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∞∞意見交換∞∞
■寺山: これで4人の方々に具体的な今後のあるべき姿とか、実際にこうやっているんだということのお話をいただきました。皆さまのそれぞれの地域での今後の何かの参考になればと考えております。
 4人のシンポジストから提言をいただきましたが、それぞれの立場で意見の交換をお願いしたいと思います。時間は僅かしかありませんので、私の方からシンポジストの方々に質問をさせていただくという形で進めていきたいと思います。
 討議の進め方については、10頁にあるとおり、意見交換のテーマによって進めます。一つには里親の専門性の向上について。二つには里親の支援体制について。三つには里親のあり方についてです。
 ご存じのとおり、里親自身の価値観の相違や、社会の目まぐるしい変化による子どもたちを取り巻く環境の問題もありますし、子ども養育の低下というか、そういう母親の問題などいろいろな問題があります。私たちの手元にまいります子どもたちもそれぞれ心のキズをもっているわけです。そういうことで、これから4人の方々にそういう問題等についてご質問させていただきます。
 まず西川さんに伺いますが、子育てに不安を感じている里親さんもいると考えます。里親自身の子育ての不安はどのようなものがあるか。またどのぐらいの里親が不安を感じていると思うか、大変難しい問題ですが、何か統計等がありましたらお話いただきたいと思います。
■西川: 里親養育における子育て上の不安、それからその数量についてのお尋ねでありますが、これは残念ながら公式な調査統計というものがありません。一部民間とか狭い地域の中だけ、というような推定では出てくるわけですが。
 しかし、ちょっとはずれるかもしれませんが、公式のデータをもとにして、里親家庭に委託されている子どもたちの傾向として、いま大場所長さんのほうからお話がありましたように、40いくつのケースを事細かに掘り下げてみれば、およそ100%に近い被虐のケースではなかろうかというお話がありました。5年ごとに厚生労働省が行っている調査の中で、やはり似たようなものがあります。
 積極的な保護者による加虐というケースが約1割あります。それから今回の虐待防止法、この定義の中できちっとおさまるようなケースが、そういった範囲で考えれば4割、あるいはもうちょっと広げて、例えば子どもを置きっぱなしにして親がどこかへ行ってしまった、家出・失踪・行方不明、こういったものも私はやはり虐待だろうというふうに考えていますので、こういったものを含めるとなると6割。ところがこの統計というのは、あくまで主訴、ひとつだけの理由を挙げなさいといった場合には6割であると。2つとか3つとか、選択をするならば、大場所長さんのお話のとおりになるのではなかろうかと思います。
 ですから、そういった状況の中で、我々里親たちが養育の中でどうしても里親の心の中で理解し難いなといったようなところから、やはり子育ての不安というのは里親特有の形で起こってくるだろうと思います。
 また里親関係における不安。まず絶対に一番に挙げなければいけないのは、子どもの自立の問題です。子どもの自立に関して、特に障害を持った子どもたちの里親委託というのは、全国平均で約1割あります。
 里親になる平均的な年代というのは大体40で、措置解除まで18年ありますから、プラス20で、だいたい60は過ぎてしまう。そういったところで障害のあるお子さんを委託した里親さんなどは、自分たちの老後、この子どもたちは一体どうなってしまうのだろうかといった不安は、これは切実なものがあるだろうと私は感じます。
 また最近耳にするところですが、国籍のない子どもたち。こういう子どもたちを委託している里親さんもいるわけです。平成11年の千葉地方裁判所の判決で、特別養子にするから何とか国籍を作って欲しいというふうに訴えたわけですが、里親が敗訴、負けたというようなケースもあります。
 このような、非常に難しいケースのなかで、やはり里親というのはいろいろな不安を感じていくのだろうなと、このように思います。
■寺山: どうもありがとうございました。
 先ほど西川さんから貴重なデータをいろいろ発表していただきました。委託児童数が平成元年と平成11年では、10年間で千人減少していると。千人も減っているという話がありました。いま釧路児童相談所長の大場さんから地区の会長さんが大変熱心に里親を増やすための努力をされている話をお聞きいたしました。
