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1.OSPAR条約の概要
 OSPAR条約(正式名称:OSPAR Convention for the Protection of the Marine Environment of the North-East Atlantic) は、北東大西洋における、水環境への化学物質の流入等を規制することを目的とした地域条約である。
 それ以前は、オスロ条約(「船舶及び航空機からの投棄による海洋汚染の防止のための条約」: 1972年採択)とパリ条約(「陸上源からの海洋汚染の防止のための条約」:1974年採択)という2つの地域条約が並立していたが、1992年9月に、2条約が複合する形でOSPAR会議が開催され、これ以降は2条約がひとつとなって北東大西洋の海洋環境保護を進めることとなった。
 OSPAR条約は、予防原則の考え方が締約国の一般義務として取り入れられた法的拘束力を有する最初の枠組みである、とされる。OSPAR条約は北東大西洋に接するすべての国々によって批准され、1998年3月25日に発効した。締約国は、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国の15か国と欧州連合(EU)である。(はロンドン条約議定書加盟国(2000年1月現在))
 
 OSPAR条約の「浚渫物管理に係るガイドライン」(正式名称:OSPAR Guidelines for the Management of Dredged Material) は1998年7月のOSPAR会議にて採択された。本ガイドラインの構成は以下のとおりであり、一部はロンドン条約の「しゅんせつ物の個別評価ガイドライン」とほぼ同様の内容となっている。しかし、地域条約であることもあり、より詳細な技術側面に関する附属書なども添付されている。
 
〔OSPAR浚渫物管理に係るガイドライン目次〕
はじめに
1.序文(1.1〜1.2)**
2.適用範囲(2.1〜2.4)
3.1992年OSPAR条約の要件(3.1〜3.4)
4.浚渫及び投棄に係る必要性の評価(4.1〜4.3)**
5.浚渫物の特性把握(5.1〜5.13)**
6.汚染源の評価及び制御(6.1〜6.3)
7.浚渫物のサンプリング(7.1〜7.7)**
8.処分方法の評価(8.1〜8.4)**
9.海洋投棄地点の選択(9.1〜9.6)**
10.潜在的影響の評価(10.1〜10.11)**
11.許可に関する事項(11.1〜11.10)**
12.モニタリング(12.1〜12.7)**
13.報告(13.1〜13.2)
14.全体の流れのフロー図**
(**はロンドン条約の「しゅんせつ物の個別評価ガイドライン」と同様の記述がみられる章)
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図1 全体の流れのフロー図(OSPAR条約ガイドラインより)
表1(1) OSPAR条約の「浚渫物管理に係るガイドライン」の記載内容
OSPAR条約の「浚渫物管理に係るガイドライン」(1998年)の記載内容 ロンドン条約しゅんせつ物WAG(2000年)における対応箇所 ロンドン条約しゅんせつ物WAGと異なる点(*OSPAR条約の分はイタリック表示で示す)
はじめに
    ・本ガイドラインは1998年のOSPAR条約閣議決定にて採択。
・加盟国は、各国の浚渫物規制手続きの流れにおいて本ガイドラインを考慮することが求められる。ただし、特定の国あるいは地域において、本ガイドラインに示した手順が適用できない場合もある。
1 序文
1.1 浚渫の必要性、一部の浚渫物の汚染 1.1 (言い回しは若干異なるが内容はほぼ一緒)
1.2 OSPAR条約における浚渫物関連事項の記載箇所について - ・OSPAR条約では、附属書IIの3.2項において、浚渫物を海洋投棄できるもののひとつに掲げている。
2 適用範囲
2.1 適用範囲について(対象国、対象物) - ・本ガイドラインはOSPAR条約の加盟国が浚渫物を管理する上で、公害を防止・減少し、これにより海域を保全するのを支援する。
