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5.4 載荷方法
 各模型とも両端単純支持の2点載荷(4点曲げ)とした(図5.2参照)。載荷は漸増載荷とした。
5.5 計測項目
 計測項目を次に示す。なお、ひび割れ幅は、ひび割れ発生後にクラックゲージを取付て計測した。
 [1] 荷重〜変位関係
 [2] 荷重〜鉄筋ひずみ、鋼板ひずみ関係
 [3] 荷重〜コンクリートひずみ関係
 [4] ひび割れ状況、荷重(鉄筋ひずみ)〜ひび割れ幅関係
5.6 試験結果及び考察
5.6.1 コンクリートの物性試験結果
 模型の作製に使用したコンクリートの圧縮強度、ヤング率を表3.2に示す。なお、本テストピースは模型作製時に採取し、模型と同じ現場養生を行ったものである。
表5.2 コンクリートの圧縮強度、ヤング率
梁模型のケース 圧縮強度
(N/mm2)
ヤング率
(x104N/mm2)
備 考
AP-T1、AP-C1、C2 36.6 1.51 材令42日
N-T1、N-C1 35.2 2.63 材令45日
 
5.6.2 載荷試験結果概要
(1) 正曲げシリーズ(ケースN−T1、AP−T1)
 約35kN(N−T1)、約42kn(AP−T1)でスパン中央付近に初ひび割れ(曲げひび割れ)を生じ、その後荷重を増大していくにつれ、ひび割れが進展あるいはほぼスタッド位置に新たなひび割れを生じ、最終的に77kN(N−T1)、87kN(AP−T1)程度でせん断破壊を生じた。
 
(2) 負曲げシリーズ(N−C1、AP−C1、AP−C2)
 約11kN(N−C1)、約3kN(AP−C1)、約16kN(AP−C2)で、まず中央付近に曲げひび割れを生じた。その後荷重を増大していくにつれ、ひび割れが進展あるいはほぼスタッド位置に新たなひび割れを生じ、約28kN(N−C1)、約29kN(AP−C1)、約31kN(AP−C2)程度でせん断破壊を生じた。
 表5.3に最大荷重、破壊形態をまとめて示す。
 表5.3 各ケースの最大荷重、破壊の状況
ケース 載荷方向 最大荷重
(kN)
破壊形態 圧縮側
鉄筋量
(mm2)
引張側
鉄筋量
(mm2)
せん断
補強筋
(mm2)
AP-T1 正曲げ 86.5 引張鉄筋降伏前にせん断破壊 398 1500 0
N-T1 正曲げ 77.2 せん断破壊 398 1500 0
AP-C1 負曲げ 29.8 引張鉄筋降伏後、せん断破壊 1500 398 0
N-C1 負曲げ 29.0 同上 1500 398 0
AP-C2 負曲げ 30.7 引張鉄筋降伏後、せん断破壊 1500 428 0
 
5.6.3 ひび割れ状況
 各試験体の最終的なひび割れ状況を写真5.1に示す。ひび割れの発生経過は上述のとおりで、正曲げシリーズ、負曲げシリーズとも最終的なひび割れ状況は、各試験体ともほぼ同様である。いずれもほぼスタッド位置に曲げひび割れを生じ、最終的にせん断ひび割れを生じている。
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写真5.1 ひび割れ状況(2)
 
5.6.4 ひび割れ幅
 荷重とひび割れ幅の関係を図5.3、5.4に示す。図中の許容ひび割れ幅は、文献4)に示される「特に厳しい腐食性環境」における制限値(上限値)である。鋼板が引張となるケース(N−T1、 AP−T1)では、鋼板側(浮体の内側)にひび割れを生じるためにひび割れ幅が問題になるようなことはないが、終局状況でも許容値内に納まっている。
 一方、負曲げのケースでは、鉄筋側(浮体表面側)にひび割れを生じる。RCH構造では、負曲げを受ける部位のひび割れ幅の制御は鉄筋により行われているが、設計荷重は約1.8kN(高さ2.3mの実際の浮体の設計曲げモーメントから算出した荷重値)であり、十分許容値内に納まっている。
 AP−C2はひび割れ幅の制御効果をみるために、小径鉄筋を使用したものである(AP−C1とAP−C2の使用鉄筋を表5.4に示す)。図5.4から明らかなように、小径鉄筋を使用したAP−C2の方が、同一荷重に対してひび割れ幅が小さくなっており、効果が現れたものと考えられる。
 