 そして数字的に、素晴らしい、子どもの幸せの為に活躍されているというようなお話でありました。このように全国的に里親の委託児童が減少しているが、このことについてどう考えるか。児童養護施設への措置、里親へ委託という点から、何かお話していただければなと思います。大変難しい問題ですが、よろしくお願いいたします。
■大場: 先ほど申し上げましたが、里親さんにお願いするということを考えたときに、里親さんの家庭の状況、現在の状況をきちっと把握していないとなかなかお願いすることが難しいだろう。そういうことで年に1度は最低でもお訪ねしてお話を聞くということで、相談所の職員と里親さんが顔見知りになっていくということが、お願いをしやすい環境を作っていくのかな。お互いに顔見知りであれば安心感がやはり違うのではないのか、そういうことが一つの手がかりになるのかなと、逆な言い方をすると、私どもにとってみれば利用のしやすい、お願いのしやすい里親さんにどうしても声をかけやすくなるということがあります。
 そういう意味では、家庭事情とかいろいろ大変なことがあるけれども、名前だけ里親さんになったのではなくて、そういう子どもをいろいろな形で養育してみたいという意思を何とか実現できるような方向で、進めていければというふうに思っております。
 私自身の地域的な問題があって、児童養護施設を利用しにくいということと、虐待なら虐待を受けた子どもたちの家族の再構築ということを考えたときに、あまり出身地から離していくことは、家庭との調整もなかなか難しいということが現実的にはあるわけです。そういうものを踏まえたときに是非地元の中で、積極的にご理解を得るような形をしながら進めていきたい。ただ釧路の児童相談所の養護相談の中では、兄弟が非常に多いケースがあります。7人兄弟か2回来たということがあります。7人兄弟ですと7人の方を1人の里親さんにお願いするということは現実的には難しい。そこで児童養護施設を考えなければならないわけですが、児童養護施設も7名の欠員があるような施設は、年度初めでない限りはほとんどありません。
 そういうことで年齢とか、子どもの持っている諸事情や里親さんの家庭状況も踏まえて、私どもとしては養護施設、里親委託、両方を睨みながら検討していくということで、里親さんの方からも「うちに子どもが来ないんですか」、というようなことを、是非相談所のほうに話をかけていただければ有り難いなと思っています。
■寺山: ありがとうございました。行政が大場所長さんのように、熱心になされれば、里親の数もやはり増えていくのではないだろうかなと。(拍手)地域の方々にも里親制度というものを大きく理解してもらえるのではないかなということを考えました。一つここで私たちも地元に帰ったら、何とか子どもたちの幸せの為に、せめて平成元年の千人減った分を取り戻すような努力をしていけないものかと、そのようなことをお聞きしていて感じました。
 目まぐるしい社会の変化によって、虐待児童等の問題が出てきており、先ほど関戸さんのお話にもありましたが、専門性を持った里親を育てるということが急務ではなかろうか、というようなことがありました。そこで関戸さんに伺いますが、専門里親制度の基準というか、考え方について。また方向性などについてこれからこ検討されるということでありますが、ここで洩らしていただく範囲でお話いただければ有り難いんですが。
■関戸: いま司会者がおっしゃったように、専門里親というものが専門里親制度というふうになりますと、組織の中が割れてしまうような感じもするということで、いまこの呼び名も先程厚生労働省の方が言われましたように、専門里親というのか、あるいはどういうふうな形の呼び名をするのかということを、今論議をしているところでありますし、養育マニュアルというものが今後つくられますが、養育をするいろいろなものが、まだ示されていない。まだ審議が2度行われて、3回目が今月の12日に行われるわけです。一応どのような形でいくのか。外国の例等も提示されたら、おそらくそれを参考にしながらやっていかなければならないかなと思っております。
 専門性というような問題と里親さんに対する養育を必要とする児童の数が少ないということですが、施設は一杯です。児童福祉法にその施設長が子どもさんの養育を里親さんにして貰ったほうがいいと感じたならば、所管の児童相談所と相談をしながら、里親さんのほうへ回すんだというような意味のものが謌われております。今の法律の枠内で十分、相談所長さん等が、意欲があれば促進が出来るのだというふうに思っております。