2.2 適用範囲について(BEP取組みの奨励、PIANC等からの助言の導入) - ・浚渫物の除去(浚渫)と投棄の両方が海域環境に有害であることは認められているが、浚渫行為はOSPAR条約の適用除外である。しかし、加盟国は浚渫物に係る両方の活動(サイドキャスト及びアジテーションの浚渫と活動を含む)に対して管理を行うことが奨励され、浚渫する必要のある堆積物の最小化及び海域における浚渫・投棄活動による影響を最小化のため作成されたBEP(最良環境指針)を用いるべきとされている(技術的附属書III参照)。
・環境的に許容できる浚渫技術についての助言は、国際機関等から得ることができる(例:PIANC)。
2.3 浚渫物の定義 - ・本ガイドラインでは、浚渫物は「堆積物あるいは岩とそれに関連する水や有機物で、通常は冠水している場から、浚渫またはその他の掘削用の道具を用いて取り出されたもの」と定義している。
2.4 用語「投棄」、「処分」の定義 - 本ガイドラインで用いられる用語「投棄(dumping)」及び「処分(disposal)」のOSPAR条約本文との一致(関連:本文I(f), (g))
3 1992年OSPAR条約の要件
3.1 本文2.1aからの要件 - OSPAR条約では、加盟国に、全ての対策を取り公害の防止及び根絶に努め、また、必要な手段を用いて人間活動による悪影響からの海域環境の保全に努め、人の健康を保護し、海域生態系を保全し、適切な場合には、悪影響を受けた海域の修復に努めるよう要請している。(関連:本文2.1a)
3.2 本文4条からの要件 - ・OSPAR条約では、加盟国に、全ての可能な手段を取り、廃棄物またはその他の物の投棄あるいは焼却による公害の防止及び根絶に努めるよう要請している。(関連:OSPAR条約本文4条、附属書II)
3.3 附属書II3(2)、同4(1)(a)及び4(1)(b)からの要件 - ・OSPAR条約では、加盟国に、その国の公認あるいは資格のある組織による許可なしでは廃棄物その他の物の海洋投棄が行われないことを保証するよう要請している。(関連:附属書II3(2), 4(1)a)
・また、加盟国は、許可発給が、関係する適用可能な基準、ガイドライン及び手続きでOSPAR会議が認めたものと適合していることを保証するよう要請されている。(関連:附属書II4(1)(b))
3.4 附属書II4(1)及び同4(3)からの要件 - ・OSPAR条約では、加盟国に、事務局への廃棄物及びその他の物で海洋投棄を行うものの性質、投棄量、投棄地点及び投棄方法を報告するよう要請している(関連:附属書II4(1), 4(3))
4 浚渫及び投棄に係る必要性の評価
4.1 浚渫の種類 1.3 ・.2の維持しゅんせつの「設計寸法どおり維持」に説明を追加。(すなわち、土砂堆積や形態変化への対処)
・.3に語句を追加。汚染された物質の海洋環境からの意図的な除去
4・2 浚渫の必要性に対する問いかけ 1.3 (同文)
4.3 浚渫物の減量化への努力 - ・さらに、浚渫及びその投棄を必要とする物の量を実現可能な限り最小化していくことが図られるよう留意すべきである。このことについては技術的報告書III「投棄量の最適化」に示している。
5 浚渫物の特性把握
5.1 特性分析の手引きについて(技術側面に係る付録の参照) - ・汚染物質分析の調査項目や分析手法の選択に関する手引きは、標準化及び品質保証の目的で利用される手順とともに、技術附属書に示されている。
・生物試験技術の発展とともに、浚渫物中に含まれる汚染物質からの潜在的影響による評価に十分な情報が徐々に提供されると考えられ、現状よりも化学試験への依存度が減少することが期待される。
詳細な特性分析の免除
5.2 詳細な特性分析の免除 4.2 より細かい記述となっている。
・浚渫物が以下に示す基準のいずれかを満たす場合、5.4から5.9項で言及されている試験は免除されうる。ただし、5.3〔物理的特性分析〕に掲げられている情報については免除されない。
・.2浚渫物が、ほとんど砂、礫または岩で構成されている場合。
・.3明確な汚染源が周辺になく−これは地元の既存情報により根拠付けられるべきである−、浚渫物が汚染されていないという合理的な保証が与えられている場合で、かつ、単発の浚渫事業の土量が年間1万トンを超えない場合。
・これらの要件のうちの一つも満足しない浚渫物は、その潜在的影響を評価する為にさらなる段階的な特性分析が必要となる(5.3〜5.9頁参照)。
 
物理的特性分析
5.3 物理的特性把握事項 4.1 必要情報がより多い。
