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1986年 第16回全米里親会大会
  4月30日〜5月3日 デラウェア州ウィルミングトン
 
 アメリカ合衆国の独立が宣言されたフィラデルフィアの南部に隣接したウィルミングトンは、緑の美しい田園都市です。
 この大会はデラウェア州当局の絶大な後援の下で終始開かれました。特に今回は、国際里親養育機構(International Foster Care Organization, I.F.C.O)からその主要理事国であるベルギー、英国、カナダ、豪州及び日本が参加し、その理事会が開催され、国際色豊かな会議となりました。
 
1、開会式 4月30日 午後1時〜2時
司会 ペンシルヴァニア州里親会会長
     スーザン・メルサ女史(Mrs. Susan melsa)
前全米里親会会長退任挨拶
     カール・ブラウン氏(Mr. Carl Brown)
 「私は4ケ年に亘り会長として勤めさせて戴いたことを大いに誇りとしています。私は全米を通じて里親の方々に大きな信頼をよせてきました。里子、ソーシャルワーカー、関係機関そしてその他の関係者に対しての信頼を含めてです。私が訪ねた全ての土地において、私に与えて戴いた支持と歓迎について深く感謝しています。
 また私は私が尽した子供達の心の中に希望と信頼の精神をきざみ込んできました。この事業は、多くの刻苦と難渋なくしてはでき得ないものだと思います。私達は政治的の努力よりはむしろ長期の子供達に対する理解に重心を置いてやってきました。
 皆様方が私にお示し戴いた友情は、私達の偉大な国民に対して、その心と頭脳を転換させるために、私達の里親会に対する新しいイメージを作り出すのに大いに役に立ったと思います。私達の里親会の活動について触れて見ますと、この会は国民の信頼をうけて活動し、ベストを尽していると一口に云えましょう。会計についてもメンバーの確保についても全力をもって当っています。また、情報活動部門も頑張っています。全米のこの里親研修大会も盛大になっています。表彰分野についても、適切な機会にこれを行っています。また育英資金制度も活動し、里子達の社会復帰事業も順調に継続しています。
 しかし、他の分野と同様に私達は小成に安んじてはいけません。私達は創意と変化をもって前進しなければなりません。私達の里親会は明確に国民的な力となるために会員を増強しなければなりません。私達は国民的なレベルで政治力を発揮しなければなりません。私達は、自分自身で語れない人々の声とならなければなりません」
 新全米里親会会長挨拶 ジョージ・ワークマイスター氏
(Mr. George Werk Meister)
 「今回の大会で、カール・ブラウン氏に代って会長となりました。皆様とともに頑張って行きたいと思います」
参加者の紹介
 日本、カナダ、ベルギー、及び英国の各里親会
国際里親養育機構(I.F.C.O.)理事長(President of Executive Committee)挨拶
  バーナード・ルノー氏(Mr. Bernard Lernout)
 「本年イギリスのリーズにおいて国際里親養育機構会議があります。私はこの会議のプランを造るために今回の会議から色々と学びたいと思っております。
 たまたま、この地に来る飛行機の中でかつて里子であった女性に会いました。彼女の過去の経験は惨憺たるものでありました。5年間と3年間別々の里親家庭で過し、17歳の時に家出をして了いました。彼女はこの会に対して次のような意見を述べました。「私自身も、受け入れた里親家庭もよく準備ができていなかった。自分の意見を表現する事もまたその機会もなかった。すべて自分に関する決定が自分の頭の上でなされていた。このような意味で、里子を代表して里子についてもっと考えて戴くようにお願いいたします」、私は私達が行動を起すとき里子達の感情や意見をもつと考慮しようではありませんか」
挨拶 ペンシルバニア州里親会長、アメリカ里親養育連盟副理事長
  スーザン・メルサ女史(Mrs. Susan Melsa)
 (President Pennsylvania Fostar Parent Association)
 (Associate Director, American Foster Care Resource)
 今回の第16回大会を開催する担当里親会としてその準備や努力について述べて見ます。
 まず、一般の方々に対して、私達は里親養育の国民的啓発運動(National Fostor Care Awareness Campaign)を始めました。そこでは里親養育とは何であるか、何故里親養育が必要なのか、何故里親会が必要でどのような認識なのか等を一般の人々に知って戴くための運動なのであります。