 養育委託児童が非常に少ないというけれども、今度の専門里親は、虐待を受けた、心の傷を受けた子どもさんを預かるということで、果たしてこれを里親会の皆さんがすんなり受け入れられるのかどうかということが非常に難しいところであります。愛情の豊富な家庭がいいということで、そうした心の傷の深い虐待児というハンコを押された子どもが里親さんに引き取られて養育を受けるということが、果たして出来るのかどうか。今審議中ですが非常に心配しております。
 そうした中で、15人の委員の中に4名の里親さんを入れてもらい、その中で女性が2人入りました。これは女性の方が子どもの面倒をみるということが多いと思うので、そうしたことも踏まえ、女性の声を反映させるということで行っております。
 専門里親には専門的な教育というものが必要であると先程厚生労働省が話されましたように、初級・上級というような考え方だと思います。厚生労働省もこれからそうした研修会を行うということを、今日言われました。里親さんに最初の登録をしたときから、基礎的な知識を学ぶような指導、あるいはこれからの専門里親、これは来年度から全国的に行われることになると思いますが、一応研修を受けてもらうということが基礎になります。
 専門里親という役割でありますから、いまの里親さんの手当の28,000円。これでは到底出来得ないということで、厚生労働省が新聞等に発表したのが、93,000円というような数字が出ています。外国では大体9万円か93,000円ぐらい払っているということです。やはり財政的な面である程度カバーしてもらわないと、いくらボランティア的な立場であるとしてもやっていけないと思っております。今の里親手当ももっと上げていただいて、そして虐待児童に対する段階も5段階ぐらいには分けられるのではないか。これは私の考えですが。
 そうした中で加算制度ということで、一番重度の障害児を預かっていただくときには、一番上の段階の手当ということで、5段階ぐらいにする必要があるだろう。将来、障害児手当というものを設けなければならないということが、目の前にありますから、やはりそういうことを考えると今度の専門里親に対する手当の問題、すなわち障害児手当の問題と一応並行していくのではないかということを、私は思っております。数字的な問題については、いま審議中ですから私が考えているようなことをあまり先走って申し上げることは出来ないけれども、そうした外国の例とかあるいは厚生労働省が発表した数字とかを見ながら議論していきたいと思っております。私は委託児童が少ないから、急に今度は虐待児童というふうなことについては、非常に心配をしている一人であります。やはり厚生労働省もその家庭というものが必要なんだと。その中で虐待児を早く立ち直させるんだと。元家庭のほうの親御さんたちもケアをして立ち直ってもらって、2年ぐらいを目処にとりあえず双方をケアする。
 それから専門的な里親家庭に対しては、専門の医者とかケアする方々のチームによって指導・支援をしていく。後方的な支援、家庭的なグループの支援ということが、これから行われるであろうと思います。先程も言われておりましたが、里親さんも休暇が必要だと。365日子どもさんにずっと付いているということは大変だから、休むときには同じ里親さんに預かっていただいて、その手当といったものも検討しなければいけないということも論点にあります。
 今度の専門里親という問題とも併せて、里親制度というものを議論をしていただくように、私どもは一生懸命頑張っているところです。
■寺山: 研修というのは、与えられてするものではない、こちらから求めてするものだと、私たち里親は考えを改めなければならないのではないかと思います。
 先ほど大場所長さんから、多かれ少なかれほとんどの子どもが虐待的な心にキズを持っているというお話もありました。そういうことであれば、専門里親が出来る前に、私たち個々の里親も児童相談所の先生方に研修を求めて、そういうお話の機会等も持っていただければということも考えたわけです。
 ここで里親さんの支援の問題ですが、里親になった、子どもを養育するようになった、委託されたというときに、子どもの養育の問題について何か疑問を感じ、困ったことがあるという場合に、隣の里親さんにその実情を話して、意見を求めるとか、あるいは児童相談所に行って指導を受けるというようなことになるわけですが、あまりそれが頻繁になると、自分は里親として向いていないのではないかというような孤独感、そういうものも感じられるのではないかと思うわけです。