・以下の情報が必要とされる。
a. 対象物の量
b. 処分地点における予定または実際の浚渫物の投入率
c. 目視で判定した浚渫物の特性(粘土/シルト/砂/礫/岩)
・(文章追加)処分する堆積物の物理的特性の評価は、潜在的影響や、その後に続く化学的及び(または)生物学的試験の必要性を判定するために必要である。(詳細な手引きは技術的附属書Iを参照)
化学的特性分析
5.4 既存知見の利用 4.3 より細かい記述となっている。
・〜近傍地点における同様な浚渫物の潜在的影響の新規測定は不要となる場合がある。ただし、その情報が現在でも信頼でき、過去5年以内に得られたものであった場合に限る。調査項目の詳細は技術的附属書Iに掲げる。
5.5 化学的特性分析の要検討事項 4.4 必要情報項目が一つ減っている(その分について前項で記述した形をとっている)。
・(OSPAR条約にない項目)浚渫物の化学的特性分析における追加検討事項
(過去の堆積物の化学的特性分析から得られたデータ及び同対象物のその他の試験結果から得られるデータ、または近辺の類似物から得られたデータ。ただし、このデータが現在でも信頼に値する場合に限る。)
5.6 追加的情報 4.6 より詳細な記述あり。
「その他の情報は技術的附属書Iを参照」として、技術的附属書Iには特定物質の濃度を決定するようとの記載がある。特定物質は以下のとおり。
(金属類) Cd, Cu, Hg, Zn, Cr, Pb, Ni
(有機/有機金属化合物)
PCBコンジェナー〔IUPAC nos 28, 52, 101, 118, 138, 153及び180〕 ,PAH類, トリブチルスズ及びその化合物と分解物
*PCB類、PAH類及びトリブチルスズ化合物については調査が免除される場合も示されている。
・その他、汚染源情報や過去のデータに基づき、以下の物質等の調査の必要も考えられる、とされている。
(例)As、その他のクロロビフェニル化合物、有機塩素系農薬、有機リン系農薬、その他の有機スズ化合物、石油系炭化水素、その他のよごれ止め剤(塗料)、PCDD類、PCDF類
*有機汚染物の特定については、OSPARやEUの既存化学物質リスト(汚染が懸念され対処が急がれる物質の優先リスト)があるのでそれを参考にして決定すべき、と注釈あり。
技術的附属書Iの「化学的特性」には、この他にも、標準化や分析手法に関する注釈も示されている。
生物学的特性分析
5.7 生物学的特性分析の必要性 4.7 より詳細な記述あり。
・「生物試験に関する詳細は技術的附属書Iを参照」として、技術的附属書Iに、毒性試験、バイオマーカー、マイクロコズム、メソコズム、現場観測等に関する短い記載がある。
技術的附属書Iの「生物学的特定及び影響」には、前書きとして、以下の記載も示されている。
*物理的・化学的特性は、多くの場合、生物学的影響を直接に示すものではない。また、これらは適切に全ての物理的撹乱を示すものでもなければ、浚渫物中の全項成分を特定しているものでもない。物理的・化学的特性分析結果に基づき浚渫物の潜在的影響が適切に評価できない場合は、生物学的測定を行うべきである。(→未知の物質に対する対処)
*生物試験の適切なセットの選択は、(個別案件からの)質問により異なり、また、浚渫場所の汚染の程度や実施可能な手法がどの程度標準化・正当化されているかによっても異なる。(→生物試験が多岐にわたることへの言及と、個別案件への柔軟な対応)
*生物試験結果の評価にあたっては、海洋投棄許可の制度と関連した評価戦略を作成するべきである。個々の種への生物試験の結果をより大きな集団(生物群集)に適用することは依然として難しく、対象地域に通常生息する生物群集に関する深い理解を必要とする。(→生物試験結果の評価に対する留意、評価制度と生物試験の関連付け、現場の生物群集に対する基本的な理解)
5.8 生物学的試験実施の視点 4.8 (同文)
5.9 供試生物及び生物試験選択の視点 4.9 (言い回しは若干異なるがほぼ同文)
行動基準
5.10 行動基準の利用の概要 5.1 行動基準の利用の目的が若干異なる。
・行動基準は、浚渫物の特性と構成分を特定物質に対する基準の1セットと比較する審査メカニズムとして利用される。行動基準は、浚渫物管理の意思決定(6.1〜6.3項に示す汚染源の特定や汚染源対策を含む)において利用されるべきである。(特定物質に係る)基準は、人の健康あるいは海洋環境の保全に及ぼす潜在的影響に関連して得られた経験を反映した値であるべきである。
 
