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昭和54年 第25回全国里親大会
  10月12日 日本沖縄県那覇市
 
 我が国の全国里親大会は、その第25回を記念し、かつ国際児童年を記念し、那覇市民会館において全国の里親と関係者約1000人が参加して開催されました。
 今回の開会式には、1975年以降交流を深めてきました米団里親会を代表して、会長ディヴィッド・エヴァンス氏の特別講演「米国における里親制度」が行われました。
 その全文を掲載いたしますが、アメリカ合衆国政府における里親制度の体系、養護児童の現状、脱施設化、里親に対する研修教育、ケースワーカーの活動、国民に対する里親制度の啓発活動など、日本における今後の里親活動の方向づけについて極めて示唆に富んだ呼びかけであり、大きな感銘を与えた講演でありました。
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全米里親会会長
ディヴィッド・T・エヴァンス氏
 この国際児童年に日本里親会の前に皆様に話をする機会を得たことを私自身がいかに喜びとしているかをまずお伝えしたいと思います。日米の里親会の深い交流は、1975年ジョージア州アトランタにおける米国の会議に貴国の渥美節夫会長が講演されたときに始まりました。それ以来日本の里親の皆様が米国の会議に出席されるようになりました。私どもはこの意義ある接触から恩恵を得、学ぶことができました。そして日本において子どものニードを里親がみたしている重要な役割と日本の里親会が日本の里子のために果している重要な役割を理解するようになりました。
 私は本日ここに米国の里親養護について皆様に語り、かつ世界に共通な子どもへの私どもの関心をわかち合うためにまいりました。
 今私どもの国では、国の児童福祉事業の中での里親養護の特有な領域と米国の50万の里子の充たされざるニードについて未曾有の論争があるのです。
 1977年、カーター大統領は、家庭生活を強め養育する里子のための国策を構じるよう全米里親会によびかけました。
 1978年を通して「里親養護についての全国都市会議」が国の諸地域で、50万の里子に日々のサービスを与えることに最も直接に関係する人々、すなわち里親とケースワーカーに大統領の呼びかけを伝えるために開催されました。
 それら諸都市の会議の代表が、1979年5月23日「里親養護についてのワシントン市の会議」において大統領ならびに第96回国会の議員に彼等の関心事を提出すべく集合しました。 私は里親ならびにソーシャルワーカーの三つの主要な関心事、全米里親会ならびに児童のための他の諸擁護者の関心事、我々が大統領及び国会議員の前に5月に提出した関心事について皆様にお話したいと思います。
 我々の第1の関心事は、米国で里親に養護されている子どもについてであります。社会福祉の保護をうけている180万の児童のうち、現在50万以上が里親委託措置になっています。それら50万のうち、79%が伝統的な里親家庭に、14%が寮に、7%がグループホームにいます。1960年以来、米国では里親養護をうける児童の数は2倍になりました。
 私の国の里親養護になっている児童の家庭は、一般に低教育であり、多くは無職で、職に就いている人々の仕事は専門職ではありません。殆んどが貧困で、多数が生活保護受給者です。
 黒人の子どもが里親養護の系列には圧倒的に多くまた、養子縁組を待つ児童の総数の中にも圧倒的に多いのです。そして実際に私の国で養子縁組されている子どもは少いのです。
 問題点のある子どもの数、すなわち里親委託養護にしたいができない子どもの数は我々の社会で増加しつつあります。その一要因は私どもの国における児童虐待や放任の数の上昇であります。児童虐待の報告は今や毎年約30万件になっています。放任の問題をもふくめるならば、その数は100万にもなりましょう。約6万人の子どもが由々しき傷害をうけており、約3000人の子どもが死亡し、約6000人が永久的な脳の傷害をうけています。
 有能な訓練された里親家庭は現在わが国で最も必要とするものであります。実際私どもの国の何れのコミュニティでも、里親養護系列に入ってくる子どもの増加するニードに応じるには里親が不足なので、困っていないところは無いのであります。
 第二の関心事は里親家庭養護の性格の変容であります。伝統的に里親養護は、親の保護のうけられない子どもをコミュニティの代替家庭で補う短期養護を意味していました。しかし、今では、里子はしばしば長期で無期限の里親委託となっています。ある調査によれば、50%が2、3か年里親養護をうけています。26%が5か年以上里親養護をうけており、そして12%が10年以上里親家庭にとどまっていました。