 それから養子縁組をした子どものことを考えると、あまりその子どもの過去の問題をみんなに知って欲しくないということがあるために、会合等にも出ないようにするというような孤立化した里親さんがいるのではないかと思います。
 札幌の里親会でおしゃべりの会というようなものを持っているということですが、このような孤立した里親さんに対しての支援対策、いかかがでしょうか。
■田中: 先ほど私たちは事務局という里親会の拠り所が出来たと、これはいろいろな意味で活動に幅が出来たと申し上げました。指導機関としての児童相談所の役割、それから里親会としての役割。児童相談所がやはり理論的、技術的ということになれば、里親会は同じ仲間意識でしょうか。
 先ほど紹介したように、グループ研修としておしゃべり会。初めて子どもを引き取った里親さんは初めてですから経験も浅く不安がいっぱいです。そういう子どもを預かったお母さんが集まって、月1回話し合う。そうするとやはりいろいろな意味で安心感ができ、そしてお互いに理解し合えるし、いろいろな情報交換ができる。
 また、中高生の親の会というのが、この春から動きだしたと先ほど申しましたように、いろいろな思春期の問題をひっくるめて、いずれ大きな問題になるかと思います。そのとき、単に児童相談所だけでは解決できない。経験豊かな里親も入っていただくことで悩みを溜めないというか、そういうことが里親として子どもを育てるには、幅が出るのではないかと受け止めております。
 先ほどの、おしゃべり会というのは、養縁の親で当初出発しました。大抵養縁里親さんは子どもさんが来ると、すぐ退会してしまうという例が多いんですが、逆にグループ研修に入ってきたために、里親が育っていく。いずれ自分の子どもが将来中高生になったとき、同じ問題を抱えるのではないかということで、逆に退会をしないで残る。そういうことが出てきたので、私たち若手の里親たちに大きな期待を持っております。
 そのようなことで、安心する場というものが非常に大事ではないか。それがいろいろな意味での子育てに役立つのではないかと受け止めています。
■寺山: こういうおしゃべりの会も、札幌市のような町だから比較的同じ年代のお子さんを委託して、集まりやすいし、集まる場所もあるということで、都市型の形かなと思いますが、それぞれの地域で工夫をして、3人でも4人でも集まって孤立化しないようにもっていかなければならないと思います。
 ここで会場の皆さま方からご質問、ご意見等をいただいて、シンポジストの方々と意見の交換をしたいと思います。
 時間が迫ってまいりますので、ひとつのテーマお一人というような形で進めていきたいと思います。
 まず1の問題について、どなたかご質問ございませんでしょうか。恐れ入りますが、所属名とどなたに質問かを最初におっしゃって下さい。
■星野(神奈川県): 1と2にちょっと繋がっているかと思いますが、この専門里親の制度がいよいよ始まるということで期待していますし、またその中で研修ということが取り込まれているようなので、私も大いに期待しているところであります。
 ただ里親というのは、しょせん里親であって、専門心理学とかそういったことを深く勉強したわけではありませんし、そういう意味では素人の域を出ないところがあると思うので、それを行政の方からカバーしていただく必要があろうかと思います。
 そこで要望したいことは、子どもが単に虐待されたからあとは宜しくという形で里親さんに預けるのではなくて、この子どもがこういう経緯を踏まえていて、こういう精神状態にあるよと。あるいはこういう心理的な状態にあるよという、そういうケアをしてから、里親さんに預けていただきたい。
 また里親に預けた後も1年に1回か2回ぐらいは、専門的な診断してもらいたい。その場合に児童相談所は職員に限りがあるので、外部の専門家、小児医療の先生とか心理学者とか、そういった方の応援も得て進めていただきたいと。研修だけでは、本当の専門里親にはなりきれないのではないかと思います。
■寺山: 関戸さん、この点について何かありますでしょうか。
■関戸: 今申しましたように、今研究している養育マニュアルというようなものは、里親制度、専門里親とは、あるいは里親を取り巻く社会資源とその活用、それから子どもとの権利、守秘義務だとか、子どもとの交わり、里親家庭とか、実親との交わり、虐待児の理解、それから被虐待児への対応、その他の問題に出会ったときどうするか。そうしたものを中心に養育マニュアルを作っていこうということです。
