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7.2 顧客関連のプロセス
7.2 顧客関連のプロセス
7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化
 組織は、次の事項を明確にすること。
a)顧客が規定した要求事項。これには引渡し及び引渡し後の活動に関する要求事項を含む。
b)顧客が明示してはいないが、指定された用途又は意図された用途が既知である場合、それらの用途に応じた要求事項
c)製品に関連する法令・規制要求事項
d)組織が必要と判断する追加要求事項
7.2.2製品に関する要求事項のレビュー
 組織は、製品に関連する要求事項をレビューすること。このレビューは、組織が顧客に製品を提供することについてのコミットメント(例提案書の提出、契約又は注文の受諾、契約又は注文への変更の受諾)をする前に実施すること。レビューでは次の事項を確実にすること。
a)製品要求事項が定められている。
b)契約又は注文の要求事項が以前に提示されたものと異なる場合には、それについて解決されている。
c)組織が、定められた要求事項を満たす能力をもっている。
 このレビューの結果の記録及びそのレビューを受けてとられた処置の記録を維持すること(4.2.4参照)。
 顧客がその要求事項を書面で示さない場合には、組織は顧客要求事項を受諾する前に確認すること。
 製品要求事項が変更された場合には、組織は、関連する文書を修正すること。また、変更後の要求事項が関連する要員に理解されていることを確実にすること。
参考  インターネット販売などの状況では、個別の注文に対する正式なレビューの実施は非現実的である。このような場合のレビューでは、カタログや宣伝広告資料などの関連する製品情報をその対象とすることもできる。
7.2.3 顧客とのコミュニケーション
 組織は、次の事項に関して顧客とのコミュニケーションを図るための効果的な方法を明確にし、実施すること。
a)製品情報
b)引き合い、契約若しくは注文、又はそれらの変更
c)苦情を含む顧客からのフィードバック
アンケート結果
◇見積・入札管理制度の有無と、その運用
運用している51.8% 制度が無い48.2% 回答数380事業所 (回答率74.2%)
 過半数の企業で運用されているという好ましい結果が判明した。しかし、逆に半数近くで制度が存在しないことは、顧客との関係においてミスや誤解を生み出す原因を放置することと同じであり、その導入が望まれる。
◇契約管理制度の有無と、その制度
運用している55.0% 制度が無い45.0% 回答数373事業所 (回答率72.9%)
 これも、半数近くの企業で制度が無いことが判明したが、契約が不備であると、下請的立場が多い会員企業としては、非常に不利に働くことが多いので、より多くの企業においてその導入が望まれる。
 
解説
7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化
(1)a)において、「顧客要求事項」が規定されているが、これは顧客との間で合意される「契約」を指す。
(2)専門的な話だが、法律上は、契約は「契約自由の原則」といって、その形態や締結形式は“自由”であり、当事者双方の“合意”が図られていれば良いという立場を採る。よく、契約は「○○契約書」と記載されていなければならないと思われがちだが、内容・機能面が満足していればよい。
(3)「契約形態」及び「締結形態」に関しては、一般的な形態をまず提示し、「鉄構業(船体ブロック、ハッチカバー、タンク製造)」「配管工事」「塗装工事」「技能者派遣業」の4業種について、適用が想定される状態も記載してみる。

契約形態 締結形態 4業種への適用
基本契約 書面 a)当事者双方が書面を取り交わす場合 「基本契約書」(甲乙) (適用可能性あり)
b)・発注側が発注書と受諾書を作成し受注側から受諾書を回収する場合
  ・受注側が発注書と受諾書を作成し発注側から発注書を提出してもらう場合
「発注書」
(基本契約内容)
(適用可能性少ない)
「受注書」
(基本契約内容)
c)受注側が見積書を提出し発注側がそれに合意し別途契約を作成せずにそれを契約書に転化させる場合 「見積書」
(基本契約内容)
(適用可能性あり)
「単価契約書」
「変更契約依頼書」
個別契約 書面 a)当事者双方が書面を取り交わす場合 「個別契約書」 (適用可能性高い)
「契約書」
「覚書」
「協議書」
b)・発注側が発注書と受諾書を作成し受注側から受諾書を回収する場合
  ・受注側が発注書と受諾書を作成し発注側から発注書を提出してもらう場合
「発注(注文)書」 (適用可能性高い)
「受注書」
c)発注側が発注書又は同等の書面を受注側へ提出する場合 「発注(注文)書」 (適用可能性高い)
「(顧客)仕様書」
「(顧客)図面」
「(顧客)計画書」
「契約変更通知書」
d)受注側が見積書を提出し発注側がそれに合意し別途契約を作成せずにそれを契約書に転化させる場合 「見積書」 (適用可能性高い)
「見積仕様書」
「見積図面」
「契約変更依頼書」
「仕様変更依頼書」
「図面変更依頼書」
口頭 発注側が口頭で契約事項(仕様・金銭・条件等)を提示し受注側が口頭で受諾する場合 供給組織側が事後文書化を行う「口頭契約書」等 (適用可能性高い)

