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1981年 第11回米国里親会大会
      第5回国際会議
  4月1日〜5日ミシガン州デアボーン
 
1. 1981年の米国里親会大会及び国際会議は、アメリカ北東部ミシガン州デアボーン、ハイエットリージェンシイホテルで開催されました。
 デアボーン市は、米国自動車産業の中心都市デトロイトに隣接しており、フォード社の中核工場が所在しています。デトロイトには、フォード社の外2大自動車メーカーであるG.M.社、クライスラー社が根拠地を置いて、正しく米国自動車製造のヘッドクオーターを形成しています。
 ただし、1970年代後半から日本の自動車産業が国際競争裡に登場し、米自動車産業の地位を揺がす勢いを呈していました。
 この様な状況でありましたので、デトロイトの市民が、日本人に対してある種の警戒に似た感情をもち始めていたことが私達には何となく不安な思いをさせていました。
 日本からの参加者は次の通りです。
    高橋  清  北海道  里親
    宮原 忠美  秋田県  里親
    庄司 吉蔵  秋田県  里親
    小野 重雄  東京都  里親
    中村 信雄  埼玉県  里親
    塩田徳次郎  茨城県  里親
    塩田 茂子  茨城県  里親
 
2. 開会式 4月2日 午前9時〜10時
歓迎の言葉
 ミシガン州デアボーン市長
 全米里親会会長 ハーレイ・マーキイ氏 (Mr. Harley Mackey)
 ミシガン州里親会長 マリー ボール ホッジス女史 (Mrs. Mary Ball Hodges)
基調講演
 ミシガン州社会福祉局長 チャールズ ブラック氏 (Mr. Charles Black)
 ミシガン州の社会福祉の現状と里親制度に触れ次の通り述べました。
 「今大会は最近の財政悪化の中で開かれました。とくにレーガン大統領によるアメリカ財政再建の中で各般の政策の見直しが行われ、福祉関係の事業もその見直しの対象となっています。ミシガン州はアメリカの中でも福祉が最高のレベルにありましたが、最近の経済状況ではそれを維持することができなくなり、縮小の方向になってきています。
 里親は福祉の中でも重要な制度であり、家庭の大切なことを国民に知らせるものであり、財政窮乏の中でも何とか努力したいと思います」
 
3. 第6回国際会議―国際分科会― 4月4日 午前10時〜12時
参加者
 日本、オーストラリア、カナダ、サモア、米国の里親及びケースワーカー等
司会者
 アメリカ里親会会長 ハーレイ マッキー氏
説明者
 日本全国里親会会長 渥美節夫
演題
 「日本と外国における里親制度の比較」
質疑応答
(1)里親制度とくに短期里親制度に関するもの
(米国) 日本における里親養育の期間は? アメリカにおいては一般的にいって二年間である。
(日本) 日本においては短期里親の期間は一ヵ月以上一年間となっている。長期里親の場合、厚生省調査によると約五ヶ年となっている。
(米国) アメリカにおいても若干長期化してきている。
(2)里親と里子の関係
(米国) 里親里子関係が解消する場合はどんな場合か、里子は実親の家に帰れるのか、誰がその手続きをとるのか。
(日本) 里子は実の家庭の状況が良くなれば、里親の許から実の親元に帰る。その場合の手続きは児童相談所が行うことになっている。
(米国) 里親委託の原因について日本の場合はどんなものがあるか。
(日本) 現状では、両親又は片親の蒸発、疾病等によって欠損家庭となった場合が多い。その他実親が養育することが不適当な場合がある。
(米国) アメリカでは、日本の場合と相当な相違がある。里親養育の理由として次のような場合が多い。
ア.親が自分の子供について全く興味関心を失って了った場合、文化の背景が相違しているので日本では一寸理解できないと思うが、アメリカの場合この現象がある。
イ.親が子供に対して、心身ともに悪影響を及ぼす場合があります。子供を正当に養育するどころか、マイナスの影響を与える場合であります。これは親が、例えば、アルコール中毒であるとか、麻薬中毒の場合であります。この外親がいろいろな社会的な問題を抱えて、子供の養育について悪影響を与える場合であります。
 このようなケースが多く日本の場合と極めて異なったものと云えましょう。
(米国) 日本の場合には、このように、両親の側において子供の心身に悪影響を及ぼすので、里子の委託となるようなケースはありますか。
(日本) アメリカの場合、いま説明されたような原因が圧倒的に多いということですが、日本においてはそんな場合は特殊なケースとしか云えません。日本においてはアメリカのケースのような理由は、そう多くはないと思います。