 従って、その研修が非常に大切だし、今専門的な心理学者等の話しがありましたが、これからは里親さんばかりが一人で抱えるのではなくて、やはりその家庭に対する支援体制というものを確立するということで、専門的な体制を作ってバックアップしよう、ということを現在検討しております。そう遠くなく一つの資料として出来上がるということをご報告申し上げます。
■寺山: 関戸先生には委員として今のお考え等も反映していただけるのではないかと考えますので、よろしくお願いいたします。
■上間(沖縄県里親会会長): 里親制度に山積している問題の中で、どうしてもクリアしたいのは、養護施設に預けられている子どもが9割で、たった1割しか里親に委託されていないという現状はどうしても打破していかなければいけないということです。
 里親制度というのは、里子の制度です。先進諸国の現状とあまりにも違いがある。終戦後孤児院といわれたころの、この子もお願い、あの子もお願いといっぱい連れてきた、あの状況から55年、飽食の時代が続いていて、なに一つ里親制度は進展していない。里子問題というのは、決して里親会の問題だけではないのです。
 国の問題、行政の問題、県の問題であり、強引にいわせていただければ全国民の問題だと思います。
 9割の子どもたちが布団を被って施設で泣いている姿を思い起こしましょう。これを私たちは深く受け止めていかなければいけないと思います。
 その中で里親制度をもう一つ掘り下げて、本当に関わっていただきたい。努力していただきたい。大場さんのような方をもし出来るなら沖縄にトレードしたいなと思います。
■寺山: ありがとうございました。里親制度は子どものためにあるということを、ともすれば忘れがちかなと、私自身もそう思っておりました。どなたか先生方でこの里親制度の問題についてお話していただく方、ありませんか。
■関戸: いま沖縄の会長さんがいわれましたように、施設はいま一杯です。それから里親さんの方はまだ子どもさんを待っている、委託を待っている方が一杯なんです。7,400人ほどの里親さんの中でどの程度子どもさんの委託を待っているのか。あるいはその中に養子縁組をどの程度希望されているのか、いま私どもが調査をしているところです。
 我々が国会議員とか、そうしたところに足を向け始めたのが今年です。自ら里親会そのものをまず見直して、姿勢を正し、我々はもっともっと勉強しなければならないというふうなことを主張しながら、厚生労働省ならびに国会の方に働きかけて。施設が一杯になってしまったから、今度は里親さんへ来るの?というのではなくて、もっとスムーズに里親さんに委託出来るようにならないかと思うんですが、やはり相談所から、いろいろなことを聞きますと、里親さんは都合が悪ければ、返す場合があるというふうなことが、非常に里親としてのマイナスになっているわけです。施設ではそういうことはないのだということを言われると、やはり里親そのものももっと勉強しなければならないと思います。
 それからどうして委託が進まないのか、というようなことを聞くわけですが、北海道のように6百数十人の会員の中で、約45%、280人ぐらいの委託児童がいるという、そういう素晴らしい所もある。それはリーダーもいいだろうし、そこの相談所長さんもいいからどんどん委託できるわけです。全国の里親さんたちが立ち上がって、粘り強く組織を強くして、そして訴えていくということ。そして施設にいる育てやすい子どもさんをまず里親さんに預けていただく、というふうなことを訴えながら。
 ボランティアでばかりでは子どもは育たないのだから、やはり国会議員の先生方も一緒に検討していただいて、里親制度の見直しをして、里親の手に子どもが一人でも多く養育できるようにやって欲しいというふうに、今年からそのような活動を始めたところですので、今後皆さんのご協力をお願いしながら、今のような要望に応えられるような形の中で進めて行きたいと思っています。
■寺山: 神奈川県から沖縄に飛びました。日本列島の中間点の大阪さん、いかがでしょうか。この支援体制という問題について、何かお話ありませんでしょうか。
■宮川(大阪市の里親会): 札幌市の副会長さんからは、自主的に里親会がいろいろな方面に実際的、具体的な関係をもって進めているというお話を聞きました。また釧路の所長さんから、ご熱心なお話があって、私もこれだけ里親会の活動を把握して、そして支援している児童相談所長さんが全国にどれだけいるだろうかと思っておりました。