5.11 各締約国/地域レベルの行動基準の作成 5.2,5.3 記載が異なる。
・行動基準(Action List)の基準値(level)は国あるいは地域レベルに基づき作成されるべきであり、限界濃度、生物学的反応、環境基準、フラックスの検討及びその他の関係する価値に基づいて定義されうる。これらの基準値は、浚渫予定及び(または)処分場所の堆積物と同様の地球化学的特性を有する堆積物の調査から導かれるべきである。したがって、堆積物中の地球化学的要素の自然変動により、浚渫または処分が行われる地点ごとに個別の基準値のセットが必要となる場合もある。基準値を調整または合併するという視点から、OSPAR事務局では、加盟国に対して、各国が適用している基準値とその作成・調整における科学的根拠をSEBAに知らせるよう依頼している。(注:SEBA…OSPAR条約の海洋活動に関するワーキンググループ)
5.12 行動基準における上限値と下限値の設定(任意) 5.4 上限値、下限値ともに「設定してもよい」という記述になっている。
・行動基準は、以下の可能な行動を取るための上限値と下限値を設定しうる。
a. 関係する上限値を超えて特定の汚染物質を含むまたは生物学的反応を起こす対象物は、通常、海洋処分には不適と考えるべきである。
b. 関係する下限値を下回り特定の汚染物質を含むまたは生物学的反応を起こす対象物は、通常、海洋処分による環境に対する懸念は少ないと考えるべきである。
c. 中間的な性質を示す対象物は、海洋処分が適当であるかを決定するに先立ち、更なる詳細な検討が必要である。
5.13 基準の上限値を1または2以上の物質が超えた場合の措置(勧告) - 基準値(上限値)を超えた場合に対する詳細な記述あり。
・一つあるいは複数基準値の上限値を超えた浚渫物が海洋投棄される場合、加盟国は以下の行動を取るべきである。
a. 適宜、汚染源の特定及び汚染源規制対策を取り、基準を満足するようにする(6.1〜6.3参照)。
b. 封じ込めあるいはその他の処理技術といった処分管理技術を駆使し、海洋環境への投棄による影響を軽減するよう努める(8.3〜8.4参照)。
c. OSPAR事務局に対して事実−なぜ海洋処分を許可したかその理由も含めて−を報告する。
6 汚染源の評価及び制御
6.1 汚染の点・面発生源の規制(制御) 2.1.1 (同文)
6.2 発生源規制戦略における留意点 2.1.2 (同文)
6.3 封じ込め等の処分管理技術の適用 2.1.3 (同文)
7 浚渫物のサンプリング
投棄許可発給を目的としたサンプリング
7.1 本ガイドライン5.2条に適合しない浚渫物の取扱い - ・5.2項において特性把握が免除された以外の浚渫物は、許可手続きにおいて必要とされる十分な情報を得るため、分析試料が必要となる(技術的附属書I参照)。いずれの事業にどのような情報が関連しているか決定するにあたり、現場(地域)条件に関する裁量や知識は不可欠である。
7.2 浚渫予定地点のサンプリング 4.5 サンプリングに関する留意点についてより詳細に記載
・浚渫地点の調査を実施すべきである。サンプリングの地点の分布と試料採取の深さは浚渫地点の規模(水平的広がり)と深さ、浚渫土量、汚染物質の分布状況の水平垂直方向の変動を反映するように決めるべきである。浚渫の深さと予想される垂直方向の汚染状況により判断し、適宜コアサンプルを採取すべきである。その他の地点では、通常、グラブサンプリングで十分である。海洋投棄許可のためのサンプリングに投棄用船舶を利用することは推奨しない。
7.3 浚渫土量とサンプリング地点数の関係 - 前項に続き、サンプリングに関する留意点についてより詳細に記載。
・以下の表は、浚渫される対象堆積物はほぼ均等なものであるという前提で、再現性のあるサンプルを得るのに必要な地点数を決定する際の目安となる。
浚渫土量(m3) サンプリング地点数
<25000 3
25,000〜100,000 4〜6
100,000〜500,000 7〜15
500,000〜2,000,000 16〜30
>2,000,000 100万m3追加ごとに10地点追加