(米国) アメリカの場合、アルコール中毒や麻薬患者の親が、子供を悪用して利用する場合に連がります。子供を私物化するわけですので実親から切り離して里親に委託するわけです。
(日本) ただし日本においては独特の現象ですが、親子心中ということがあります。これは日本の両親(母親)が子供を私物化して独占物のように考えているとも理解されます。この現象は子供を悪用しているものとは云えないと思いますが、日本での特異な現象といえます。
(米国) アメリカでは、ティーンエイジァで家を飛び出している者が非常に多い。聞くところによれば日本ではティーンエイジァが大いに暴れて両親を苦しめ両親が家を飛び出して蒸発するということを聞いていますが、事実なのですか。
(日本) とくに聞いておりませんが、日本での両親や片親の蒸発の場合の中には、子供や家庭の維持のためにそうなることもあります。
(濠州) 日本では女子高校生の家出が多いと聞いていますが。
(日本) 最近日本での女子高校生の家出は増加しております。
(濠州) 家出した女子高校生は、やがては里親の下で養育されるのですか。
(日本) ケースバイケースと思われますが、日本では里親に委託される場合よりは、施設に措置される場合の方が多いと思われます。そして民間の人より、行政機関としてのケース・ワーカーが、その子供の指導に当る場合が多いと思います。
(3)養育費
(日本) 里子養育費について伺いますが、私のところでは幼児については月約五〜六万円、その他の子供について月約三万円程度の里親側での持出しがあります、県によって違うと思いますがアメリカでの自己の持出し分についてはどうでしょうか。
(米国) アメリカのミシガン州においては、里親の持出し分は月約100ドルから150ドル位になっております。
(日本) 日本の場合の実情をいえば、中学校・高校に進学すると教育費がかかり、里親の持出しが多くなる。先程のべた里親の持出しの問題は、生活費だけについて云ったので、その外の経費についていえば、更に持出しは多くなります。例えば、知能の遅れている里子の場合には私立高校にしか進学できないので、公立高校以外には経費を支出してくれない現在での公費負担の制度からいって、里親の持出しは、増加します。さらに身障児を里子に持つ場合には家の設備などの改造が必要ですが、この経費は全て里親の負担になります。従って日本では公費負担の基準を改善して貰う必要があります。
(米国) 日本の場合には養子縁組になる里子があると聞きますがどの位の里子が養子縁組をしますか。
(日本) 日本の場合には、里子を養育する動機の1/2以上が養子縁組を希望していますので、その数程度は養子縁組をすることとなります。
(4)里子養育の実例
(米国) 日本の里親さんからその養育の体験についてご説明して下さい。
(日本) 両親が蒸発してしまった後四歳の女の子供の養育を開始しました。18歳になったとき里子の措置が解除されました。その際叔母さんが引き取りに来ましたが、子供は塩をまいて呉れといって全然顔を出さなかった。その子供は養育当初は極めて性質が悪い子供であったが、今ではすっかり直り里父の友人の長男の嫁に是非とも欲しいと求められている。
(米国) 日本での措置解除の年令は何故制限されていますか、その理由が理解できない。
(日本) 法律で定められている。
(米国) アメリカでは、実の両親からの訴えで、訴訟問題になる場合が多い。日本ではどうですか。
(日本) 日本では家庭裁判所での法律上の問題になるまでに、一般的には児童相談所で調停し、事前の処理がうまく行われる場合が多い。
(米国) 終戦後日本では里親村が存在したという話を聞きましたが、それについてお話を伺いたい。
(日本) 終戦後2〜3の府県において里親村が存在しておりました。500人の村で50人〜60人位の里子を養育している部落がいくつかありました。しかし現在ではそのような里親村はなくなりました。
(5)心身障害児の里親養育の現状
(米国) 日本の資料を読みますと殆んどノーマルな問題のない子供を養育されている里親が多く、身体障害、知能遅滞の里子が少ないように思われます。しかし最近そのような子供を養育して、その場合に経費が余計かかるという話を聞きましたので、この問題についてお伺いしたいと思います。
(日本) 日本では、心身障害の子供を養育することだけでは、里親はなれておりません。したがってどのようにしたらよいか、どのように勉強したらよいかをお知らせ頂きたいと存じます。
(米国) その前に日本では、身体障害児、知的障害児やその他の特殊児童を養育するための施設に恵まれておるのでしょうか。お伺いします。