 それはさておき、私どもの大阪市里親会も自主的に運営しているつもりですが、欠けているところが多々あります。課題は札幌でのお話のように、特に皆さん誰でも思っている古くて新しい問題で、いろいろな機会にこういう場所で話されるPR不足のことです。地域の人たちになかなか認識してもらえない、里親制度が広がらないと。その点について、私ども大変苦労をしております。
 数年前の40周年大会のときには、市内の主任児童委員さん、2百何十人お呼びをして出席いただいたんですが、その中から幸いに一組のご夫婦が里親になりたいと言ってなっていただき、今日も一緒に参加してくれています。児童・民生委員さん、主任児童委員さん、さらには学校の先生方も里親制度について非常に認識が低い。学校へ子どもたちが行っておりましても、いろいろな場面で戸惑うと、対応に困るというような話も聞きます。札幌では、そのきっかけ、主任児童委員さんなどとどのように接触を始められたのか。大阪市でも苦労していますので、その点を教えていただけたらと思います。
 それから先ほども出ましたが、施設からの委託が非常に少ない。10年ほど前は、10対1か11対1かなと思っていましたが、今はもう15対1ぐらいの比率なんですね。そこのところを何とか改善していただきたい。
 今日は朝から出席された厚生労働省の局長さんどうか行政の立場から制度として、主任児童委員さんと里親会との接触を持てる機会をどうか設けていただきたい。私たちも努力しなくてはいけないことは重々分かっておりますが、行政の立場から進めていただきたいと思っております。
■寺山: 田中さん、お願いしたいと思います。
■田中: 札幌市でも当初、私たちがやったときは里親促進事業というのは、毎年予算がついているから、予算消化みたいな形でなにかそういうのを集まってやるのだということだったんですが、ここ数年、札幌10区の中から、総務主任というんでしょうか、各区3人ぐらいずつ30名出席があります。私たち役員とか、里親の方に積極的に参加していただいて、里親さんから2人ないし3人ぐらいがまずきっかけとして、5分か10分程度話していただく。それをきっかけに、いろいろな話し合いをすることになりました。それが大変理解を深めているようで、その中から私は賛助会員になりますよとかいう形でそういう方が生まれたりしております。
 その方々がまた各地区へ戻って、お話していただく。また賛助会員的なものになっていただくということで、私どもの会長はもう始終それを、民生委員じゃなく、民生児童委員であると、そこを強調して徹底しているところです。
■寺山: ありがとうございました。先ほど大場さんのほうから、やはり民生児童委員会の研修会、集まり等に出かけておられるという話がありましたが、児童相談所の立場から、もう一度その点、何かありましたらお話しいただければと思います。
■大場: 今年の11月30日で、民生委員の任期が切れるということで、12月から、先ほど主任児童委員というお話がありましたが、今まで町村の規模によっては、主任児童委員が一人しかいない町村が結構ありました。今年の12月から主任児童委員が複数配置になります。それで正副会長さんの研修会とか、それぞれ市町村の民生委員の集まりのときに呼んでいただいて、主任児童委員が複数配置になったときに、単に地区割をするというのではなく、里親さんに関わる人、どちらかが関わるというような決め方もあるのじゃないかという話をさせていただきました。
 里親さんというのは、地域の中で子育て支援ということを考えたときに、大きな資源の一つということで、主任児童委員が自分の町に誰が里親なのかということを、知っていくことが必要ではないかと正副会長さんの研修会のときに話をさせていただきました。
 そのことが里親制度の理解にも繋がるでしょうし、子育て支援のための地域で困っている若いお母さん方に対するアドバイス役というようなことも担っていける形になるということで、直接的に民生委員とどう関わるのかというときには、そのような方法もあわせて考えていくということが一番大事なのかなと。
 今、民生児童委員という両方を担っているけれども、児童委員活動の重視ということが、全国の民生委員協議会の中でも大きなテーマになっているということを聞いていますので、里親会と地域の民生委員協議会と接点を持つことをしていくことが、里親制度の振興にも繋がっていくのかなと思っております。
 どこに繋がればいいのかということですが、基本的にはいま民生委員協議会の事務局はほとんど行政が持っている所が多いので、窓口がおそらく里親会と同じになっていく。里親会ということになると児童相談所でしょうけれども、地元の市町村の福祉の窓口と是非、民生委員との接点というようなことをお話していただくことによって、双方の理解が深まっていく一つの手だてになるのではないかと考えております。