 この運動は先ず手始めに、ローカルのレベルから始め次第に全国的に発展して行くように考えました。
 具体的には女性雑誌、テレビのスポット等を活用し、また、レコードの活用などもいたしましたが、とくにテレビにおいてドキュメンタリー映画「Wanted Room With Love(愛のある家庭を望む)」を作成して今晩中放映の予定であります。このようにローカルからナショナルレベルヘの発展することが必要です。
 次ぎに悪い噂に対して、これをストップするための努力をいたしました。里親養育は金を儲けるためにやるのであるとか、里親養育は他にすることがないからやるのであるとかの意見を根絶することが必要だと思います。
 里親養育は、子供にとって最も安全で安定した巣であることを知らしめる必要があります。「私達はケアーチームなのです」というP.R.を進めて今日の大会を迎えることができました。
行政説明
 デラウェア州家庭青少年福祉局長
チャールス ヘイワード(Mrs. Charles E.Hayward)
 皆様デラウェア州によくおいで下さいました。ミカエルN.キャスル(Gouernor Michael N. Castle)知事に代りまして、この会のご成功をお祈りしますとともにデラウェアでのご滞在が楽しいものでありますよう祈ります。
 知事はデラウェア州の子供達の為に数多くの方法で援助しております。今日この中の2〜3についてご紹介致し、児童サーヴィスに関する問題と子供のニーズにどの様にしてデラウェアがそれを受け入れる態度をとっているかについてお話したいと思います。
 現在デラウェア州においては、知事の創意によって州の子供のための州の事業についての説明が行われています。このプロジェクトを「生後60ヶ月(The first 60 Months)」と呼び生後から5歳までの子供の生活に重点を置き、よりよい審査プログラムの初期における実情の検証を行います。その結果をこれらの諸問題の進行審査プログラムを策定することに利用するよう希望しています。
 デラウェア初期児童期モデル(The Delaware Early Childrenhood Model)は次の3つの要素により構成されます。
(1)就学前児童のための教育の機会の賦与と教育の充実
(2)幼児期児童のための健康についての質と行動可能性の向上
(3)幼児期児童のために時間とエネルギーと関心を活用する必要性を地域に知らせること
 知事の1987年予算の中に、幼児死亡率悪化防止プログラム、重症幼児のためのサーヴィスの拡張、そしてアメリカ各地ではすでに確立されデラウェアに数ヶ月前に紹介された「声高に読む(Read aloud)」プログラムとボランティアに対するプログラム等の予算を計上しております。
 我々の初期幼児プログラムは子供の必要に応じた包括的準備策のアプローチで国民の考えを反映してデザインされたものです。
 デラウェア州の子供と青少年の必要に応じる努力は、(Department 1)として、児童青少年家庭福祉局(Department of Services For Children, Youths and Families)が州政府キャビネットレベルの部局として3年前に設立されたことによって大きく変りました。
 この新たらしい部局の設立の目的は、分割重複を避けることによって、児童とその家族により能率的サーヴィスを供給することであります。
 私達は、虐待された子供、顧みられない子供、非行児童、精神障害児、情緒不安定の子供を援助する総合家庭サービスセンターシステムの計画開発と管理を遂行する義務を負っています。
 州の児童保護サーヴィス(Child Protective Service)小児精神衛生サーヴィス(Child Mental Health Service)青少年リハビリテイションサーヴィス(Youth Rehabilitation Service)及び青少年治療センター(Youth Diagnostic Center)は、親としての責任からの解除または親が不可能の場合に、その責任を引受ける義務を負っています。
 私に対し、もっとも傷つけられ易い子供の必要に応じる州政府の新らしい部門で働くことはどんなものであるかとよく尋ねられます。簡単な言葉で申し上げますと、チャレンジである刺激的仕事と答えるのです。新らしい部門ですので創作的に子供に役立つチャンスがあり刺激的であります。新らしい機構であるため好調に仕事をするチャンスがあることを希望しています。と言っても問題や不満もないわけではありません。問題というものは常にあります。しかし私達の部門は、子供そして青少年の家族の必要に応じるのみで他の問題に悩まされる事がありませんので、それらの問題をはっきり見極めそれらの焦点を合わせる事ができます。デラウェア州においては、今、子供のニーズに焦点を合わせ、子供のサーヴィスに優先権を与えるチャンスがあります。