・サンプル地点数は、浚渫予定地点に基づいて決定することもできる。また、サンプル地点数は、その場所の海水交換特性についても配慮しておく必要がある。半閉鎖性・閉鎖性水域等においては、より多くのサンプル地点を必要とすることがある。
7.4 個別地点から採取した試料の取扱い - 前項に統き、サンプリングに関する留意点についてより詳細に記載。
・(個々のサンプルの取り扱いについて)
サンプリングの頻度
7.5 清浄と判定された地点における頻度 - サンプリング頻度についての記載あり。
・分析結果により清浄と判断された地域においては、その地域の環境が変化しない限り、3年に1度の調査で十分である。
7.6 サンプリング地点または調査項目の減少とフルサンプリングの頻度 - 前項に統き、サンプリング頻度についての記載あり。
・初期調査の結果によっては、サンプリング地点数または調査項目を減らしうる。調整した計画による調査結果が初期調査の結果を保証するものでなければもう一度、調整前の計画に戻す必要がある。
・調整項目を減らした場合は、全調査項目(最初に決定していた項目)での調査は再度5年ごとに行うことが望まれる。
 
7.7 底質汚染の度合が高い地域の調査頻度・項目 - 前項に続き、サンプリング頻度についての記載あり。
・強度に汚染されている堆積物の分析は、懸念される全汚染物質の調査は頻度多く行うべきであり、この頻度は許可の更新手続きと関連付けて回数を決定すべきである。
8. 処分方法の評価
8.1 浚渫物の物理的、化学的及び生物学的特性分析の結果を用いた処分方法の選択、有効利用の重要性 3.1 (同文)
有効利用
8.2 浚渫物の有効利用の例 3.2 (同文)
上限値を超えた浚渫物の処分方法
8.3 処分方法の選択肢 3.3 (同文)
8.4 浚渫物の処理・処分技術 3.4 (同文)
・汚染堆積物の処理についてはPIANCの文献を参照との記載もある。
9. 海洋処分地点の選択
9.1 海洋処分地点の選択に当たっての留意点 - ・処分地点選択の留意点(処分地点の環境への配慮、経済上・運用上の実現性の問題)について言及。
・処分地点の選定においては、浚渫物の処分が、海洋環境の正当な商業的・経済的利用を妨げるあるいは価値を損なうものであったり、また脆弱な海洋生態系に望ましくない影響を及ぼすものでないことを保証するよう努めるべきである。
9.2 処分地点選択における必要情報 6.2, 6.3, 6.4 より詳細な記載あり。
・海洋処分地点の評価にあたり、下記の情報を適宜整理するべきである。
a. 海底の物理的、化学的及び生物学的特性(例:地形、酸化還元状態、底生生物群集に関する情報)
b. 水柱の物理的、化学的及び生物学的特性、(例:水の流動(ダイナミクス)、溶存酸素、遊泳(浮遊)、種に関する情報)
c. 以下の地域が周辺にある場合、その情報
(i) 景観地または著しく文化的または歴史的に重要な地域
(ii) 特別な科学的または生物学的重要性のある地域
(iii) レクリエーションに供されている地域
(iv) 漁場(自家消費用漁業活動、商業的漁業活動、スポーツフィッシング)に供されている地域
(v) 産卵場、加入場、生育場
(vi) 海生生物の回遊路
(vii) 航路
(viii) 軍の演習地域
(ix) 海底ケーブル・パイプライン等を含む海底の工業的利用
このような情報は既存の情報源から得られうるが、必要であれば補完の現地調査も考えられる。
9.3 処分地点の特性に関する情報の有用性について - ・上記項目等による投棄地点の特性把握は、投棄物質の予想される行方や影響を決定するために必要である。
・慎重な評価により、海洋における主要な物質輸送経路に対して浚渫物海洋投棄の影響が及ぶのを防ぐことができる。また、海洋投棄の際に許可条件を追加することにより、各プロセスにおける影響を低減しうる。
9.4 海洋への投棄が投棄場所に生息する生物群集に及ぼしうる影響について - ・投棄は、場合によっては、既存の影響(地表面流出や排水、大気や資源採取、あるいは海上輸送を通じた形での沿岸域への汚染物質のより多くの負荷につながるような影響)を増幅させることもある。このような生物群集に対する既存のストレスについても、投棄による潜在的影響の一環として検討しておくべきである。提案されている投棄方法や、投棄地点における将来的に利用可能な資源と快適性についても配慮すべきである。