■寺山: ここで大阪のほうからご意見をいただきました。やはり里親制度を理解してもらって、里親制度というのは特別なものではなく、子どもの幸せのためであり、特別な組織でもなんでもないということを理解してもらうためには、やはりPRということが大事ではなかろうかということを考えるわけです。
 その点、いまご提案いただきましたが、九州の宮崎県のほうで何かPRの件についての問題点とか、悩みとか、そういうことがありましたら、お願いしたいのですが。
■橘林(宮崎県里親会長): いま宮崎県では会長通信なる小冊子を毎月出しています。里親の資質の向上、そして問題児を抱えたときに、その問題児を放棄するような弱い里親じゃなくて、うたれ強い里親に成長していこうということで、いろいろなテーマを掲げて皆さんの手元に送らせていただいております。
 人は三千万種の命の中で、最高の知性を持っております。徳も持っておるわけであります。そうした素晴らしい慈愛あふれる最高の生命が、いま虐待児童問題で論戦をたたかわせておるわけで、どうしてこういうふうに人はなってしまったんだろうか。これから先、どうなっていくんだろうか。その最前線に立つのが里親ではないか。このような考え方から、そうしたテーマでいろいろな冊子にして毎月送らせていただいて、資質の向上に努めているところですが、これからも努力していきたいと考えております。
■寺山: ありがとうございました。それでは先ほどむこうのほうでお手を挙げられた方、お願いいたします。
■中兼(北海道): 今日のシンポジウムの行政からの支援についてということについて、一つお願いしたいことがあります。それは全国里親会から厚生労働大臣への、要望書の6番。「就職に必要な資格取得のための、就学中の里子については、18歳を超えても就学修了まで公費負担を継続されたい。」、これは就職に必要な資格取得ということは、多分専門学校に在学中だという意味かなというふうにとらえました。私としては、18歳になったらもう働くのが当たり前だ、ということを里子だけに要求するのはちょっとかわいそうだというふうに考えます。
 統計ではないんですが、里子の高校とか大学とかの進学率が、他の子どもに比べて低いような気がしております。今、大学と短大を合わせると確か半分ぐらいの子どもが進学していると思いますが、それは高校を出たら就職するのが当たり前だと。あとは奨学金でという話が先ほどありましたが、奨学金は家計のことと成績も加味されるわけでありまして、奨学金さえあれば、お前自分で行きなさいというのはちょっとかわいそうだと思います。
■寺山: ありがとうございました。北海道の里親さんからのご要望でしたが、全国里親会のほうに要望事項等もありますので、今後解決にむけてご努力いただくようにお願いしたいと思います。その件について何かありますか。
■関戸: いまの18歳を超えて20歳までの延長という問題ですが、これは要望書の中でもおそらく5番目か6番目ぐらいの位置にあるわけです。
 今里親会として何をすべきかというふうなことは、やはり里親制度の見直しであり、その中にある親権というものによって施設へ子どもさんを連れていった段階で、親権は停止すべきであるか。あるいはどこまでがどうなのか。そういうものによってみんな施設のほうがいいんだというふうなことで、里親さんのほうに委託が進まないということでありますから、1、2、3、4というような順序で各ブロックから要望を受けていますけれども、今一体何を求めるべきかということになると法の見直しをすべきだと。
 それから里親さんの中に、もっと若い人たちがいれば、小さい子どもさんも預かれるけれども、里親の年齢が非常にずれがあるというようなところにも問題点がある。我々は委託を促進をしてくれと主張をしても、やはり手当の問題もよく考えないと、今の若い人たちは経済観念が非常に強いわけであり、時代もずいぶん変わっております。
 従って里親手当のアップとか、すぐ実現が出来るようなものを片づけることによって、子どもさんたちが我々の里親のところへ委託が促進されるのではないかというふうなことでやっております。
 18歳から20歳までの問題については、今の状況では法務省の方が難色を示しているということも聞いておりますが、そうした一つの順序を経て、何が必要なのかというものは、1、2と国会議員の方々に対しましては4つの項目に絞ってお願いしております。
