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1977年 第7回全米里親会大会
      第1回国際会議
  4月21日〜24日 ニューヨーク州ニューヨーク
 
1. 会議は、ニューヨーク市ヒルトンホテルを会場として開催され今回の大会から「里親養育に関する国際会議」が併行開催されることとなりました。この背景としては、今日の経済社会の著しい変動機を迎え、弱い立場にある子供の幸福と福祉を守り、里親養育の重要性を考えるとき、一つの国の中の問題としてでなく、世界共通の大きな課題として国際的レベルで、これらの諸問題を真剣に検討が行われなければならないという趣旨であります。
 参加国は、アメリカのほか、カナダ、イギリス、オーストラリア及び日本でありました。
 日本からは、関東甲信越地区代表伊藤博氏、東北地区代表鈴木一郎氏、北海道地区代表笹村貞雄氏ほか他府県からの参加者約30名で、代表団としては他国に比し多数で、幾つかの分科会においても大いに意見が述べられました。
 
2. 開会式 4月21日(木) 午前8時〜11時
(1)開会宣言
 カレン、バチール女史(MRS. Karen Bachiel)
(2)祈濤
(3)国歌斉唱
(4)祝辞
 ニューヨーク州副知事、メアリ、アン、クルプサク女史 (Mrs. Mary Ann Krupsak)
(5)出席者の紹介
 日本、英国、オーストラリア、カナダからの代表。
 特に日本からの大デリゲーションに対して盛大な歓迎の拍手がありました
(6)歓迎の挨拶
 ジョセフ、ピサーニ上院議員(Senator. Joseph Pisani)
 
3. 第1回国際会議―国際分科会 23日 午前9時〜11時45分
 第1回国際会議は、国際分科会と同時併行して運営されました。
 司会者 アメリカ里親会会長ディヴィッドエヴァンス氏
 参加者 日本以下5ヶ国の里親及び里親養育関係者
 討議内容
(1)被虐待児の増加とこれに対する方策
 日本では2000年代からの被虐待児が急激に増加してきておりますが、アメリカでは、1977年時点で大きな問題となっていることが判ります。アメリカでは年間約4000人の児童が殺され、約90000人の子供が虐待をうけているとの報告があります。
(2)里親の確保策
 養育の動機には金銭的の問題がないとは言えないのではないか等の問題点があります。(アメリカ、イギリス)
(3)人権問題、文化の差別の問題
(4)脱施設化の現状(1977年現在)
 アメリカで養護施設13%、里親家庭87%と脱施設化が実現されてきています。1923年には施設64%里親養育36%に比べると急激に脱施設化が進んでいるといえます。
(5)その他の問題点
ア.行政指導のかかわり問題
イ.措置費、委託費問題
ウ.「里子」の呼称問題
 実の姓を使用しているのが一般ですが、実の姓と養親の姓をハイホンでつないで使うこともあります。
エ.里子措置期間の延長
 アメリカでは21歳まで州によって延長可能であります。
オ.短期里親制度の推進問題
(6)各国の実情の紹介
ア.イギリス
 民間の関係者、ソーシャルワーカの里親養育に対する参加の不足、公的機関のみに依頼する体制に対する不満
イ.カナダ
 未組織の民間里親会の解消、里親の表彰制度の採用
ウ.オーストラリア
 養育費について
 障害児里子に対する加算制度の改善
 里親手当は週給平均20ドル(アメリカが月額幼児で160〜180ドル、高校生で200ドル)
(7)分科会の一つの結論として国際里親勧告委員会(International advisery council of foster parents)を設置し、各国から委員を選定し、各国の里親制度の情報交換を行い、相互の制度の進展を促進して行きたいとし、その議長を日本が担当することとなりました。
 