9.5 既存の投棄場所における基礎調査及びモニタリング調査結果の有効性 - ・既に確立している投棄地点の基礎調査及びモニタリング調査からの情報も、同地点や近傍における新規投棄の評価にあたり重要である。
9.6 汚染された浚渫物の遠洋(distant offshore)への投棄について - ・遠洋の公海域(Open-sea sites at distant off-shore locations)の利用は、汚染浚渫物による海洋汚染の防止の観点からは、環境に望ましい解決策とは言いがたい。
10. 潜在的影響の評価
10.1 潜在的影響と影響仮説 7.1 (しゅんせつ物WAG7.1の途中まで同文)
10.2 潜在的影響の検討における情報の統合と影響の特定 7.2 記載が若干異なり、また、より詳細になっている。
・この検討により、浚渫物の特性と処分予定地点の状況は統合されるべきである。これには人の健康、生物資源、快適性及び海洋のその他の適切な利用に対する潜在的な(起こり得る)影響を要約して含むべきであり、また、適切に悲観的な仮説に基づき予想される影響の性質及び時間的・空間的規模についても定義すべきである。
10.3 基線調査の実施の必要性及び実施の視点 - ・仮説作成のため、環境特性だけでなく環境変動をも把握するための基線調査が必要となる場合がある。また、堆積物輸送、水の流動及びその他のモデルの開発は、投棄による起こり得る影響を決定するのに有用である場合がある。
 
10.4 滞留場(retentive site、沈降場)に関する留意点 - ・滞留場(沈降場)においては、投棄した浚渫物が近傍に留まるが、このような場所の影響評価では、投棄された浚渫物の存在により明確に変化を受ける場所の線引きと、環境変化の程度を表示すべきである。
・極端な場合には、直接投棄された場所の全体が閉塞するという仮説もありえる。このような場合は、投棄終了後の生物群集の回復あるいは再形成のタイムスケールを可能な範囲で予測し、また再形成される底生生物群集の組成が現在生息しているものと同様か異なるかといった傾向についても言及するべきである。影響評価は、初期影響ゾーン外での残留影響の傾向と規模を特定するものであるべきである。
10.5 拡散場(dispersive site)に関する留意点 - ・拡散場においては、影響評価は予定された浚渫物の投棄により短期間に変化がもたらされる地域(周辺地域)を特定し、関連する影響の程度についても表示すべきである。
また、この地域からの長期的な物質輸送の傾向や、既存のフラックスと本地域からのフラックスの関係について特定し、これにより、長期的かつ広域的影響の起こりえる規模と程度について検討した予測(書)を許可する形とすべきである。
影響の性質
10.6 浚渫物が投棄場所に及ぼす物理的影響について - ・すべての浚渫物は投棄の時点に、著しい物理的影響を与えることになる。
・この影響には、海底の覆土、局所的な懸濁物質の増加等も含まれる。
・物理的影響は、特に微細粒子などが波、潮汐活動、恒流等の作用により輸送された結果として間接的に及ぶ場合もある。
10.7 生物群集に対して浚渫物が及ぼす物理的影響の例 - ・物理的影響の結果として引き起こされる生物学的な帰結には、投棄地点において底生生物が窒息することが含まれる。
・比較的特殊な環境下においては、物理的影響は、魚の回遊や甲殻類にも及ぶことがある(例:河口域における高レベル濁度によるサケ類への影響、沿岸域の力ニ類の回遊路の閉塞)。
10.8 浚渫物の毒性及び生物蓄積についての影響評価の奨励 - ・浚渫物の生態毒性及び生物蓄積影響に関与する成分の評価を行うベきである。
・低汚染の堆積物の投棄は環境リスクがないというわけではなく、依然として、浚渫物及びその構成分の運命と影響については検討する必要がある。
・浚渫物中の物質は、海洋環境に投入されて物理的、化学的及び生物学的変化を受ける可能性があり、これらの変化は浚渫物に起こりうる運命や潜在的影響といった見地から検討すべきである。
・特定物質の海洋投棄が魚類の知覚機能を破壊し、海水や流域河川の自然特性を(魚類から)妨害し、これにより回遊種を混乱させる(例えば産卵場や餌場を見つけられなくなる)可能性についても検討すべきである。
10.9 閉鎖性水域における堆積物について - ・河口域やフィヨルドといった比較的閉鎖性の強い海域では、CODまたはBOD濃度の高い浚渫物は(例:有機炭素分が多いもの)、投棄地点の酸素収支を悪化させる可能性がある。一方、高栄養分を含む浚渫物は、栄養フラックスに著しく影響する。