 それでは、児童と家庭のためのサーヴィスについて直面している政策について述べましょう。先ず、すべての人の頭に予算が重大な局面にあるということです。連邦政府が何をカットするか、州政府がその差を十分埋めることができるかと言うことに常に苦闘しています。連邦政府レベルにおいての予算カットはやむを得ません。これは典型的な「大砲かバターか」のケースで現在は大砲が勝っています。いうまでもないことですが、質の良いサーヴィスには金がかかります。カウンセラーやソーシャルワーカーが良い仕事をするのには、子供と家族で過ごす時間が必要です。これが私達の人件費のコストに関係します。そして時間イコール金です。私達の選択は非常に明確なのです。もし金がないのでしたら、私達のサーヴィスの範囲を限定しなければなりません。そうでないとすべて不十分になります。私達は今、「連邦の楯」になるため苦闘し連邦政府のドルを当てにすることから脱出するよう努力しています。
 財源の縮小というゆゆしい事柄に直面していますがその他にも重要な問題で苦心しています。例をとりますと、永い間の緊張状態があります、生みの親の法的権利と子供の権利、それに近年とみに認識されてきたFoster Parentの人権という考えです。里親の法的権利及び人間の権利が、他の権利と共に複雑な問題として登場してきています。
 近年、私達は家庭の堅持と安定を強調しています。私達は里子の措置を必要の場合のほかはできるだけ少くし、すぐ実親の許にもどることを目的に、短期間の里親養育に努力しています。しかし現実に里親さんや里子措置民間機関に働く人々は、痛い程お気づきのことと思いますが、今日養育のために措置される子供達は、グループとして見た場合、20年前に比べてひどく傷ついています。あまり傷ついていない子供達は今急に措置せず自宅でその家族構成のなかで、問題を解決するようにしています。ということは里親や子供達の世話をする仕事に携わる人達は、以前に比べてより熟練し献身的であるのでこれが可能なのです。
 ただでさえ傷つき易い青年期、自分の子供でも扱い憎いこの年齢層の子供達が、この数年、注目を惹いています。この年齢は、それなりの特別の発育上の要求があります。それで州の部局は必要に迫られて彼等に仕事を専心投入しております。彼等には多くの問題があります。その中には急上昇に高い率の妊娠したティーンエイジャー、情緒と心理不安定の青少年、家出人、精神病院又は教護院にいるティーンエイジャーの青少年等のために、里親家庭の準備が必要となっています。
 最近、家族の様相が変わりつつあります。これが私達の対応の問題の本質を変え、それと同時に彼等に対処する方法の変化を必要とさせています。今日、伝統的なパターンに従う家族は少くなっています。多くの混合又は継父母の家族を見かけます。しかし社会は未だ混合家庭の役割を明白に示すことができないでいます。長期結婚よりは短絡的結婚、両親よりは片親、とくに父親だけの家庭が増えつつあるのを見かけます。母親が子供と家にいるという家庭は完全に小数になりました、
 最後に、里親に関心を持つ方々にとって重要な問題があります。私達の緊急に要することは、より多くの人に里親養育を魅力的で可能ならしめる方法を見つけ、問題児童と青少年の必要に応じた世話のできる申し分のない人を見付けることです。私達は先ず充分な報酬を里親に供給しなければなりません、他人の子供の世話をするコストを払わねばなりません。デラウェア州は報酬に関しては他の州に比べ遅れています。しかし基礎料金の増加、困難なケースの為の加算額等に知事は積極的に取り組んでいます。
 もちろん皆様は色々と知りたいことがあると思いますが時間の都合上、デラウェア州において、実施している事業について具体的にご説明いたします。
(1)里親養育についての支出を増大することを企画しています。連邦政府の基準による児童養育の費用の100%を支出したいと思います。グループホーム開設を2年連続で増加し、養育のレベルを向上することを計画しています。
(2)デラウェア州議会に里親特別加算養育費支出システムを提案しました。(We have proposed to the Delaware Legislature a system of special care payments along a continuum, so that additional money is available to foster parents to help them care for children with a range of problems.)