4. 全米里親会会長エヴァンス氏が、1975年12月アメリカ合衆国議会委員会に陳述した内容が披露されましたが、アメリカにおける里親制度の現状を、聴聞に答えて家庭の意味、親の存在とその機能について述べられていますので全文を掲載します。
 「議長並びに委員の皆さん、私はデイビット・T・エヴァンスです。全米里親会の会長であります。私が今日ここに出席させていただきましたのは、全国百万の3分の1の里子の利益を代表する団体の役員として、また憂いている父親の1人としてであります。実の父親として、里親として、養父として、また、保護者として、私は子供達の当然の要求と権利、養育の質、里子に対する国家のサービスの現状と将来に、多大の関心を持っている者であります。
 全米里親会は、里親、ソシャル・ワーカー、その他の児童養護に関係する者を結集したユニークな団体であります。1971年に創設された当会は、35万余の里子に里親家庭を与えつつ活動している人達の唯一無二の全国的な団体であります。
 里親養育の問題は、本委員会並びに議会が注意を払うに値する重大かつ複雑な問題であります。私達の社会は余りにも多くのことを約束、実行は余りにも少な過ぎる傾向があるようですが、これは病める社会の一面でもありましょう。ところが、不幸にも里子に関しては、これがまた、社会は少し約束するが、実行することは全くないといってよいと思われるのであります。今日、私達国民の指導者たちの中で、自然保護、天然資源の保存を力説する人は多いようです。しかし、最も危機に瀕しているのは、実は人間の子供達ではないでしょうか。
 私が本日ここであなた方に訴え、共に考えたいことは次に述べる三つの大きな里親養育上の問題であります。それは里親養育を受けている子供達だけでなく、一般家庭、里親家庭にも大きな影響を与える問題であり、今日の社会に対する重大なチャレンジなのであります。
 第1は、里親養育を受ける児童の数が増加しつつあるという事実です。青少年児童のうち百万人の3分の1以上の者が、母親家庭、グループホーム、あるいは施設のもとで、養育されており、その数は増大の一途をたどっているのであります。しかしながら、この数字は、決して現実の問題の大きさを、換言するならば、アメリカの家庭の劣悪化を、そのまま示しているものではないかということです。私がここで指摘したいことは、里親養育を受けるべき子供達の数、すなわち潜在的里子の数が急激に増加しているという現状についてであります。里親養育が必要なのはこのような社会経済的な圧力を受け易い家庭の子供なのです。
 しかし、これは別に新しい問題というべきものではありません。両親を欠き、家なき子の問題はアメリカの歴史とともにある問題であります。ジェームスタウンにコロニーが開設されて30年後の1636年にはベンジャミン・イートンという7才の児童がはじめて里子になったと記録されていますが、以来、かなりの数のアメリカ人児童が里親養育を必要としました。このニードは、子供を養い育てることができない両親や家族が存在する限り続くものであります。
 あなた方の中には養育コストを心配される人も多いことと存じます。私自身、そのことを十分知っており、あなた方とともに懸念をもつ者ですが、私の第一の関心は何といっても児童にあるのであります。私は、アメリカの個々の家庭にしろ、地域社会にしろ、子供を里親養育に出さねばならないような事態から完全に解放されてはいないということを指摘したいと思います。そして真の正しい表現をしますと、社会の子供1人1人が潜在的里子であるといってもよいと思います。里親養育の対象となる子供達の流れをせき止めるとするならば、初期の段階で、危機に真面している家庭にタイムリーよく介入し援助の手を差し延べることによって、家庭から子供達が不必要に離別させられるのを防がなければなりません。一方私達は、このような児童を受け入れる里親家庭の拡充に努力しなければなりません。もし私達に相応な資力と援助が支えられるならば、現在里親養育を受けている児童4人につき、さらに2人分の追加養育が可能であろうと思われます。
 第2の問題。それは里親養育の中に「閉ざされる」子供が増えているということであります。社会はその怠慢によって「忘却の辺土にある児童集団」を生みだしており、彼等が養子縁組をすることや生家に帰還する機会は事実上皆無に等しいのであります。10万人から20万人の里子、すなわち全体の50〜80パーセントにあたる里子はどこにも行くところがなく、彼等は長期あるいは無期限の里親養育にとどまることになりそうだということです。