(日本) 日本ではこの10年間位の間に、そのような児童のための収容施設が非常に充実してきました。しかし、最近では、むしろ施設に収容しないで、在宅家庭で育てた方がよいのではないかとの反省も出て来ております。
(米国) 私の意見ですが、そのような子供を受け入れる時の注意を申し上げます。 第一に、その子供を心から受け入れて自分の子供としてあつかって行くという心掛けが何よりも大切です。第二に、子供が身体不自由であっても知的障害児であっても普通の子供として扱って親も一緒になってより高い目的に向って一生懸命に創造して行くわけなんです。第三に、特別な人間として扱うのではなくて正常な生活を味わせることを共に分ち合って行くことなのです。そのことにより里親も非常な充実感を感じ得る分けです。共に生活し共に生活を分ち合って行けるようになります。
(日本) 日本では、このような子供を預って育てている里親の数は、全数の中で僅か5%程度です。現在の里親では、このような子供を養育することは至難と考えていますが、その可能性を探るという意味で、さらに外国の里親でご経験のある人の意見を聞かせて下さい。 とくに経費もかかり持出しも増えるように考えられますが、その点も教えて下さい。
(濠州) 私にはノーマルな自分の子供と十字架を背負った里子とがおります。自分の子供には、判らない者に対して何でも教えてやりなさいといって飽くまでも家庭の一員として家庭の組織の中に入れて養育しております。
(6)心身障害児の養育費
(米国) アメリカでは中央政府、州、郡、市町村及び民間団体でこのような特殊児童を養育している里親に対してあらゆる援助をしようと努力しております。この特殊児童を三つの面からとらえております。第一は行動面、第二は身体障害、第三は精神障害であります。 そして、その児童の重軽度により経費も高低があります。私のいるニュージャージー州について申し上げると、普通の児童では月192ドルとなっていますが先程の第三の知的障害児の場合で最低約300ドルとなっております。この額はアメリカでは各州、郡、市町村において少しずつ異なっておりますから一概には云えないと思いますが、各州を通じて一般的にいえば普通児月約200ドル、心身障害児月約300ドルから900ドル平均して約625ドルとなっています。勿論極めて重度の子供の場合には月900ドル以上支払われているところもあります。一方施設や病院においてこれらの子供を収容するのには約月1200ドルもかかるのであります。ミシガン州においては、普通児は一日約6ドル(月180ドル)、問題児童は一日23ドル〜40ドル(月609ドル〜1200ドル)と定められております。
(7)その他の問題
(日本) そのほか何かご意見を頂きたいと存じます。
(米国) 日本の里親会の機能が大変すばらしいと感じました。 例えば、里親制度や里親会のことについて、色々な情報を集めPRする場合、恐らくアメリカならばパンフレットやリーフレット等を10冊以上を積み上げてやらないと判らないものが日本の里親会では、このように僅か20ページの資料ですべて要点を得て説明されています。大変素晴らしいものだと感心しました。その他の点でも、日本の里親会は色々と能率的にことを運んでいらっしゃる点で大変印象的だと思います。
(8)総括
 アメリカ里親会会長 マッキイ氏の総評
 色々とご意見やご質問を有難うございました。日本の方々がこのように熱心に、この大会に参加され日本とアメリカや他の国の方々と会議を持たれ、それぞれの特色を生かされることができ、この会の意義があることを感じております。
 今後も更に相互の理解を深めて行きたいと思っております。
 日本、全国里親会理事長 渥美節夫の挨拶
 今回も日本からの里親の代表者のためにこの分科会を開いて頂き、有意義な会となりましたことに心から感謝いたしております。
 日本の里親会は、アメリカ里親会及びここにご列席の各国の里親会と相互の理解と協力を得て日本及び世界の子供の幸福を進めて参りたいと存じております。次回の北ダコダ州ビスマルク市での再会を心から望んでおります。皆様方のご健勝を祈り上げます。誠に有難うございました。
 (この後アメリカ里親会から日本の里親に対してプレゼントの贈呈がありました)
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4月4日 第11回全米里親会大会 国際会議
ハイエットリージェンシイ・ホテルにて
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同上








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