表5.4 AP−C1とAP−C2の鉄筋の比較
ケース 鉄筋 鉄筋断面積(mm2)
AP-C1 D16x2本 398
AP-C2 D10x6本 428
 
 図5.4には次に示すひび割れ幅の計算式(文献4による)による値を合わせて示した。N−C1及びAP−C1のケースでは、計算値と実験値はよく一致している。しかし、AP−C2のケースでは計算値に比較し、実験値の方がかなり小さい。これらのことより、超軽量コンクリート(AP)を使用した場合でも既往の計算式(土木学会による)をそのまま適用しても設計上問題ないものと考えられる。
  w=k{4c+0.7(Cs-φ)}(σse+ε’csd)
k: 鋼材の付着性状の影響を表す係数。異形鉄筋の場合は1.0。
c: かぶり(mm)
Cs: 鋼材の中心間隔(mm)
φ: 鋼材径(mm)
ε’csd: コンクリートの収縮及びクリープ等によるひび割れ幅の増加を考慮するための数値
σse: 鉄筋応力度の増加量(N/mm2)
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図5.3 荷重とひび割れ幅の関係(正曲げシリーズ)
 
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図5.4 荷重とひび割れ幅の関係(負曲げシリーズ)
 
5.6.5 変形性状
 図5.5に正曲げシリーズ(N−T1、AP−T1)、図5.6に負曲げシリーズの荷重〜変位関係を示す。正曲げシリーズでは、普通コンクリートを使用したN−T1のケースに比較して、AP−T1(超軽量コンクリート使用)のケースの方が曲げ剛性が若干小さいもののより大きい曲げ靱性を示している。設計荷重1.4kNに対し、最大荷重約78kN(N−T1)、約87kN(AP−T1)程度となっており、引張側鋼板を鉄筋とするオープンサンドイッチ構造の合成構造特有の挙動を示している。なお、AP−T1の曲げ剛性が若干小さいのは、正曲げのケースでは引張側鉄筋(=鋼板)断面積が非常に大きく、圧縮側コンクリートの影響、即ちヤング率の違いが出たものと考えられる。
 負曲げシリーズでは、各ケースとも曲げ剛性を含めほぼ同様な変形性状を示した。普通コンクリート(N)と超軽量コンクリート(AP)のヤング率は大きく異なるが、コンクリート断面に比較して、圧縮側鋼板の断面積が非常に大きいためと考えられる。
 
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図5.5 荷重〜変位関係(正曲げシリーズ)
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図5.6 荷重〜変位関係(負曲げシリーズ)
5.6.6 終局曲げ耐力
 曲げ引張破壊を生じたケース(N−C1、AP−C1、AP−C2)模型の曲げ耐力を、次の仮定に基づいて算出した。すなわち、引張側鉄筋は降伏、圧縮側コンクリート及び鋼板は降伏していないという条件のもとに耐力を算定した。なお、コンクリートの引張抵抗は無視した。以下の計算は、ケースAP−C1について示す。
 材料の強度、ヤング係数は次の結果を用いた。ただし、鋼材のヤング係数は、2.1×105[N/mm2]とした。
・鋼板(SS400、圧縮)、 fyd=362.4[N/mm2]、As=1500[mm2
・鉄筋(SD295A、引張)、 fyd=357.3[N/mm2]、A’s=398[mm2
・コンクリート  f’c=36.6[N/mm2]…超軽量コンクリート(AP)
  35.2[N/mm2]…普通コンクリート(N)
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図5.7 断面の応力・ひずみ分布と等価応カブロック(負曲げ)
 引張側鉄筋は降伏していると仮定する。鉄筋の降伏ひずみは、
 
