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(5)底質評価の実態と動向について
1)我が国の海底堆積物評価における溶出試験適用の考え方
 現在、我が国における海底堆積物の評価は、溶出試験によって行われている。この根拠は、昭和48年に施行された「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令第五条第一項に規定する埋立場所等に排出しようとする金属等を含む廃棄物に係る判定基準を定める総理府令」(昭和48.2.17総令6)である。この総理府令6は「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める総理府令」(昭和48.2.17総令5)と同時に施行されている。
 後者の総理府令5は、廃棄物の陸上処分や野積みなどにおいて、雨水などによって汚染物質が溶出し、表流水・地下水の汚染源となることを想定したものと考えられる。さらに推定を重ねると、同時に施行された総理府令6は、陸上の廃棄物と同様な経路で海水中に汚染物質が溶出することを想定したものと考えられる。
 この考え方の根拠として、環境省「土壌の含有量リスク評価検討会」によってまとめられた「土壌の直接摂取によるリスク評価等について」(平成13年8月)に以下のような記載がみられる。
 「環境基本法に基づき、平成3年に設定された現行の土壌環境基準のうち、水質を浄化し及び地下水をかん養する機能を保全する観点から、水質環境基準のうち人の健康の保護に関する環境基準の対象になっている項目について、土壌(重量:g)の10倍量(容量:mL)の水でこれらの項目に係る物質を溶出させ、その溶液中の濃度が、各々の水質環境基準の値以下であることを環境上の条件としている基準は、人への暴露という観点からは、土壌に含まれる有害物質が地下水に溶出し、その地下水を摂食するという経路について設定されているものである。」
 
 なお、参考までに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準は、地下水を経由する経路ではなく、汚染土壌を摂食または皮膚摂食(吸収)するような暴露経路(直接摂取)について設定された。
 
2)底質評価の動向
 底質の含有量試験に基づく基準値については、底質から魚介類への暴露経路に対する十分なデータや知見が得られていないことから、当面はデータの蓄積等に努めることが重要であるという認識である。
 土壌のダイオキシン類、PCB及び重金属類の評価については、前述したように「土壌の含有量リスク評価検討会」において、現行の土壌環境基準(溶出基準)がとらえていない土壌中の有害物質の暴露経路について検討するとともに、汚染土壌の直接摂取(摂食及び皮膚接触(吸収))を通じた長期的な暴露による人の健康に対する有害物質のリスクについて、何らかのリスクの低減が必要と考えられる濃度レベル(「要措置レベル」)が算定された。環境省ではこの経過を受けて、底質の重金属含有量の評価について検討を始めたところである。
 以下に、「土壌汚染の暴露経路のとらえ方」と「汚染土壌の直接暴露の経路に係るリスク評価及び要措置レベル」について検討会の報告書を引用する。
 
「土壌汚染の暴露経路のとらえ方」
土壌汚染に起因する有害物質の暴露経路については、以下のように整理できる。
[1]人の健康の保護の観点
a.汚染土壌の直接暴露
 汚染土壌の摂食*1及び皮膚接触(吸収)【現行のダイオキシン類に係る土壌環境基準】
(*1:飛散による土壌粒子の摂取を含む)
 
b.他の媒体(大気、公共用水域、地下水)を通じての暴露
(a)地下水等(への溶出)→飲用等【現行の土壌環境基準(溶出基準)】
(b)大気中(への揮散)→吸入
(c)公共用水域(への土壌粒子の流出)→(魚介類への蓄積)→摂食
(d)農作物、家畜(への蓄積)→摂食【現行の土壌環境基準(農用地基準)】
 
[2]生活環境(生態系を含む)の保全の観点
a.汚染土壌の直接暴露
(a)生活環境(不快感等)
(b)農作物農作物以外の飼料用植物の生育阻害
【現行の土壌環境基準(農用地基準)】
(c)生態系への影響
 
b.他の媒体(大気、公共用水域、地下水)を通じての暴露
(a)生活環境(飲料水の油膜等)
(b)生態系への影響
 
「汚染土壌の直接暴露の経路に係るリスク評価及び要措置レベル」
 食物等からの化学物質の摂取割合については、例えば、農薬では、作物からの摂取割合を8割、飲料水からの摂取割合を1割、その他からの摂取割合を1割とすることを基本として登録保留基準が設定されている。
 また、最近では、ダイオキシン類対策特別措置法(以下「ダ法」という)に基づき、大気、水質、土壌に係る環境基準が設定されているが、土壌については、汚染土壌からの直接摂取(摂食及び皮膚接触)による健康影響が懸念されたことから、当該暴露経路に係る土壌環境基準が設定されている。これらダイオキシン類に係る土壌等の環境基準値からTDIに占める割合を計算すると、土壌からの摂取割合は十数%程度(食物や飲料水からの吸収率と土壌からの吸収率の差異を考慮しない場合には7〜8%程度)となっている。また、この数値レベルが、ダ法における対策発動の要件にもなっている。
 
 人の健康に対する影響が懸念される汚染土壌の直接暴露については、土地の利用目的やそこでの暴露可能性について様々な場合が想定されるが、要措置レベルについては、以下のような考え方を基に算定することが考えられる。
 
[1]土壌の摂食等による有害物質の摂取量
 土壌の摂食等による有害物質の摂取量については、ダイオキシン類に係るリスク評価における考え方を踏まえ、別添2(次頁に示す)の考え方によることが適当である。
 
[2]汚染土壌の直接摂取に伴う要措置レベルの考え方
 汚染土壌の直接摂取に伴う要措置レベルについては、ここでは、
(a)我が国で設定したTDI等がある場合には、TDI等の配分の目安として概ね10%程度、我が国で設定したTDI等がない場合には、
(b)汚染土壌からの当該物質の摂取量が飲料水からの摂取量(人の健康の保護の観点から設定されている場合)と同程度とすることを基本とし、その際、併せてWHO等におけるTDI等も勘案することとする。
 
 なお、その際、その他の主要な暴露経路である食物や飲料水経由の摂取量がそれぞれの基準値等から算定される摂取量(理論最大摂取量)の合計としてTDI等の9割を超えると計算又は推定される場合等、汚染土壌からの直接摂取(摂食及び皮膚接触)による当該有害物質の摂取量を加えると総摂取量としてTDI等を超過するおそれのある場合について考慮する。








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