(3)里親の開拓と訓練のために、州政府内にフルタイムの職員体制を設ける予算を請求しました。
(4)最近1年間民間措置機関が州全域に亘り里親開拓キャンペーンに協力をしました。
(5)州は特殊里親プログラムに資金を提供しました。一例として女性犯罪者の里子のための青少年社会復帰サーヴィスがあります。
(6)Y.W.C.Aに対し里子独立生活プログラムの援助をしました。
(7)里子のための多様な継続的なケアシステムを実施し里親を通じての実親へのサーヴィス、グループホームでのケア、レシデンシャルセンターへの入所、精神科治療に対する援助などに努力しています。
 最後にこの会場の特に里親の方に申し上げたいことがあります。皆様が子供達にして下さっている事に対してのお礼をどの様に表現しても余りありません。子供達の世話にあたり皆様は義務以上の事を何度もして下さいました。皆様里親はサーヴィス遂行体系において絶対必要な部分です。皆様は世話をしている子供の決定に関係のあることについて主張して下さい、あなたの意見は重要です。
 閉会挨拶 全米里親会会長 ショージ マイスター
 
2 分科会 5月1日〜3日
 性的虐待の犠牲となった子供の養育
  (Treating Child Sexual Abuse Victims)
 児童虐待の課題に直面している里親
  (Foster Parents Faceing Charges of Child Abuse)
 児童の性的虐待についての評価
  (Assessing Male Victims of Child Sexual Abuse)等
 児童の虐待に問題した分科会が多く登場し、今回の大会の関心事として注目を集めました。
 これらの分科会の議事の内容は次のようでありますが、特に里親による児童への性的虐待の問題が議論されたので併せて詳しく記録します。
 最近における米国において殆んどの州において児童虐待(これには性的虐待を含む)の事件が急激に増加してきた。その数は州によって一概には言えないが、この数年の間に約3倍に達してきています。これらの子供が、州郡を通じて自己の家庭から里親家庭に措置されることになり、里親の守備範囲は質的にも量的にも拡大されるにいたっています。里親家庭における虐待児童の養育の数多くの問題点が起り複雑化し里親自身の研修が必要となってきています。
 一方里親家庭において養育中の子供に対して里親が虐待するという告発も稀にあり、州政府もこれを問題とし里親及び里親組織の間に密接な連絡をとり、里親に対する指導助言体制を考慮することの必要性を認めています。
 これらの問題点が議論されることとなったのは、テネシー州の一里親からのレポートに発し、これに対しテネシー州政府より、里親会へ以下のようなメッセージが発せられたことによります。
 「児童の性的虐待についての里親に対するメッセージ」(テネシー州社会福祉開発部発 テネシー州里親会宛)
 児童の虐待とくに性的虐待についての社会的関心が過去2年間を通じて高まってきました。従ってこれらの問題への理解と対策が緊急に必要となってきています。本年6月、州議会は、今後、これらの関する調査を行う提案を採択いたしました。
 不幸なことに、多くの性的虐待の犠牲者は、彼等自身の家庭では保護されることができずに里親家庭に措置されることとなります。
 過去3年間において、これらのケースが3倍にも増加したことで里親養育システムに巨大なインパクトを与えています。多くの児童は、この里親制度で新しい生活に挑戦していますし、また里親達は、その対応能力を拡大しなければならないことになっています。州政府としては、テネシー大学と手をつないで、里親に対して性的虐待をうけた児童の里親養育についての研修を開始しました。
 これと別な問題として、州政府と里親の双方を大きく悩ませている問題が生じています。それは里親家庭で児童の性的虐待のあったことが報告されていることであります。勿論このようなケースは極めて稀であるが、問題が現存し、誠にいやな事実として現出しています。この数年間に12人程度の児童が里親家庭で虐待されたことが判っています。勿論このような事件は極少であるが、しかしこのことは里親システムの基礎を揺るがすものであります。
 性的虐待についての調査は、州政府、関係官庁、家庭裁判所、弁護士会等によるチームによって行われるし、児童とのインターヴューも合わせて行われています。 コインの裏があるように、幾人かの里親が無実であるのに拘わらず、性的虐待の故をもって告訴を受けた調査機関がその無実を証明したのに拘わらず間違って告発されるおそれのある重圧感が里親の心にのしかかっています。
 里親さん方は、里親養育中の性的虐待の例が極めて稀であることを理解して戴きたいが同時に、調査は一旦告発があれば法の下で行われるということを理解して戴かなければなりません。法律の下で奇妙な妨害者は児童保護調査チーム(政府代表者、監察機関、家庭裁判所、州弁護士会)によって法律下で調査されることとなります。
 里親は懸命に子供達のニーズに対応するよう頑張っていますが、里親家庭においての虐待やネグレクトの訴えがあったならば、それは双方の協力関係に影を落とすとともに、不信の雰囲気を醸成するものであります。里親が養育の役割を十分遂行すればするほどその性的虐待の偽りの告訴の恐怖から自由でなければなりません。州政府が性的虐待調査のための指針を持っていることを里親が知れば、それで里親は安心感をもつことと思います。全てのことについての調査や子供の過去の歴史を調査することを通して、私達州政府は、嘘の申立てを判別し、政府と里親との積極的な連帯行動を継続することを確信しています。
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4月30日 第16回全米里親会大会開会式、
ウイルミングトン・ラジソンホテルにて
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5月1日 分科会、ペンシルヴァニア
里親会長と渥美会長








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