10.10 浚渫物の投棄において、浚渫物中に含まれうる留意すべき物質(漁業・航海・レクリエーション等からの寄与分) - ・浚渫物投棄活動の重要な物理的影響の結果として、漁業活動、また一部の場合においては船舶の航行やレクリエーションへの干渉が挙げられる。特に、投棄した浚渫物の特性が投棄地点の周辺環境と大きく異なっていた場合、あるいは港湾からの破片、例えば木桁や金属のスクラップ材、ケーブル片等を含んでいた場合などにはさらに大きな問題に発展する。
10.11 油あるいは水柱に懸濁するような物質を多量に含む浚渫物について - ・油あるいは水柱に懸濁するような物質を多量に含む浚渫物については、特に注意を払うべきである。このような浚渫物は、漁業、船舶の航行、アメニティ(快適利用)区域やその他の海洋環境の有効利用を妨げるような場所や方法を用いて投棄すべきではない。
11. 許可に関する事項
11.1 投棄許可の事前発給 9.1, 9.2 記載が若干異なる。
・海洋処分が選択された場合、海洋処分の許可は事前に発給されなければならない。許可発給に際して、投棄場所内で起こる投棄直後の影響(同地域の局所的、物理的、化学的及び生物学的環境要素の変化等)は、許可官庁により許容される。とはいえ、海洋投棄の許可が発給されるような状況とは、投棄場所外で起こる環境変化が、許容できる環境変化の限界を可能な限り下回るようなものであるべきである。さらに、処分の実施は、実現可能な限り、環境の撹乱及び損害を最小化し、利益を最大化することを確保するという条件で許可されるべきである。
11.2 許可発給の重要性について - ・許可制度は浚渫物の海洋処分管理に係る重要な手段であり、海洋処分が実施されるにあたり必要な条件を示すとともに、影響評価及び許可との整合を保証するための枠組みを提供するものである。
11.3 許可の記載内容(許可条件)について 9.1 記載が若干異なる。
・許可条件は、簡潔で明白な語調により、以下を確保するよう作成されるべきである。
a. 特性分析が行われ、影響評価に基づき海洋処分が適切とされた浚渫物のみが海洋投棄される。
b. 浚渫物は、選択された投棄地点に投棄される。
c. (浚渫物の海洋投棄に先立ち、)影響分析において必要な処分管理技術を特定した場合、それを実施する。
d. モニタリングに係る要請事項が記載され、許可発給組織に対して結果報告が行われる。
処分実施上の管理事項
11.4 処分船及び処分作業の定期監査 - ・適切な場合には、投棄船舶は正確なポジショニングシステムを装備しているべきである。投棄船舶及びその作業は、定期的に検査し、許可条件が満たされているか、また船員が許可に対する責任を理解していることを保証するようにすべきである。
・船舶の記録や自動モニタリング及びディスプレイ設備(ブラックボックス等)がある場合には、投棄が指定地点において行われていることを保証するため検査が行われるべきである。
11.5 浚渫物投棄による物理的影響の低減技術について - ・本セクションは、浚渫物の投棄による物理影響を低減するための管理技術について述べている。管理の鍵は、慎重な地点選定と、その他の関心事や活動との軋轢が生じる可能性の評価にある。
・さらに、浚渫及び投棄に係る適切な技術を選択することにより、環境影響の最小化を図るべきである。(技術的附属書III参照)
 
11.6 浚渫物による海底の覆土及び処分量(累積)に関する留意点 - ・多くの場合において、海底の比較的小区画をおおうことは、環境的に許容可能な浚渫行為に伴う結果と考えられている。
・海底全体における過度の環境悪化を回避するため、投棄地点数は可能な限り制限し、各地点は船舶の航行に影響がない範囲において最大限利用するべきである。
11.7 投棄場所の性質と拡散戦路の利用 - ・浚渫物とその投棄地点の堆積物組成が類似のものであれば、環境に対する影響は最小化される。
・局所的には、自然の物理的撹乱が大きな場所における影響も低減すると考えられる。
・自然拡散が起こりにくい場で、清浄で微細な浚渫物を投棄する場合、特に小区画などでは、計画的な拡散投棄戦略を作成し、覆土による影響の防止・低減を図ることが適切な場合もある。