 従って今の20歳までの延長というものは、必要であるでしょうけれども、今の現状でやるべきものに絞って運動しているということをご理解願いたいと思います。
■寺山: ありがとうございました。
 全国くまなくご意見を伺いたいと思っておりますが、ここで大分前だと思いますが、山口県の宇部市で大会がありまして、確か会長さんが女性の方だと思いますが、大変気合のこもった、そして私たちに暖かいお迎えをしていただきました。山口県のほうで行政からの支援について、何かありましたらお願いします。
■松田(山口県会長): 山口県では里親会を柱とした子どもすこやかホーム事業が制定され、里親とボランティア家庭、養護施設との3者の交流会の費用の助成など、9月5日に決まったばかりであります。このような行政の取り組みは、他の県でもあるとは聞いておりますが、県の主導で里親会がボランティア家庭の申込み、受付、養護施設からの委託児童の名簿の提出、ホーム親子のマッチング、委託日誌の提出などに関わることになりました。児童相談所におんぶにだっこだったものと違って、自立していかなければならない時期にきたと思いますが、とても不安です。
 大場先生に、ご助言いただければと思います。よろしくお願いいたします。
■寺山: 大場先生、時間がまいりましたので、最後になると思いますが、ひとつよろしくお願いいたします。
■大場: 大変難しい問題をふられたなと思いますが。どういう役割を担っていいのかという、山口県さんが考えているすこやかホーム事業の中身が具体的に分からないので、どういうお話をしたらいいのかなとお聞きをしていたわけですが。
 役割分担というのがまず明確でなければ駄目だと思います。その役割分担と担われる、あるいは期待されることと、出来ることがきちっと整理をされていないと、何か問題があったときには、責任のなすり合いということが出てくるだろうと。いい制度だということで動いているうちはいいんですが、どこかでトラブルが起きたときには、えてして責任のなすり合いということが出てくるような気がしますので、せっかく制度を作ったのであれば、それぞれの部分で誰が責任持つのかということを明確にしていき、そこで問題があったときにどこが受け止めるのか、その窓口を明確にしておく必要があるのではないかと思います。今スタートしたということでしたので、今の時点でそのへんをまず明確にしておくことだと思います。
 また、そこだけで解決することができなければ、次にどこの段階で整理をするのか。苦情があった場合にそれを受ける窓口はどこなのか。そういうことを明確にしておくことが制度をスムーズに進めていくということであり、制度を定着させるという道に繋がるのではないかと思います。
■寺山: まだもの足りない面があるかと思いますが、時間がまいりましたので、ここでシンポジストと会場との意見交換を終わりたいと思います。
 今までの意見交換では、里親は自分たちの資質の向上に大いに努めるべきである。そのためには各里親会の活動を期待するし、会員の孤立化も防がなければならない。各種研修会には積極的に参加をしょうじゃないか。被虐待児童の受け入れに対応するために、専門里親制度というようなことも産声を上げそうである。じっくり見守っていって、もしそうなった場合には我々も大いにそれに協力し、参加をしょうというようなこと。専門性の向上に努めようということ。
 それから行政と一体になってPR活動に努めようということ。また情報の交換ということも必要だというお話もありました。私もちょっと考えるんですが、月刊であろうが旬刊であろうが、里親新聞的なものを発行していただければ、そういうものがあればなというようなことも今つくづく感じているところであります。
 里親制度を理解してもらうということは、子どもたちの幸せに繋がることである。里親制度は当り前のことであるということを全国に広げていかなければならないのではないだろうか。
 それからシンポジストの発表にありましたが、委託児童を10年前の3千名に増やすという数値目標を持とうではありませんか。大いにそういうことも期待したいと思っております。
 皆さんのご意見を十分聞くことが出来ませんでしたが、シンポジストの皆さまのおかげで、どうにか終わらせることが出来ました。
 これをもちまして終了させていただきます。どうもありがとうございました。シンポジストの皆さん、ありがとうございました。








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