 この劇的な変化の背景は、わが国の児童福祉施策に主要な方策の変化を示しています。1923年には正常で非行化していない児童の総数の64%が施設におり、36%が里親家庭にいました。しかし1950年代、1960年代には、私どもの国では施設収容でない養護施策がとられ、児童福祉施設の閉鎖が始まりました。そして1962年までに、その逆の状態が実現しました。すなわちすべての養護児童の69%が里親家庭におり、31%のみが施設におりました。この脱施設化の施策には、大体二つの理由がありました。ある場合において、公私の児童福祉施設は経済的負担のコストが高くなっていましたし、またある場合においては、施設は適切な養護を供与していなかったのです。里親家庭養護は児童福祉施設養護より割安な方策としてみられ、そこで脱施設化方策が始められたのです。
 1970年代には脱施設化の里親家庭養護への影響は、だんだんと特別なニーズをもつ児童、すなわち情緒障害児や身体障害児、長期に、無期限になりそうな児童の里親委託養護の増加がみえてきました。里親家庭養護は20年のうちに、実父母の家庭から離された米国の子どもを養護するための主要な国の資源となりました。
 脱施設化のこの施策は、里親家庭養護に実質的影響をもちつづけることに殆んど疑があり得ません。里親養護に措置された子どもは、もし里親が特別な知識や訓練を与えられなかったなら、里父母の手にはおえないさまざまな種類の問題をあらわすのでありましょうし、現に現わしてもいます。4つの州、南ダコタ、テキサス、アリゾナ、ミネソタでは、里親には訓練を必要とするという法律を制定しました。そしてアイダホ、ペンシルバニア、ウィスコンシンでは里親訓練のための立派な種々の努力をしました。全米里親会の全国的ならびに地域的会議では里親とソーシャルワーカーのための意義ある訓練の機会を毎年提供してきております。しかし里親家庭を強くするためにはもっとより以上に必要なことがされなければなりません。
 環境やサービスの方法を選択することもなく、里親養護のソーシャルワーカーのケース担当量は極めて多く、しばしば里子への個人的配慮を極端に困難にしています。「親を必要とする子どもへの全国委員会」は、75〜90のケース担当数は、国の定めた基準をこえていることを指摘しています。国の定めたものは米国児童福祉協会によって推進されたワーカー1名につき20〜30ケースという基準よりずっと多いのですが。
 遙かにあまりにも多くの点で、われわれの国の里親とソーシャルワーカーは、彼等が定めたものでもなく、広汎に統制をするでもない児童擁護のシステムのために非常な重荷をともに負っています。その児童養護のシステムは里親養護の統制や計画では全く解決できないような問題を解決しないということでしばしば批判されるところのものです。
 第三の関心事は、米国の児童とその家庭のために、広汎な国の政策が欠けていることに対してであります。児童に対する施策はあまりにも屡々企画のちぐはぐな補綴細工でありました。そして全くしばしば児童福祉企画は州段階でも国段階でも低位におかれてきました。
 多くの点で、国策のなかでは児童のための弁護者があまりにも少なかったのです。丁度4年前の第94議会で、上院議員100人の僅か10人が、そして下院の435議員の112人が、終始一貫して児童への関心に票を入れたのでありました。
 しかしその時以来、われわれは里子の必要について公的立場にある人々の自覚を求めることに焦点をおくことを強化するようにしてきました。1979年の社会事業と児童福祉の改正、すなわち里親制度と養子縁組法の第一の重要な部分はこの10年に議会によって考察される筈であります。
 この法律は、長期にわたり企画性のない里親養護への傾向を阻止するために、広汎な領域のコミュニティサービスを供与することによって実親家庭との接触を保つことに強調点をおくことになっています。この法律はまた10万人以上の、親から忘れさられた子どもたち、そして身体的または情緒的機能障害をもつこどもたちのために永久の家庭をあたえるべく養子縁組に補助金を与えることになっています。
 最終の分析において私どもがしようと企てていることは、児童のための米国の政策的組織を作ることであります。子どもは社会の最も力のないメンバーです。それ故に社会は児童への関心をもって行動しなければなりません。
 アレクサンダーは申しました。「子どものとき立派に育てられなかった人で立派に成功している人はほとんどない」と。私は、7才の男の子、ベンジャミン・イートンがわが国の里子となった1636年以来、里親がなし続けてきたように、わが国10数萬の里親はその役割をなすべく努力し貢献をなしつづけるであろうことを私は信じております。と同時に私は日本の里親さんが、日本里親会の努力を通して、日本の子どものための養護の役割をなしつづけられるであろうことを信じております。
 ご静聴を感謝いたします。








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