   εsu=f’yd/Es=357.3/2.1x105=0.0017
 
 このとき、圧縮縁コンクリートのひずみεc、応力σc、鋼板のひずみεsc及び応力σscは、
 
   εc=εsc=xεsu/(d−x)=0.0017x/(d−x)
   σc=Ecεc=1.51×104×0.0017x/(d−x)=25.7x/(d−x)
   σsc=Esεsc=2.1×105×0.0017x/(d−x)=357x(d−x)
 
 コンクリートの圧縮合力は、
 
   C=σc×x×b/2=25.7x/(d−x)×x×250/2=3212.5x2/(d−x)
 
 引張鉄筋の合力は、
 
   T=As×fyd=398×357.3=1.42×105 [N]
 
 圧縮鉄筋(鋼板)の合力は、
   C’=A’s×σsc=1500×357x/(d−x)=5.36×105x/(d−x) [N]
   C+C’−T=0 とおいて中立軸xを算定する。
     C+C’−T=3212.5x2/(d−x)+5.36×105x/(d−x)−1.42×105=0
 
 方程式を解いて、x=15.6 [mm]
 従って、
 
 C=3212.5x2/(d−x)=1.21×104 [N]
 C’=5.36×105x/(d−x)=1.30×105 [N]
 Tを基準にMuを算定する。
 
   Mu=(80−1/3x)×C+77×C=(80−5.2)×1.21×104+77×1.3×105
     =1.09×107 [N・mm]
 よって、求める曲げ耐力は
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以上、他のケースの計算結果を実験値との比較で表3.3に示す。
表5.5 終局耐力の実験値と計算値の比較
ケース 実験値Pue(kN) 計算値Puk(kN) Pue/Puk
AP-C1 29.8 25.6 1.16
AP-C2 30.7 26.0 1.18
N-C1 29.0 25.5 1.14

 いずれのケースも実験値がやや計算値を上回っているが、実験値と計算値は良好な対応を示しており、上述の終局時の断面の仮定で曲げ耐力を評価できることがわかる。
3.5 まとめ
(1) 比重1.5程度、圧縮強度35N/mm2程度の超軽量コンクリートの中性化、透水性及び塩化物浸透性等の特性は、ほぼ同じ程度の強度を有する普通コンクリートに比較して、非常に高い抵抗性を示すことが明らかとなった。超軽量コンクリートでは、骨材の弱さをカバーするために水セメント比を小さくしてセメントマトリクスの強度を上げており、組織が緻密になったためと考えられる。
 
(2) 超軽量コンクリートを使用したRCH梁の強度は、同等の圧縮強度を有する普通コンクリートを使用したRCH梁の強度と比較して同等以上の強度を示した。
 
(3) 同様に、ひび割れ幅についても普通コンクリートと比較しても過大になるようなことはない。また、同一鉄筋量でも小径の鉄筋を数多く使用することにより、ひび割れ幅をより小さく抑えることができるものと考えられる。
 
参考文献
1) 石川他、軽量細骨材と砕石を用いたコンクリートの基礎的研究、軽量コンクリートの性能の多様化と利用の拡大に関するシンポジウム論文集、日本コンクリート工学協会、2000.8
2) 土木学会、平成11年版コンクリート標準示方書「施工編」一耐久性照査型一改訂資料
3) 横田他、高性能軽量コンクリートによる港湾構造物建造に関する考察、軽量コンクリートの性能の多様化と利用の拡大に関するシンポジウム論文集、日本コンクリート工学協会、2000.8
4) 土木学会、コンクリート標準示方書設計編、平成8年制定








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