や教育機関が増えてしまったことに憤りを感じる。不況と少子化の影響からか、相談機関では法外に高い相談料を取るところ、さらに相談料以外にも様々な名目で金品を要求するところ、学校法人とは名ばかりの教育機関、全く教育活動をしないフリースクール、強引な生徒募集をするところ等の批判を耳にすることが多くなった。しかもそういうところに限って宣伝上手、営業上手であり、最も困るのがマスコミに取り上げられるのがうまいことである。
 一般の方は、新聞やテレビに報道されれば、「そこは良いところ」と考えがちである。しかしそうでもないところも含まれているのである。この選別が難しいことが問題なのである。
 我々のガイドブックでは、その様なところは排除しているつもりではあるが、現在、心ある情報通の方々と真にお勧めできる相談機関と教育機関のみを扱う情報センターを設けようと話をしている。
 その意味でも、各地の情報の収拾とネットワークづくりが急がれる。
 
[3]フリースクールにも“卒業”が必要
 今年度の活動で、我々が全く相談会を行ったことがなかった地域では未知のフリースクールに接することができた。しかし、私たちが会えたのは「不登校生の自立と社会参加に力を入れている人たち」であり、彼らの話でも、各地のフリースクールの半数以上は、予想通り「勉強を教えないフリースクール」であり、「卒業のないフリースクール」であった。私たちも「不登校生の癒しの場」としての居場所の必要性は認めている。しかし、やはりこれは一定期間とすべきだと考えている。フリースクールに来た子に「いつまでいてもいいんだよ」というのは聞こえはいいが、それでは世の中から隔離することになる。実際に、20歳を過ぎてもフリースクールに通う人が増えているのである。これではせっかくフリースクールに通っても何の解決にもならない。私どもでは、昨年春「パブリックスクール」という一種のフリースクールを設けたが、この3月で全員が卒業していった。これまでも、何人かの生徒は学校に復帰していったし、今回の“卒業生”は、1人が私立学校へ入学、1人が多くの友達と接することができるよう大きなフリースクールに入り、もう1人は当分の間「学校にも通いながらこちらにも来る」という形を取ることになった。これは、私どものような公益法人でなければできないことかもしれない。なぜなら、経営的に見れば、生徒がいなくなればフリースクールは成り立たないからである。
 しかしここで、全国のフリースクールの方に訴えたいのは、「フリースクールにも卒業という制度が欲しい」ということである。こどもたちにはやはり、「卒業」という目標を持ち、進学を含めた社会参加をして欲しいと強く念ずるからである








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