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(6) ISO9001品質マネジメントシステム導入による成功・失敗事例
 規格に関して、「認証を取ってみたが上手くいかない」とか「認証を取ったばかりに業務量が過多になって担当者が苦しんでいる」などといった、「認証」主体の捉え方が一般的である。規格自体をよく眺めてみてみよう。概念的だが、基本的当たり前の要求事項が並んでいるだけである。ならば、何故、苦しむのか? これは、その企業が構築したQMSに問題点を見出す以外には無いように思える。
 このISO9001で規定された、「品質マネジメントシステム」というものは、前述した通り、ありとあらゆる産業や業種業態を問わない適用を想定しているために、抽象的で概念的である。だが、よく読んで戴くと良い事もいっぱい書かれている。根底は企業経営において役立つことばかりである。日本では理解されていないようだが、「管理」する最大の理由とも言える「リスク」に対して、予防的な対処は至極当然のようになされているのである。例えば、忌み嫌われている「文書」「記録」を考えてみる。PL訴訟対策には最適の方策であり、むしろこれ以外にその対処法は余りないのである。
 しかし、構築の仕方を間違え、もしくは無理をして文書・記録の変な体系を作ってしまって、自ら自家中毒とでもいうべき事態に陥ってしまったら。「リスク」対応の良い部分は全て消え、関係者が労働強化してでも記録を残そうとでもしていたら、むしろ、リスクの増大である。ISO9001の良さや極めて高邁な理想の部分は消え去って、憎悪の対象にしかならないであろう。
 何故そのような状況に陥るのか? これは以下の2つのうちのいずれかが該当すると言えよう。
 一つは「認証」そのものを目的化し過ぎて、その後の運用を全く考えなかったことによる。実は、問題事例のほとんどが該当する。本来、システム構築において最善であり、一番必要とされるのは、質は濃いがシンプルな手順=文書である。そうでないと、運用はできない。
 もう一つは「標準化に不慣れ」であることから来る。これは業務手順を統合したり、合理化することに慣れておらず、反って煩雑にしてしまう。難しいがこれは勉強していく以外に方法はない。結局はどちらも努力が必要になる。さて、事例を以下に示す。尚、ニュアンスを伝える点や表現上の問題から口語体で表記した。
<失敗事例>…
3つに集約できる
[1]システム維持に関連した事務処理量の増大
 「サーベランス(定期審査)の直前2週間の間、それまで作っていなかった記録を徹夜しながら作ったよ。」よくある事例です。記録の欠落を補うだけならまだしも、二重に帳簿を付けているようでは導入したことになりません。
 「審査員が発注書と検証書の台帳をひっくり返して審査してマイッタよ。それで、違う点がたくさん指摘された。」この方はこの運用をお一人でなされてました。別に発注書と検証書が分かれていなければならない理由もありませんでした。もう少し工夫が欲しいところです。
[2]QMSの硬直化による業務の繁雑化
 「設計図書の寸法表記が手順とあっていないと指摘を受けた。」この事例では実は、手順に寸法交差が示されていなかったのです。この例はうかつな面もあるかもしれませんが、いろいろな変化や状況に対応できている文書・マニュアルは標準化技術の問題もあって余り多くありません。頑張りたいですね。
[3]責任・権限を集中させるために起こる、文書類の訂正遅れによる業務の停滞
 「部長、あなたが風邪で休みを取ったら、どうISOの業務は処理するんですか?」この質問を聞いてハッとするようだとこの[3]の状態に陥ってしまう可能性も。これも工夫したいですね。
<成功事例>…
成功事例は内部成果と外部成果の2点に大別される
【内部成果】
[1]業務管理・品質管理システムの構築(システムがない場合)
 中堅企業によくある事例です。これは好ましいことですね。
[2]業務管理・品質管理システムの構築強化←文書化による効用
 これは、改善的なシステム構築ができた事例と言えます。レベルの高い内容です。
[3]業務管理・品質管理システムの監査・チェックによる、システムの形骸化防止
 内部監査や外からの認証という監査制度を上手く利用してます。仕組みで怖いのは慣れですから。
[4]QMS文書・記録類の整備により、業務の把握が簡単に
 文書は媒体に記すということですし、それは分かるということです。更に図表も取り入れると…。
[5]業務内容の文書化により、改善・是正がやり易くなる
 業務が分かる見えるというのは、発想しやすい、説明し易いにもつながり、改善につながるのですね。
[6]業務内容の文書化により、転勤・移動に伴うロスが軽減する
 引継ぎ文書やその他資料を、作成する手間が軽減されるからです。
[7]責任・権限の明確化により、問題発生時にその対処がスムーズになった
 責任は誰もが取りたくない。でも明確化されれば、やるしかない、逃れられない。
【外部成果】
[1]ビジネス・チャンスの拡大、入札の際のパスポートとして(特に欧米)
 これは事例や説明の理由は要らないでしょう。
[2]企業イメージの向上
 これも多くの企業で実践していることです。
[3]第2者監査(顧客による監査)の省略
 これは関係していないところは分からないであろうが、顧客の監査は相手が相手だけに、それは大変な労力がかかり、しかも、相手が趣味的な要求をしてきても対応せざる得ないので、2重の苦しみを受けることも。ISO認証によりこの監査を省略してもらう企業も見受けることが多くなりました。
[4]文書化・記録類整備による、PL対策
 先ほどの文書で述べた通りですが、顧客も、地域住民も、裁判所も、労働基準局も外部の人間はみんなやり方を示した「文書」とその実施した証拠の「記録」しか、会社内の出来事など理解できません。それが分かっても文書と記録はいい加減でいいですか? 裁判沙汰になった時、裁判所にどうやって事実認定や抗弁するのでしょうか?
 さあ、どうであろう。このような成功事例に貴社も加われるように、当ガイドブックを勉強して努力してみてはいかがだろうか? 上手に構築さえすれば、経営管理の質が確実に向上するといえるのであるが。








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