(4)前頁で示した表からも分かるように、仕様書自体でも双方の合意が図れているならば、「契約」として発効するのである。下請製造及び工事業等でよくある事例としては、顧客側から“スケジュール表”を提示されることがあるが、これを契機に作業を開始するならば、これは契約書として機能しており、以降別途契約書を作成しなければ、これは「契約書」であると言える。(前頁表ならば「(顧客)計画書」に該当)
(5)また、「契約」は“顧客と供給組織側の双方が合意した内容”ということから、たった1枚の内容で満足するものでもなく、厳密には“顧客とやり取りして合意した全ての内容”となる。
(6)従って、契約した製品・サービスを納品・提供するまで、契約の取り交わしは続くと見なければならない。そのため、前頁で記載した内容になるのである。
(7)しかし現実には、多くは顧客と取引き(契約作業)開始の“契機”になる文書のみを「契約書」と認識することが多く、それ以降の合意文書を「契約書」として認識することが少ないので、注意を要する。
(8)また、「契約(顧客要求事項と同意)」に加えて、規格では以下の内容が要求されている。

b)“顧客が明示していないが、指定された用途又は意図された用途が既知である場合、それら用途に応じた要求事項” 供給組織側が、納品・提供する製品・サービスに対するプロフェッショナルであるならば、当然の項目であり、以下に追加事項として示したものにも重なり合う事柄であるが、認証審査において主観や思い違いなく判断認識されるかどうかという不安は残る項目である。
c)“製品に関連する法令・規制要求事項” 出来上がった製品・サービスに対してのみならず、その製造・提供プロセス(工程)も対象に入る。この場合の“法令・規制要求事項”はあくまで国家が「法規」として規制するものとなる。
d)“組織が必要と判断する追加要求事項” 上記いずれにも該当しないが、組織が必要と「判断」した内容を無理なく入れる。多くは以下の追加事項になるのではなかろうか。

(9)上記以外にも、該当するならば以下の2点も入れるべきであろう。
<専門性から規定すべき要求事項−追加事項−>
追加事項 専門技術的な見地から必要な要求事項 上記の要求事項に該当しなくとも、プロフェッショナルとして、当該製品・サービスを作り出す場合に補足しなければならない事項があれば、要求事項として記載すべきである。これは法律上も善良なる管理者注意義務として該当するものであり、製造物責任と並んで注意すべきである。
業界標準・デファクトスタンダード 業界標準があり、その適用が好ましい場合や、デファクトスタンダード(公的ではないが事実上の製品標準仕様)が存在し、その適用が好ましい場合には、それらも要求事項として表記すべきであろう。

(10)上記2点は、プロフェッショナルとしての倫理や姿勢を問うような内容であるが、裁判上の問題に発展した場合の抗弁の基盤にもなり得るので、決して軽視すべきではない。
7.2.2 製品に関連する要求事項のレビュー
(1)「コミットメント」は、「契約締結」に関連した行為となる。つまり、契約及び見積り等の関連行為を行う場合には、供給組織は必ずその内容を「レビュー(見直し検証)」を行うことを記した、当然の項目である。
(2)レビューを行う対象として、以下の項目が規定されている。

a)“製品要求事項” 適切に設定されているか否かをレビューする。但し、製品要求事項は顧客との間で合意が図られているならば、法規制以上の制約は基本的には存在しない。つまり、どう合意(契約)しようと、どの程度取りまとめようと、顧客と供給組織間で合意されていればレビュー合格となることも基本として捉えておく。
b)“(契約・注文要求事項が以前提示されたものとは異なる場合)差異事項の解決” 「見積書」と事後作成した「契約書」との差異があって、確認・合意が図られていないことなどまずありえないであろう。
c)“(組織が規定要求事項を満足する)供給能力の保持状態” 能力以上の契約をしないということが大前提。但し、契約対象業務が初めて行う内容で、必要能力が不明確な場合には、その条件・状況によってまとめ方が異なる。(詳しくは個別に専門のコンサルティングを受けるのが好ましいと思われる)

(3)顧客が要求事項を書面で示さないこと(口頭契約)も、顧客との関係上発生する場合もあるであろうが、この場合、供給組織側が、事後又はできるならば受諾と同時期に文書化することが必要となってくる。顧客側の口頭契約に対する“文書化”(=契約書化)は、立場的に弱い供給組織側において、企業防衛上非常に重要な行為となるはずである。
(4)“製品要求事項”が変更された場合の処置に関して、規格では言及しているが、当然7.2.1項のb)〜d)も変更時には同様の処置が必要になってくるので手順化する必要がある。
7.2.3 顧客とのコミュニケーション
(1)顧客とのコミュニケーションは、やはり書面を介在させる形を採りたい。例を以下に示す。

規格要求項目 コミュニケーション方向 コミュニケーション文書例
a)“製品情報”
b)“引き合い・契約・注文・それらの変更”
顧客→組織 「注文書」「(顧客)計画書」「(顧客)仕様書」「(顧客)図面」「(顧客)契約変更通知書」等
顧客←組織 「見積書」「見積仕様書」「提案書」「受諾書」「図面変更依頼書」「仕様変更依頼書」等
顧客←→組織 「基本契約書」「個別契約書(甲乙規定)」等
c)“顧客からのフィードバック” 顧客←→組織 「(顧客)苦情文書」「(顧客)提案文書」「顧客満足度調査報告書」「顧客クレーム対策書」「顧客苦情対策書」等








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