11.8 浚渫物の沈殿率について - ・浚渫物の沈降率は、しばしば投棄地点において強い影響力を持つため、重要な配慮事項となりえる。したがって、投棄地点の環境管理目的を超えないことを保証するよう、適切な管理が必要となる場合がある。
11.9 浚渫物の覆土(封じ込め)等の技術について - ・特定の環境下においては、漁業やその他の適切な活動の妨げにならないよう、凹地の穴埋め、計画的な覆土またはその他の封じ込め方法などといった浚渫物の処分方法が適切である場合もある。
11.10 潮位・季節変動による処分活動の制限とシルトスクリーン(汚濁防止膜)の利用による移動性魚類への影響の低減について 6.4 若干しゅんせつ物WAG6.4に関連するが、実作業に関するより具体的な記載となっている。
・投棄活動の時期的な制限が適当な場合がある(例:回遊、産卵、または季節的な漁業活動への影響を避けるための、潮汐の変動及び(または)季節的変動に伴う制限など)。これまで、河口域においては、活動域外での懸濁物質による影響を低減し、回遊魚への影響を緩和するよう、シルトスクリーン(汚濁防止膜)が使用されてきた。しかし、これは効果的な管理とは言いがたかった。
12. モニタリング
12.1 モニタリングの実施目的 8.1 (言い回しは異なるがほぼ同文)
・浚渫物の処分に関連したモニタリングは、許可要件及び条件が満たされていることの測定、また、処分が許可されるにあたり使用した影響仮説を検証するための投棄場所の変化の測定と、定義付けられる。
12.2 モニタリング地点の選定について - ・浚渫物の処分による影響は、多くの場所において同様の傾向にあり、(科学的・経済的な視点から判断して)投棄した全地点のモニタリング、特に少量の浚渫物が投棄される地点におけるモニタリングを正当化することは大変難しい。したがって、慎重に選択された一部の地点において詳細な調査を集中させる方が、諸変化の過程や影響への理解を深めるのに、より適切で経済的な方法である。
12.3 投棄申請書類における処分地点の現状(処分前の状況)の記述について 8.3 (同文)
12.4 影響仮説とモニタリング 8.2 ほぼ同文だが追加記載あり。
・影響仮説はモニタリング計画の基礎となる。測定プログラムの策定に当たっては、受け入れる環境の変化が予想の範囲内であることが確保されなければならない。作成するモニタリング計画は、以下の質問に答えるものでなければならない。
a. どのような検証仮説が影響仮説から導き出され得るか。
b. どのような測定(種類、場所、頻度、精度要求)がこの仮説を検証するために必要か。
c. 測定の時間的・空間的規模はどの程度であるべきか?
d. データはどのように管理及び解釈されるべきか。
12.5 許可官庁の要配慮事項 8.4, 8.5 (言い回しは異なるがほぼ同文)
フィードバツク
12.6 モニタリング結果の定期見直しモニタリング結果の利用 8.6 ほぼ同文だがしゅんせつ物WAGより一部削られている(「投棄場所を修正、または閉鎖する」との記載はない)。
12.7 モニタリング概要資料・報告書の作成(奨励)及び作成頻度 - ・簡潔なモニタリング活動報告書が準備されるべきである。また、測定内容、モニタリングの目的と得られた結果との関連についての詳細な報告を行うべきである。報告の頻度は、投棄活動の規模とモニタリングの頻度により決定する。
13. 報告
13.1 OSPAR条約加盟国への浚渫物投棄許可発給件数・処分量の報告の義務付け - ・加盟国への浚渫許可件数、浚渫土量、汚染物質とともに投棄された土量のOSPAR事務局への報告義務付け
・特性分折のプロセスは許可発給にあたり必要情報を提供することを目的として作成されているが、同時に、この方法は、汚染物質の総投入量に対する浚渫物の寄与分に関する情報ももたらす現在考えられるところの唯一の方法である。
・特性分析を免除された浚渫物に対しては汚染物質の負荷は微小であるとし、(投棄された汚染物質の)計上には入れていない。
13.2 モニタリング状況の報告(奨励) - ・加盟国はまた、OSPAR事務局に対して、入手可能な範囲で、レポートの提出も含めたモニタリング活動に関する報告を行うべきである。
14. 全体の流れのフロー図〔図1参照〕 図-1(しゅんせつ物の評価枠組み)  
 








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