 ある面では、里親養育は、生家から見離された児童に対しての広大なしかし隠れたダンプ集積場になっているといえましょう。私の考えでは、里親養育が永続しないということほど里親家庭にある子供に影響を与える問題はないと思うのであります。私達は俗に里子のことを「アメリカの忘れられた少数派」と呼び、彼等は投票権もない声なき市民であるといってまいりました。しかし私は、全米里親会の会長として、また2人の長期里子の里父として彼等は声なき市民ではない、ということを明言したいと思います。彼等は里親養育がなかったとしたらどうなるかの情況を知っています。また、何時どうして、里親養育から離れることができるかを知りたいと思っています。従って児童の保護者として、私達は、長期里親養育の不安定さから児童を解放するために責任ある方途を探りつつ、責任ある里親養育の効果的システムを常に維持していかなければならないのであります。
 第3の問題。過去10年間に里親養育に入ってきた児童の質が大きく変化したということであります。従来は、里親養育とは実家以外の家庭における一時的養育であって、里子は実家に戻るのが常だったのであります。しかし今日では、里親養育を受けにきた子供の中に、身体的・精神的問題を背負った児童・虐待放任された児童たちの数が増えてきたのであります。里親養育中の児童の約46パーセントが、親の放任、虐待、酷使等の理由を持っているとみられます。事実としては、アメリカの里親は虐待を受けた児童、放任された児童の管理人となっています。推定によれば、毎年4千人もの子供が実の親兄弟によって殺害され、9万人の子供が虐待され、何百万人の子供が放任されているということです。
 このように児童が変化したという問題ほど里親養育の性質を大きく変えてき、里親家庭に大きな影響を与えた問題はありません。虐待されたり、放任されたりした児童、身体的精神的問題を背負っている児童には、当然特別な保護と理解を要します。これらの児童が抱える問題は、専門知識を持たない者の能力の範囲を越ることが多いのです。全米里親会はこれまで5回に亘って全国大会を開催して、教育と専門知識を里親やソシャルワーカーに与え、彼等の能力を伸ばすよう努めてきました。1973年には、全米里親会として里親の教育訓練に関する基本的立場を明確にするため声明を採択し、里親になる前の教育訓練を義務づけるよう呼びかけました。このような教育訓練のプログラムはこれまで幾つかの州で開発されましたが、全里親の10ないし15パーセントしかこの訓練には参加していないのが実情であります。里親が、幾多の問題を背負っている児童の特殊なニードに応えていかなければならないのであれば、私達は相応な訓練と対応する技術を持たなければならないということになります。
 最後に、私は里親養育児童に関連して申し添えたいことがあります。それはポール・モットの言葉を借りるなら、「里親養育の戸口の上り段」に残された児童についてです。彼等は最早私達の家の戸口の上り段には残ってはいません。全米16万の里親家庭の心とホームにおります。彼等は基本的には善い児童なのですが、成長の過程で悪い方向に傾いてしまったのであります。こういう児童のもつニードと権利もまた、全米里親会の関心事なのであります。
 議会と国は、里子の権利とニードをさらに一層重要視すべきだと思います。過去において、児童のニードに関しては、俗に雄弁さをもって取り上げられてきました。1930年、政府は児童憲章を採択し、人種、肌の色、社会的地位の違いに関係なく、児童のため19の目標を掲げました。1951年には、国際連合の総会において感動的な文書―人類はその子供に対し最上のものを与えなければならない義務を負っていることを高らかに謳いあげた「児童の権利宣言」―を採択しました。1970年12月には、児童に関する白亜館会議で「70年代の児童憲章」が再び児童の権利と未だ満されぬニードに対し世間の注意を喚起させました。そして最近では1973年フィラデルフィア議事堂で「里子権利宣言」が採択され、里子の福祉に対する社会と両親の責任を確認したのであります。全米里親会は、このような歴史的宣言に参加しましたが、今日その実施に参加し担当したいと希望しているところであります。
 ジョン・ケネディはかつて「成功には多くの父がいる。失敗は俗に孤児である」といいました。私がここに参上しましたのは、あなた方が当会の為に何かをして欲しいということを陳情するためではなく、里子の幸福な生活を保障するため、里子達に対しあなた方と私達が協力して何をすることができるかを問うためなのであります。」
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4月22日 第7回全米里親会大会開会式における
日本里親会理事長挨拶
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同日、大会開会式壇上における
アメリカ里親会会長と日本里親会理事長
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4月25日 ディズニーランド観光の代表団、
カリィフォルニア アナハイムにて








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